ようこそ、一条家へ

如月はづき

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63.最後の夜に side風見育

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「育。……今夜、午前1時に玄関だそうだ。意味わかるな?」

 浴室に向かうと、入れ違いになった修斗くんから声をかけられた。

「わかったよ」

 手短に返事を返して脱衣所のドアを閉める。ーー今日なのか。お風呂に浸かりながら僕は考えていた。使用人に問題があって家から出される時は深夜1時、玄関から見送られると噂には聞いていた。けれど、この一条家で生まれ育って18年間こんな事態が起きるなんて。柚子には知らされているんだろうか、望月はどこに行くのだろうか、この問題はどこまで知られているのだろうか。
 その昔、どこか忘れたけれど公爵家で大問題が発生した時は、翌日から屋敷に新聞記者が詰めかけて大変だったと聞いた気がする。ーー騒がしくなるのか。柚子も騒がしくなってもらいたいな、ここ数日空元気の昔馴染みを思い出して僕は頭までお湯に浸かった。



 深夜1時に玄関ーーとは言われたけれど、僕にはどうしても気になることがあった。柚子は来るのか、そしてご当主様と望月の間で何が交わされるのか。絶対にやってはいけない事だけれど、僕は2階への階段を登る。日付が変わるか否かと言った時間だ。柚子の部屋をこっそり開けると真っ暗で寝静まっている様子だった。やはり、知らされていないのか。廊下を進みご当主様の部屋、結衣ちゃんの部屋の前を通り過ぎて客室前の柱に隠れる。僕の予想だと出発前に、ご当主様の部屋で望月に何らかの話がされるはずだ。

 ふーっと息を吐き出した所で、廊下の電気が点いた。階段の方を見ると修斗くんで と、望月を連れた深雪さんが歩いて来る。3人はご当主様の部屋へ入って行った。僕はすぐに扉の前に移動して聞き耳を立てる事にした。

「夜分にご苦労だった。今夜は冷えるな」

 ご当主様の声が聞こえる。

「……問題を起こした使用人が家を出るのは、深夜1時と決まっている。これがこの国の慣例だ。……望月、君への処分が決まった。短い間だったが、この屋敷でーー」

「そう言うのはもうええ!はよ、処分とやら聞かせてもらおうか?」

 ご当主様の話を望月が遮った。ぶっきらぼうな言い方も、見えないけれどその表情も僕が接した彼とは違う人のようだった。

「……そうだな。この件については王宮及び騎士団へ報告済みだ、もちろん君の以前の雇い主四元男爵家にも。そして、これは一条家内部の問題として処理をする事になった。君への処分はーー大陸追放とする」

 大陸追放ーーそれはかなり重い罪だ。この大陸は4つの国があるから、国外追放はたまに聞くけれど……。それを超えて大陸を出るなんて。最も柚子を傷つけた事を考えれば仕方ない。でも、ただの使用人に対して……。

「北の国の港までは深雪が送ってくれる。早急に荷物をまとめるように。……望月、短い間だったが、この屋敷に勤めてくれた事を感謝する」

 ご当主様の声を最後に会話は終わったようだった。望月は深雪さんに連れられて自分の部屋に入った、物音がしたから荷物をまとめているのだろう。少しすると鞄を持った望月が出てきた。

「忘れ物はないな」

 冷たい声だけど、どこか泣きそうな声で修斗くんが言った。

「元から何もない」

 キッと修斗くんを睨んだ望月が見えた。部屋の扉が閉まる時、彼は柚子の部屋を切なそうに横目で見ていた。

「忘れ物あるよ」

 思わず口から出た僕の言葉は、思ったより廊下に響いた。

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