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64.赤薔薇の花言葉side風見育
しおりを挟む僕の言葉に全員が振り返った。
「お前……いつからそこに」
想定外の事を嫌うのが修斗くんだ、僕の登場に動揺している様子が伺えるけど、修斗くんに構っている暇はない。
客室前の花瓶から薔薇を1輪引き抜いて、ツカツカと望月へ歩み寄る。
「……意味わかるよね?柚子は」
柚子だって、君のことが好きだよーーそう言いかけて飲み込んだ。こう言うのは本人の口からきちんと伝えるべきだ。
クリスマス観劇の日、きっと柚子は望月への気持ちを自覚したんだろうと思った。その前からこっちにはバレバレだったけれど。そして望月もまた同じだったと思う、2人の間の空気が少し変わっていった。
僕から渡された薔薇を、望月は震える手で掴んだ。その瞳は今にも溢れそうな涙で潤んでいた。目が合った時、僕は大きく頷いた。僕の知る優しくて少し抜けている望月の目だ。ご当主様と望月の目が合った時、ご当主様は小さく頷いて微笑んだ。そして僕の名前を呼んだ。2人の別れに立ち会えと言うことなんだろう。
そっと柚子の部屋の扉を開けて、望月と2人中に入る。僕は少し離れて2人を見守る事にした。柚子はこんな騒ぎでも寝ているようで、望月が近づいても布団は動かなかった。
「柚子ちゃん……」
小さな声だけれど、静まり返った夜によく響いた。柚子を見つめていた彼がぎゅっと目を閉じるーー別れの瞬間が迫る。
彼はそっと柚子の布団をかけ直して、思いを込めるように赤薔薇を握った。それを枕元に置いた、僕には聞こえない声で何かを告げて。
「風見、ありがとう」
「うん」
僕の元に彼が戻ってきて、2人で柚子の部屋を出た。
赤薔薇の花言葉は、愛情。
いろんな花言葉があるけれど、一条家ではこれが共通認識だ。
だからーー、大切に思っている相手に渡すのは、一条家の赤薔薇なんだよ。そんな大切な薔薇を育てる庭師の仕事はとても名誉ある仕事さ。そう言って笑った庭師をしていた父の姿を思い出した。
望月は、一条家の赤薔薇にどんな想いを乗せたんだろう。僕の育てた薔薇が別れの花になってしまったけれど、愛情の花言葉よりもっと強い気持ちを彼は花に込めたとと感じた。……柚子にその気持ちが、きちんと届けば良いな、いや……ああ見えて人の気持ちには敏感な所があるからな。きっと望月の想いも分かるだろう、そう願わずにいられなかった。
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