65 / 72
7
63.最後の夜に side風見育
しおりを挟む「育。……今夜、午前1時に玄関だそうだ。意味わかるな?」
浴室に向かうと、入れ違いになった修斗くんから声をかけられた。
「わかったよ」
手短に返事を返して脱衣所のドアを閉める。ーー今日なのか。お風呂に浸かりながら僕は考えていた。使用人に問題があって家から出される時は深夜1時、玄関から見送られると噂には聞いていた。けれど、この一条家で生まれ育って18年間こんな事態が起きるなんて。柚子には知らされているんだろうか、望月はどこに行くのだろうか、この問題はどこまで知られているのだろうか。
その昔、どこか忘れたけれど公爵家で大問題が発生した時は、翌日から屋敷に新聞記者が詰めかけて大変だったと聞いた気がする。ーー騒がしくなるのか。柚子も騒がしくなってもらいたいな、ここ数日空元気の昔馴染みを思い出して僕は頭までお湯に浸かった。
深夜1時に玄関ーーとは言われたけれど、僕にはどうしても気になることがあった。柚子は来るのか、そしてご当主様と望月の間で何が交わされるのか。絶対にやってはいけない事だけれど、僕は2階への階段を登る。日付が変わるか否かと言った時間だ。柚子の部屋をこっそり開けると真っ暗で寝静まっている様子だった。やはり、知らされていないのか。廊下を進みご当主様の部屋、結衣ちゃんの部屋の前を通り過ぎて客室前の柱に隠れる。僕の予想だと出発前に、ご当主様の部屋で望月に何らかの話がされるはずだ。
ふーっと息を吐き出した所で、廊下の電気が点いた。階段の方を見ると修斗くんで と、望月を連れた深雪さんが歩いて来る。3人はご当主様の部屋へ入って行った。僕はすぐに扉の前に移動して聞き耳を立てる事にした。
「夜分にご苦労だった。今夜は冷えるな」
ご当主様の声が聞こえる。
「……問題を起こした使用人が家を出るのは、深夜1時と決まっている。これがこの国の慣例だ。……望月、君への処分が決まった。短い間だったが、この屋敷でーー」
「そう言うのはもうええ!はよ、処分とやら聞かせてもらおうか?」
ご当主様の話を望月が遮った。ぶっきらぼうな言い方も、見えないけれどその表情も僕が接した彼とは違う人のようだった。
「……そうだな。この件については王宮及び騎士団へ報告済みだ、もちろん君の以前の雇い主四元男爵家にも。そして、これは一条家内部の問題として処理をする事になった。君への処分はーー大陸追放とする」
大陸追放ーーそれはかなり重い罪だ。この大陸は4つの国があるから、国外追放はたまに聞くけれど……。それを超えて大陸を出るなんて。最も柚子を傷つけた事を考えれば仕方ない。でも、ただの使用人に対して……。
「北の国の港までは深雪が送ってくれる。早急に荷物をまとめるように。……望月、短い間だったが、この屋敷に勤めてくれた事を感謝する」
ご当主様の声を最後に会話は終わったようだった。望月は深雪さんに連れられて自分の部屋に入った、物音がしたから荷物をまとめているのだろう。少しすると鞄を持った望月が出てきた。
「忘れ物はないな」
冷たい声だけど、どこか泣きそうな声で修斗くんが言った。
「元から何もない」
キッと修斗くんを睨んだ望月が見えた。部屋の扉が閉まる時、彼は柚子の部屋を切なそうに横目で見ていた。
「忘れ物あるよ」
思わず口から出た僕の言葉は、思ったより廊下に響いた。
0
あなたにおすすめの小説
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる