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【第1章】初めて、恋を始めます
5話 あの言葉が本当なら…
しおりを挟む洗面台の水道を全開にして、何度も顔を洗う。
「ひどい顔だぁ……」
涙の痕は消えたけど、まぶたが赤く腫れ上がっている。
これじゃ、腫れが引くまでしばらくお店に顔は出せない。看板娘がこれじゃね……。
我ながら情けないと思うよ。祐介君だって、恥ずかしいのを堪えて言ってくれたのに。
私だって何か答えてあげないと申し訳ない。
「でも……、どう答えればいいのよ……」
蛇口を締めて、床にぺたんと座り込んだ。
「桜、桜っ! どこにいる!」
お兄ちゃんだ。恥ずかしい。あんなところ見せちゃったし、まだ私の顔は酷すぎる。
でも、この家を隅々まで知っているお兄ちゃんから隠れる場所なんてない。すぐに見つかってしまった。
「桜……」
「お兄ちゃん……」
私を見つけて、お兄ちゃんの顔に安堵の表情が浮かんでいる。
「よかった。どっかに行ったのかと」
「こんな顔です。どこにも行けません……」
お兄ちゃんは私の前にしゃがみこんで、頭をぽんぽんと叩いてくれた。
「桜は、桜でいいんだ」
「えっ? お兄ちゃん……」
気がついたら、私はお兄ちゃんに抱き付いて、声を殺して泣いていた。
「桜……、焦るな。お前は桜だ……。あいつらじゃない」
「でも……」
「高三で恋愛未経験だって、全然恥ずかしいことなんかじゃない。それだけ桜が自分の気持ちを大事しているということだ」
え、そんな見方をしてくれるの……?
「本当に……?」
「桜の前で俺が間違ったこと言ったことあるか?」
「ううん。無いです」
ようやく落ち着いて、顔を上げた。
「いいか桜、お前はそのままでいいんだ。自信持っていろ」
「はい。でも、いつまでもだと、私は誰のお嫁さんにもなれないです」
「その時は俺がもらってやる。心配すんな」
「えっ!?」
びっくりした。本気で言ってる?
「冗談だ」
でもさっきの一瞬、その顔は真剣だったよね。
「酷いです。あのぉ、お兄ちゃん、明日は暇ですか? 水着買いに行きたいです」
さっきの打ち合わせ。私は良くても、他のみんなには全部の時間を打ち合わせにはあてられない。結局は海で遊ぶ時間が取られた。
「ごめん、明日は親が帰ってくるんで、ちっと悪い」
数分前とは違って、今度は本当にすまなそうな顔。
きっと私の水着姿を見られない方にも何割かはその残念モードが混じっているに違いないけどね。
「うん。大丈夫です。一人で行ってきますね」
「桜……」
「大丈夫。一人でお買いものくらい行けますし。あと、さっきはありがとう……」
私はその先の言葉をぐっと飲み込んだ。
「おやすみ桜」
「おやすみなさい」
お兄ちゃんをお店のドアへ見送って扉を閉める。
「お兄ちゃん、本当だったら嬉しかったよ……」
部屋への階段を登りながら、口に出してみる。
「おやすみなさい」
私はさっきの言葉を一つずつ思い出しながら夢に入っていった。
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