ようこそ、一条家へ

如月はづき

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23.柚子はスパイ②

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 極秘資料の部屋の隣の部屋は、厚手のカーテンで締め切られていた。



「ちょ、暗いなぁ……。柚子ちゃん?大丈夫?」



「ふふ……こんなこともあろうかと!」



 私はポケットに忍ばせていた小さめのライトを点けた。準備ええなぁ……なんて、光くんの呟きを背に真っ暗な部屋を進む。本棚がたくさん並び、その影に隠れるように木箱が置かれている。箱多いなぁ……中身見てみるか。しゃがんで床に置いてある、箱の蓋を開けて言葉を失った。



「柚子ちゃん?あ、おったおった。急に静かにならんといて……どないしたん?」



 光くんの声かけにハッとする。私は迷わず箱の中身を取り出した。



「みて!拳銃だよっ!すごーい、重い!」



 中に入っていたのは、黒くて重たい拳銃だった。本でしか見たことなかったーーこの国で公式にこれを持つことが許されているのは騎士団の上層部だけだ。すごいっ!本物だぁ!とりあえず持ってみると、想像以上に重い……でも一度はやってみたかったから構えてみる。



「ちょっ……!柚子ちゃん!危ないって!!」



 珍しく光くんが大きな声を出して駆け寄ってくる。私のすぐ後ろにしゃがんだ彼は、拳銃を持つ手をその大きな手で包み込んだ。キョトンとして光くんの顔を見る。



「弾とか入ってたら危ないで?」



「あ……。そっ、それもそうだねっ!」



 光くんが私の手から拳銃を取って、箱にしまう。後ろから抱きしめられたみたい!な姿勢になっていたことに気づいて、紡ぐ言葉が拙くなる。



「光くんは……撃ったことある?」



「……ないよ!この国で撃ったことある人なんて騎士団くらいやろ」



「そうだよね。……じゃあなんでここに拳銃あるの?」



 公式では騎士団しか持っていないはずの拳銃が何故ここにあるんだろう。もちろん一条家は国の大貴族だから、ある程度自衛する必要がある。修斗くんは剣術に優れているーーと聞いたことがあるような気がするし、育も護身術は扱えるらしい。この前の誘拐事件を踏まえると、立花さんや深雪さんも剣を扱えるだろう。



「……そりゃ、公爵家やから……。そう言われると、誰が扱えるんやろうなぁ」



「謎じゃない?それに……拳銃持ってていいのかな?許可取ってるのかなぁ」



 隣の箱もその隣の箱も、蓋を開けると全部に拳銃が入っている。謎が深まったところではあるけど、そろそろ時間だ。誰にも見つからないように3階から退散する。







「うーん……」



 達筆すぎて読めない機密文書に、非公式に持っていると思われる拳銃……。昔のアルバムとか、隠されている美味しい食べ物とか、そんな呑気な物を見つけに行ったはずなのに。私が知らないだけで、この一条家には何か隠された秘密があるのだろうか。もし、その秘密があるとしたら誰がそれを知っているんだろう。



「柚子ちゃん?おーい、手が止まってるよ?」



 目の前で誰かの手が右へ左へ動いていた。声をかけられて顔を上げると、立花さんが立っていた。



「うわぁっ!びっくりしたぁ!」



「それはこっちのセリフだよ。柚子ちゃんずっと同じところ掃除しているし、声をかけても返事がないし……。何かあったの?」



 3階の謎について……立花さんなら何か知ってるかもしれない。聞いてみようと思ったけど、勝手に機密文書を見たこと更には拳銃を持ったことを伝えたら怒られそうだ。ましてお姉ちゃんに伝わってしまったら……卒倒するだろう。



「うーん。何もないと言えば、何もないけど。何かあったと言えば何かあったの。柚子は難しいお年頃なの~」



「難しいお年頃かー。そっかそっか」



 適当に誤魔化してやり過ごそうとするけど、なんとなくモヤモヤする。勤めているお屋敷の秘密を暴くことについて、執事長としてどう思うだろう……。



「立花さんは、もしもお屋敷に重大な秘密があるかもしれないってなったら、どうする?」



 一瞬ポカンとした表情を浮かべた立花さんは、次の瞬間にはいつもの笑顔になっていた。



「読んでる本か何かの影響かな?」



「あ、うん!そう!ずーっと前に友達に借りた本読んでるの!……で、どう?」



「そうだなぁ。僕ならその秘密を知りたいかな。……ミステリー小説ならその辺りの秘密を暴く展開が面白そうだね」



「立花さんも秘密を暴く派ってこと?」



「そうだね!何も考えないで読み進めるよりは、考えて秘密をどうにかして暴いて読み進める方かなぁ。そんなことしてると、寝るのが遅くなっちゃうけどね」



 そうか!立花さんも秘密暴く派なら問題はない!私もこの屋敷の秘密を暴いてみせる。



「そっか、ありがとう!柚子頑張ってみる」



 なんとなく話が噛み合っていないような気もしたけど、立花さんに背中を押されたような気がした。ますますやる気になった私はとりあえず掃除を再開したのだった。
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