鳥籠にぬくめ鳥〜スーパー攻め様と愛玩少女がツガイになるまで

タケミヤタツミ

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一章:鷹の爪に捕らわれる

05:鷹

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「初めまして、ご挨拶が遅れて申し訳ありません……倉敷鳶之助とびのすけの娘、雛子と申します」

改まった場でこそ雛子の無表情は凛として見える。
名乗りは水のように澄んだ声で明瞭に。

ただ、目の前の男は訝って視線を突き刺すばかり。
張り詰めた部屋の空気で流石に少し息苦しい。
居心地の悪さを顔に出さないまま、密かに雛子は深呼吸した。


名門私立冠羽女学園は厳しい進級試験はあれども中学から高校まで一貫。
菫色のワンピースもデザイン違いながら中高共通の制服で、すっかり雛子も着慣れてしまった。
そうして高校二年生に進級して、当主が一ヶ月ほどの海外出張で不在にしていた四月末のこと。
来客というか一人の男が屋敷に帰ってきた。

これが件の「父親と不仲で、家を出た成人済みの一人息子」である。


年は二十代前半で、名を最上鷹人たかとという。
寮付きの高校へ進学してから碌に家へは帰らず、今は一人暮らしで最上の関連企業に勤めているらしい。
ここに顔を見せたのも何年ぶりかの話。

無造作な髪は光の加減で仄かに赤みの茶系になり、栗色といったところ。
太めのツリ眉に垂れ気味な切れ長の目で意志の強そうな顔立ち。
背が高く筋肉質で父親と同じく浅黒い肌だが、どことなくしなやかな雰囲気だった。
少し気になる点といえば、家の中だというのにきっちりスーツを着込んだ上にチェスターコートを脱ごうとしない。

まるで冬の装いだが仕方あるまい。
北海道の春は短く、もうすぐ五月だというのに肌寒い。
晴れた空の下ならまだしもこの屋敷は妙に冷え込み、朝晩は特にブランケットが無いと厳しかった。


海外留学へも行っていたので冠婚葬祭も欠席していたりと、ここ十年ほどで帰ってきたのは数える程度。
今回も実家に置いてきた物が仕事で必要になったとかで立ち寄っただけの筈だった。
故に、自分の家なのに現状の最上家のことは人伝で聞いたという妙な状況。
流石に雛子の存在を知っては黙っていられまい。

多忙を理由に家庭を顧みなかった父親がわざわざ身寄りの無い娘を引き取って、使用人という名目だった筈が待遇はまるでお嬢様。
客間の一つを個室として与えられ、運転手付きの車で名門校に通わせてもらっているのだ。

実際は「昼は淑女、夜は娼婦」の人形遊びでも。
登下校の送り迎えも、あれはケースに入れられて持ち運びされているだけ。


書斎の暗闇で雛子も鷹人の話だけなら聞いていた。
「美しい物にしか興味が持てず、良き夫、良き父親になれなかった」と。
ただ、あれは当主にとって懺悔でも後悔でもない。
背負わなくてはいけない重荷に疲れただけで、我が身を嘆いていただけの戯言。

鷹人は知らなくて良い、知らない方が良いこと。

しかしながら何も知らないからこそ、実子からすれば末端分家の娘が可愛がられているなど気に喰わないのも当然の話。
罵倒の一つでも飛ばされるかとつい雛子は身構える。
嫌味くらいなら可愛いものと受け取っておこう。


「倉敷家の娘、な……うちの親父はお前にとって父親じゃないのか?」
「いいえ……そんな、恐れ多いです……」

雛子が首を横に振れば、鷹人の視線は緩まないまま瞼が半分落ちる。
そうか、とだけ零されて話は終わり。

こうして初めて雛子が鷹人と顔を合わせたのは木曜の夜のことだった。
妙な威圧感や緊迫感を匂わせながらも、この時は飽くまでも穏便に切り上げられたと思う。

もう遅いことだし、鷹人も父親が不在ならと夕食を取って寝泊まりしていくことを決めていた。
ここからでも職場は遠くないので車があれば余裕。
雛子とは明日の朝に出る時間も違い、広い屋敷ではもう顔を合わせずに済むだろうと。



それから、事が起きたのは翌日の夕方だった。

今日は華金、四月の終わり。
土日が明けても月曜からGWを控えて長い連休になる。
クラスメイト達はどこかへ行くと楽しそうにしていたが、本や映画があれば一人で過ごせるので雛子も手当たり次第に創作物の世界に浸るつもりだったのに。


学校から帰宅して早々、使用人達へ挨拶もそこそこに雛子は廊下を小走りしていた。
正直、そろそろ尿意が迫っている。

登下校は車なので一度乗ったら屋敷まで止まらない。
そもそも寄り道も許してもらえず、我慢出来る程度なので黙っていたのだが。
車の座席から立ち上がったら急に催してきてしまった。

自室にも小さい風呂やトイレが備わっていたが、廊下の端にある家人や客用の方が近いのでそちらを使うことにした。
使用人用のトイレは他所にあり、当主も留守の時には客も来ないのでこちらは使う者も少ないだけに清潔で静か。
ゆったりと広めに造られており、すぐ横の壁に手洗い場まで設置してあるので使い勝手が良い。


そういう訳で、雛子も少し急いでいたので視野が狭くなっていたと思う。
トイレのドアを開けた、その無防備な背中。
突然のこと誰かに突き飛ばされて中へ転がり込んだ。
振り返る前に、鍵の音。

咄嗟に便座の蓋へ手を着き、大してダメージは受けず。
それより悪意を向けてきたのは誰か。

雛子と向き合ったのは栗毛にスーツの若い男。
てっきり女中の誰かかと思ったが、そこに居たのは鷹人だった。
昨日よりも冷ややかでどす黒い雰囲気で。
はて、帰ったのではなかったのか。


「……娼婦」

急に雛子を引き寄せて、すぐ耳元。
男は暗く静かな低音を吹き込んできた。


「お前のことをそう呼んでいた女中が居た……親父と寝てるんだよな?」

反射的に雛子も奥歯を噛んだが、青くなるようなことでもなかった。
そうか、当主と雛子の関係を誰かが喋ってしまったか。

最上家の使用人達は高い忠誠心で長年仕えており口が堅い。
ただ、それは外部に漏らさないということ。
雛子にとって当主は悍ましいだけの男だが、最上家の長としての能力は高いので心酔している女中も居る。
それだけに小娘に入れ込んでいる姿を快く思っておらず、揉め事も二度三度。
なので、突き飛ばされた時もまた小さい嫌がらせかと思ったのだが。


「それもそうか、今更あの男が良いパパやってる方が冗談みたいな話だろうよ……」
「……その話、後ではいけませんか?」

内緒話なので密室でなければというのなら納得。
ただ、時間や場所を弁えてほしい。
こっちは用足しでここに来たのだと、言わなければ分からないのだろうか。

今度こそ侮辱を浴びせられるなら、別に逃げたりしないので早く出て行ってほしい。
そう思っていたのに。

先程強く引き寄せられてから、やたら近い距離。
雛子の肩を捉えた手は緩んだが離してくれる訳ではなかった。
這うようにゆっくりと下へ。
そうして、いきなり制服越しに乳房を掴んだ。


「ん……っ、い、痛いです……」
「親父が留守なら家主は俺だ、相手しろ」

ああ、あなたもか。

年を重ねても性欲を持て余す当主を化け物だとは思っていたが、その息子も化け物。
鷹人の目付きや全身から匂い立つ情欲と加虐欲には覚えがあった。

それも獣の息遣いで分かりやすく滾っているならまだ良い。
鷹人の命令は酷く棘だらけで、憎しみにも似た感覚。
その冷気の裏に隠された激情が何なのか雛子には察しなら付いていたが。
きっと、これから暴力的に犯されるのだろう。


娼婦とはよくある蔑称だが、好き好んでやっているものか。
こんなこと雛子は自分が選んだ訳じゃない。

祖父母に厄介払いされ、勝手に親戚の大人達に決められ、当主の人形遊びでここに連れて来られた。
監視付きで屋敷に閉じ込められている身。
いっそ「出て行け」と言われるなら勢いのまま飛び出してしまいたいくらい。


いや、それより今は肉体的な限界が刻々と迫っている。
トイレの中でまで尿意を我慢していて妙な状況。
この後、何をされるかなんてどうでも良いくらいに考えが纏まらず。

「分かりましたから……その、外で待ってて……」
「相手しろって言ってるだろ、今ここで」

蓋を上げた便座に座らされて、制服のスカートの中に無遠慮な男の手が潜り込む。
掴み取られたショーツが一気に引き下ろされる。
あまりにも急で理解が追い付かないまま、膝頭まで割られた。

「小便するところ見せろ」

飽くまでも声は荒げないが、非情な命令。
流石に今度こそ目眩がした。


立ち上がりたくても鷹人が片手で雛子の太腿を掴むように押さえ付けているので、少しも動けず。
首を横に振っても許してはくれない。

「白ね……この下着も親父の趣味か?」

その上で、今しがた脱がせたショーツを鷹人は自分の眼前に翳しながら凝視していた。
匂いを嗅ぐような近さがまた雛子の羞恥を煽る。
「返してほしい」と訴えたいのに、涙で声が詰まってうまく喋れない。

手荒く扱われるのかと思ったが間違いだったろうか。
どうやらこの男が雛子に与えようとしているのは、暴虐でなく屈辱の方。


「……ッうぁ、あ……やだ……ぁっ」

そうして、剥き出しの下腹部まで鷹人の手が伸びる。
無理やり開かれた身体を触れられた嫌悪感や恥ずかしさだけではない。
その指先は氷のようで、雛子は思わず震え上がった。
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