鳳凰の巣には雛が眠る〜かつて遊び人だった俺と慰み者だった君が恋人になるまで〜

タケミヤタツミ

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二章:冷たい鳥籠(雛子過去編)

09:破瓜*

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北海道には日本家屋が無いという。
明治時代に西洋文化の流入が激しく、雪の降る寒冷地では洋風建築様式の方が向いているので三角屋根ばかり。
観光地を含めて今も西洋風の歴史的建造物が数多く残っていた。

それにしてもまだ十一月だというのに小雪がちらつく洋館なんて情緒がありすぎて恐ろしい。
灰色の曇天、黒い屋根に頑強な煉瓦造りの不穏さに真白が映える。
つい最近、鳳一郎に貸してもらった探偵物の漫画で連続殺人事件の舞台がこんな感じの洋館だった。
血みどろサスペンスでも始まる予感すら。

そんなことを考えながら、コートを着込んだ中学生の雛子は無表情のまま屋敷を見上げていた。
辛うじて守った私物を詰めた旅行バッグ一つだけ提げて。


父方の本家だというこの最上もがみ家は北海道のみならず本州でも各種企業に学校や病院の設立にと手広く活動する、かの有名な最上グループの頂点。
本格的に開拓が始まった明治に富を得た旧財閥で、その歴史は令和まで脈々と続いている。
要するに嘘のような途方もない大金持ち。

現在、最上家の当主は最上大鷲たいじゅ
妻は数年前に亡くして、不仲だという一人息子はもう成人しており家を出た後。
使用人は複数居ても、この大きな屋敷で「住人」としては当主のみらしい。

数年前の小学生の頃に一度、今は亡き両親と共に挨拶したことがあるので雛子も当主の顔なら薄っすらと覚えている。
あれは本家を支える分家の娘の結婚式だったか。
確かに倉敷家も世間一般では金持ちの部類ではあったが、更に端っこの分家なので彼らとは明確にランクが違う。


母方の祖父母は既に亡く、父方はこの件に関して本家の言いなり。
親の反対を押し切って息子と熱愛の後に結ばれた金髪の嫁や孫娘をもともと快く思ってなかったので、厄介払いにはちょうど良かったのだろう。

母の親友だった来島家のご婦人も手を差し伸べてくれたのに。
雛子が手を伸ばす前に「最上家の使用人になれば衣食住の保証はするし、大学まで通わせる」という好条件だからと、親族の大人達が勝手に決めてしまった。
こんなの守られるかどうかなど分かるものか。


今後は使用人としてシンデレラみたいな暮らしでも待っているのだろうか。
教育係の女中頭だとかが出てきて昼夜問わずいびられるのかもしれない。
それこそ憎たらしい継母や意地悪な義姉のように。
灰の中で眠るのは流石に嫌なので寝具くらいは与えてもらえたら良いが。

ちなみに、玉の輿や虐げられていた少女が幸せになる話を「シンデレラ」というのは正しくないらしい。
あれは「幸せに暮らしていた主人公が理不尽により違う世界に落ち、苦難を経て元の世界へ戻る」という物語の基礎で小公女と同じ流れ。
王子様との結婚は飽くまでも元の世界に戻る手段に過ぎないのだそうだ。

なんて考え事をしてしまうのも、単なる現実逃避。

強固な仮面を被って「物語を演じている」ということにして、本心を守る処世術。
どうせならその方が人生は楽しい。
異常な環境に於いて、適応能力の高さと図太さは武器になる。


深呼吸で覚悟を決めると頭を下げて屋敷に踏み入れた。
そんな雛子を待っていたのは予想外。
女中にコートを剥ぎ取られて連れてこられたのは広い風呂、旅館のように綺麗な浴衣の着替えまで与えられてまるでお客様の対応だった。

ここで安堵するほど雛子は呑気でなく、それどころか余計に警戒警報が頭の中で鳴っていた。
まるでジェットコースターの坂をゆっくりと登っていく気分。
ロックが掛かっていて身動きが取れず逃げ場が無い。
後は勢い良く落下するだけのカウントダウン。


準備が済んでいるという自室に案内された訳だが、足を踏み入れて早々に腕を取られて捕獲完了。

そのままベッドに引っ張り込まれればシーツの上に淡い金髪が乱れ、浴衣の裾が捲れ上がる。
この状況でも尚、暗褐色の目は観察を怠らなかった。
静かに見上げれば自分に覆い被さる当主の姿。

五十路前らしいが、前髪を上げて額を出す頭はもう残らず真っ白なので記憶や実年齢よりも老け込んで見えた。
浅黒い肌で筋肉質、ハーフリムの角張った眼鏡に鷲鼻。
口髭を貯えた薄い唇が笑みで歪んで、今にも涎を垂らしそうだった。
目つきだけでなく身体全体から情欲と加虐欲が抜き身の刃物のようにギラついている。


湯上がりに浴衣とショーツしか用意されていなかった辺りから流石に察していた。
やはり提示された条件なんて当てにならない。

当主が欲しいのは使用人などでなく、情欲の捌け口なのだと。

「折角の初物だ、沢山可愛がってやるからな……」

雛子の双眸が細められて、男の濃い影が落ちた暗褐色は闇に近付く。

嫌だと抵抗しても無駄なこと。
両親が亡くなってからというもの雛子に選択肢など奪われ続けていた。
喰われる寸前の獲物の気持ちとはこんなものか。


「んっ……く、ぅん………ふぁッ……!」

いきなり当主に噛み付かれた唇、舌を捩じ込まれて他人の唾液が流れ込んでくる。
腕を縛り上げたり押さえ付けられるまでもなかった。
男の体重を掛けられながらシーツと挟まれ、知らない味と匂いに口腔を侵されて息苦しい。

これは、何。
あまりにも乱暴でキスだとは認識出来ない代物。

ああ、こんなことならクラスの女子から告白された時に受けておくのだった。
男子の代わりを求めての疑似恋愛だったとしてもいずれ黒歴史になったとしても、ファーストキスの思い出としては綺麗に残ったろうに。

初恋も知らないうちから全て奪われるのか。


細い帯一本で締められただけの浴衣は服としてあまりにも心許なかった。
ブラすらしていないので開かれたら簡単に肌を晒してしまう。

淡い金髪は短めで、大きな暗褐色の目に色の白さを引き立てるそばかす。
中学生の雛子は既に同年代の中でも背は高く、手脚が真っ直ぐ綺麗に伸びた子供だった。
少年とも少女ともつかず精巧な人形のような裸体。
まだ誰にも触れられておらず無垢で、加虐性を持つ者からすれば実に穢し甲斐がありそうな。


「あ……っやぁ、いた、痛いです……ッ」

仰向けになると更に薄くなってしまう、小さいパンケーキほどの乳房。
膨らみかけは乳腺のしこりがあるので触られると痛む。
親より年上の男が飢えた赤ん坊のように吸い付いてきて悍ましいのに、思わず溢れた自分の声の甘さに戸惑った。

雛子の心と裏腹、それでも刺激されると身体は反応してしまう。
交互に甘噛みされてコーラルピンクだった乳首は控えめに尖り始める。
充血で赤くなって唾液で濡れて艶めき、小粒の果実のようになって食べられることを望む。

その間にも当主の手はショーツの上から下腹部を撫で回す。
節くれ立った中指の先で押さえ付けられ、そのまま筋をなぞられて息が乱れた。

年頃の雛子も自慰の経験くらいある。
とはいえ直接は怖いのでショーツの薄い布越し。
「気持ち良い」というのもよく分からないまま必死に弄るだけのもの。
手慣れた男の方がよほど女の敏感な部分を熟知しており、胸も下腹部も同時に責め立ててくる。
性に目覚めたばかりの小娘には火のように熱くて堪らない。


糸を引きながらショーツが引き下げられると雛子の中で羞恥と解放感が火花を散らす。
閉じる力も無く割られた膝の間、当主が顔を埋めた。

「ここも金色か、こんなに濡れてべっとり項垂れて……」
「や……っ、言わないで……」

まだ薄い金色の翳りに、剥き出しになった濃桃の花弁はもう蜜が溢れていた。
守っていた布を失った後は禁じ手無し。
無慈悲な舌や指で散々弄ばれて、その度に反応する雛子の姿を男は黙って見つめている。
嫌悪感で背筋を震わせながらも長い時間を掛けられては蕩けてしまう。

やがて泥々になってきた頃、当主が上体を起こした。


「……一度しかない処女喪失だ、五感でよく覚えておけ」

今日まで自分の指ですら受け入れたことなど無かった場所。
擦り付けられた雄の大きさに雛子の身体が強張った。
捩じ込まれる異物感に思わず逃げ腰になっても、再び唇を奪われて隙が生まれる。

「んっ……ぅ……!」

貫かれた瞬間の悲鳴は音として響かなかった。
先に舌を捕らわれ、雛子から押し出された吐息の熱がキスを貪る男のものと絡む。
花弁を広げる切っ先はそのまま容赦なく奥まで一気に侵入する。
それこそ薄い腹を突き破るように。

痛みばかりで感覚がよく分からない中、ふと当主が開き切った雛子の両脚を抱え込む。
男の腹に生い茂った翳りに金色が絡む生々しい光景。

見ないようにしていた現実を直視してしまった。
今度こそ鮮烈な痛みで涙が溢れる。


「っぐぅ……狭いな、喰い千切られる……ッ」
「痛っ……も、痛いの、やだぁッ……あ、ぅ、動かないで……」

夢中で腰を振られては傷口を抉られるようなもの。
発情した男女の体液を掻き混ぜ、粘着いた水音が激しさを増す。
子供のような泣き声を上げる雛子を見下ろしながら、当主は獣の息遣いで肉欲に酔い痴れていた。

「男の味を教えてやる……しっかり飲み干せよ……」

射精された感覚は無くとも中に注ぎ込まれたのは事実。
引き抜かれれば濃くなる匂い。
血の混じった精液が内腿を伝って、シーツを汚す。


煉瓦造りの屋敷、連続殺人事件は起きずとも血は流れた。
遠くともこの男と繋がっている深紅。
ベッドの上、手脚を投げ出した少女は凄惨な死体のようだった。
単純な痛みによる涙だけが静かに頬を濡らす。

ガラスの向こう側、地面に落ちては消えていた雪もいつしか降り積もっていた。
されど一度踏み荒らされた真白の野は戻らない。
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