鳳凰の巣には雛が眠る〜かつて遊び人だった俺と慰み者だった君が恋人になるまで〜

タケミヤタツミ

文字の大きさ
51 / 57
三章:この羽根は君を暖める為に(最終章)

51:雛鳥の選ぶ名前は*(完)

しおりを挟む
鳳凰とは青桐の木に降り立ち、平安をもたらす瑞獣とされていた。
その名は「鳳」が雄、「凰」が雌を表し、つがいは愛を象徴する。

鷲に卵を割られて引き摺り出された雛はまだ何者でもなかった。
快楽に流されず自我こそ強いが、確かな傷や悲しみを抱えておりどこか危うさを隠せない。
このまま鷹に守られながら鳥籠を安住の地とする道もあったろう。
しかし雛は外へ出ることを選び取った。
この羽根が何の為にあるのか分からないままなんて嫌だと。

そうして生まれ育った地、鳳凰のもとへ帰ってきた。

自ら厚い胸に寄り添って、羽根の中で安堵を知る。
ただ懐かしむ気持ちだけなんて言わない。
冷たい鳥籠の中でずっと心の隠れ家だった場所。
運命とは違うかもしれなくとも、ここでなら暖かく過ごせると微笑む形で目を閉じる。

未熟な雛は卵を孵すような熱を欲していたのだ。
今度こそ生まれ直す為に。





「ンンっ……ぁ、ふ……うぅ……」

衣服を脱ぎ捨てて布団の上、雛子は茹でられたように全身が桃色に染まっていた。
入り口を開く為に触れてくる鳳一郎の指も唇も念入り。

ただでさえ調教で開発されて感じやすくなっている雛子は長いキスだけで蕩けてしまう。
熱くなっているのは鳳一郎だって同じこと。
舌も唾液も吐息すら絡めて吸って、一つに溶け合う。
喰らい尽くすのでなく激しくとも優しい感覚。


昨日ラブホテルで買ったばかりだったローションのボトルはまだ重い。
無骨な手にたっぷりと垂らしてから、雛子の一番柔らかな場所へ忍び込んだ。

濃桃に潤む花弁の合わせ目の上、莢を開いた珠は膨らんできたとはいえどもやはり小さい。
それでも随分と敏感になっており、とろとろの滑らかな指の腹で転がす度に雛子が背筋を跳ね上げる。
滑るまま更なる奥、双丘で慎ましやかに戦慄く蕾にも指の頭が潜り込む。
流石に恥ずかしげでも拒まれず、腰を捩るだけ。

「ほ、いちろ……も、だいじょぶだってば……ぁ……っ」

日頃は澄んだ水を思わせる声が今や蜜の甘さ。
この半年ばかりで一つずつ見つけてきた雛子のスイッチを重点的に、時間を掛けて愛撫していく。

ぱっくり開いて泥々になった花弁。
更にローションを足すと雫が柔肌を伝い落ちる感覚だけで雛子は切なくなっていた。
痛みは欠片すらも無いまま、いつもならばここで終わるところ。


「ほしぃ……」
「分かった」

駄目、と鳳一郎が答えたのは昨日までの話。
重なった会話に違う返事はとうとう未知の道を開く。
踏み込むには少し怖くて、きっと苦しい思いをさせてしまうのが疚しい。

それでも、もっと先へ二人で進みたい。



髪に肌に染み込んだラベンダーが発情の匂いと混じり合って、酒のように酔わされていた鳳一郎こそ理性が飛びそうだった。
下腹部の欲望は雄牛の角じみて天を仰ぎ、痛いほど脈動している。
我慢していたのは同じこと。

逸る手で避妊具を着けてから雛子を抱き起こす。
巨漢の鳳一郎が上になってはやはり潰してしまいそうなので、胡座をかいた膝に乗せる形になる。
不安材料は一つでも少ない方が良い。

ゴム越しにもぬるぬるで潤滑液は万全。
雛子が膝を割って跨ぎ、雄の切っ先を花弁へ宛てがった。

「ん……っ、やっぱ、大き……ぃ……」

頑強な両肩に小さく爪を立てながらゆっくりと腰を落としていく度、熱で柔らかくなっていたとはいえども狭い道が抉じ開けられる。
痛いのか苦しいのか愛おしい雛子の顰め面に、引き絞られる圧迫感。
行き止まりまで鳳一郎は動けず、呑み込まれていく。

無理やり突き刺してしまいたいなんて野蛮な欲は奥歯で噛み殺した。
ここは幾度となく男達に蹂躙されてきた雛子の傷口。
泣かせたいのではない、愛したいのだ。


「本当に大丈夫か?」
「やめないで……っ鳳一郎がイくまで、してよ……」

受け入れられるか五分五分だった可能性は結果が出た。
鳳一郎の腿に雛子の尻が落ちて、完全な密着。
一つになれて嬉しいだとか、そんな乙女チックに浸れるほど彼女は夢見がちでない。
それでも涙目で太い首にしがみつきながら健気に要求してくる。

溶け落ちそうに潤んで光が揺れるブラックコーヒーの双眸。
半ば意地だろうが、ここまで来たら乗っても良い。
互いに呼吸が整うまで待ってから緩やかに腰を使い始めた。

「ひぁッ、奥ぅ……当たっちゃ……ッやぁ……」

丸々と実った乳房はこの程度でも重たげに揺れて、押し当たると蕩けるように熱い。
深々と太い杭を打たれて何もかも無防備になっている雛子も次第に慣れてきているようにも見えた。
だらしなく涎を零す淫らな唇で鳳一郎にキスを求めて自ら深く溺れようとする。

ただでさえ狭いというのに、そうやってひっきりなしに締め上げられては堪らない。
もう少し、もう少しと惜しむ気持ちを握りながら鳳一郎も達した。


大人の男と荒々しく腰をぶつけ合うのが強炭酸水じみた快楽なら、雛子との情交は砂糖を溶かした熱々のコーヒーを飲み干すことに近い。
苦くて、甘くて、頭の芯から腹の中までも響く温度。
とびきり刺激的で高揚するのに、そのくせ落ち着きをもたらす。
どちらかといえばコーヒーは苦手だったのに。
自分でもどうにも出来ず、訳が分からぬまま惹かれる。

こういう恋なら鳳一郎も初めてかもしれない。
振るのも振られるのも慣れているのに、どうしても冷めてほしくなかった。





初めの一歩は慎重に踏み止まる。
終わった後の気怠さを労って雛子の頭を撫でて、ゆっくりと穏やかになる呼吸を聴きながら共に横たわっていた。
ふわふわの金髪は汗で甘く香り立って指に絡む。

大人と子供のような体格差を埋めるにはまだ試行錯誤が必要。
鳳一郎と最後まで出来ただけ大したものだ。
とりあえず憂いは晴れた。
これから回数を重ねながら慣らしていくことを考えると、苦労は伺えるが愛おしい気持ち。

一度結ばれたら終わりでない。
これはまだ始まり。


「悪魔のように黒くて、地獄のように熱くて、天使のように純粋……って、続き何だっけか?」
「そして恋のように甘い」

雛子の唇が吹き掛けた風で記憶から埃が飛んだ。
そうだ、あの喫茶店は倉敷母子とのお茶会でよく連れて行かれていたのだっけか。

メニューでコーヒーの詩を眺めながらも、いつもデザートのページまで飛んだものである。
チェリーとカラースプレーがレトロな佇まいのパフェは子供にとってお菓子の塔のように大きくて、よく雛子と分け合った。
鳳一郎にとってパフェが特別なのはそこから始まり。

先日、店の前を通った時はまだ営業していた筈なので雛子を誘ってみようかと思う。
そういえば、その隣には自転車屋があった。

「次の週末な、自転車買うの付き合ってくれるか?」
「私も欲しいかな、乗るの小学生以来だけど」
「乗れるようになったの、雛子の方が先だったな」
「鳳一郎、公園で練習した時に凄い派手に転んだよね。もう膝に跡残ってないみたいだけど覚えてる」

そうして取り留めなく過去の話、未来の話。
重ねていけばいつかは全て思い出。

「私は髪切りたいかな、とりあえず肩くらいまで」
「俺は短い方が見慣れてたけど、もう男には見えねぇだろうなぁ……」
「ん……変かな……?」
「いや……雛子は凄く綺麗になったな、これから大人になったらもっとイイ女になるだろうよ」

かつて少年のような姿だった雛子は美しい娘に成長した。

両性愛者の自覚こそあったが、鳳一郎が女を好きになるのは初めてだ。
生まれるよりもずっと前から繋がりはあったのに、こんなにも心を奪われるとは思わなかった。
共に過ごしてきて知っていた少女のことは一部に過ぎず、変わり続ける様を最も近くでいつまでも見ていたい。

どうか最後の恋でありますようにと密かに願うのは気が早いだろうか。
自分のものになってほしいなんて我儘は言わない。
もうどこにも行くな離れるなと縋る代わり、いつまでも共に歩いて行きたいと。


「雛子……あー、その……」

こんな時、どんな台詞が相応しいのだろうか。
好き?愛してる?
ありがちなものではどれでも足りず、何より自分らしくない。
答えは鳳一郎の頭でなく胸の中にあった。

「……ありがとうな、俺のこと選んでくれて」


そうして鳳凰の番は眠りに落ちる。

情交の甘い後味と浮遊感が酷く心地良い。
空を飛ぶ夢でも見られそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...