鳳凰の巣には雛が眠る〜かつて遊び人だった俺と慰み者だった君が恋人になるまで〜

タケミヤタツミ

文字の大きさ
18 / 57
二章:冷たい鳥籠(雛子過去編)

18:食べないで*

しおりを挟む
腹が膨れると、いよいよ再びベッドに引き摺り込まれる時間が近付いてきた。
まだ足りないとは大した精力。
当主しか知らないので若い鷹人の方は全くの未知、それこそ本当に朝まで続くかもしれない。

「分かってますから逃げたりしませんよ……」

重ねた皿を載せたワゴンを外へ出そうと雛子がドアを開ける数歩後ろ、鷹人も静かに見張っている。
その瞬間に擦り抜けてしまうのではと猜疑心の目。

信用が無い、そこはお互い様か。

雛子の知っている鷹人のことなんて数える程度。
名前と冷たい手と傲慢な口調で艶のある声。
それから、スモーキーな甘みを含んだサンダルウッドの匂い。
あちらの方こそ身体しか知らないだろう。


「逃げないと言ったな……抵抗する意思が無いなら、俺の好きにさせてもらおうか」

散々好き放題しておいて今更の話。
それとも、これ以上まだ何かあるというのか。

正直に問うてみたかったが、これから分かること。
どうせ穢れた身なので失う物も無し。
それより鷹人がどんなことをしてくるのか興味が出てきてしまった。
本来の雛子はやたらと好奇心が強い。

「ッん……ぅ……」

返事をする前に雛子の唇は塞がれてしまった。
絡み合った唾液にビールの後味。

男の力で引き寄せられて離してもらえず、酸素までも奪われる。
鷹人の舌があまりに暴れるものだから息苦しい。
ただでさえ慣れないアルコールで酔いそうになっているのに。


吐息が乱れた目眩、倒れ込んだらもうシーツの上。
腰の辺りに男が乗ってきて濃い影が落ちる。
天井すら隠し、雛子の視界には鷹人だけしか居ない。

白い皿の上に載せられたご馳走とイメージが重なる。
今度こそ残さず食べられるのか。


林檎を並べたような乳房を持つ雛子に前開きの服は窮屈なことが多々ある。
男の身体に合わせた平面的な仕立てとはいえ、流石に鷹人のサイズなら肌を隠してくれていた。
それも男の手で小さいボタンが一つずつ外されて首筋の歯型が再び露わになる。
喰い千切られるかと思った激しい傷。

開かれたシャツの下、シャワーの後できちんと着け直した下着も外されてもう纏わり付いているだけ。
鎖骨や肩にそばかすを散らした、クリーム色の溶けた白い肌。

制服を乱した時にも下着の中まで見られたが、改めて全裸を晒すことになると恥ずかしい。
熱くなった頬だけでなく薄い肌から桃色に染まる。
そんな雛子を見下ろしながら、閉じた太腿を爪弾く鷹人の長い指は意外と優しかった。


「……綺麗なもんだな」
「当主様は、痕を付けることを好まなかったので……」

首筋の傷が目を引くものの滑らかな肌。
鷹人が落とした呟きを雛子も反射的に拾う。

ただ、当主が雛子に痕を付けなかったのは関係が外部に発覚することを恐れてというのが大きな理由だが。
屋敷に監禁しているならまだしも昼は淑女として振る舞っており学校がある。
噛まれた傷は連休明けまでに治るだろうか。

そんな雛子の考えはあまりにも呑気だった。

急に鷹人から刺々しく睨まれた後になって気付く。
ああ、言葉選びを間違えた。
最も意識している父親のことを雛子の方から口にするなんて。


これも恐らく当て付けか。
雛子の胸元に鷹人が顔を埋めると、唇で強く吸って痛々しい赤い花を咲かせてきた。
素肌に吹き掛かる息が熱くて動けない。
そうして痕を増やしてから、至近距離の視線で突き刺しながら改めて告げられる。

「良いか、お前が親父のことをどう思っていても関係無い……恐れていようと、慕っていようと、利用していようとどうでも良い。
今は俺の物なんだから、お前もその自覚を持て」

やはり火に油を注いでしまったかもしれない。

「好きにさせてもらう」と言われた後でこんなことを追加された訳だ、本当に何をされるのやら。
好奇心よりも少しだけ不安が勝る瞬間。
とはいえ、わざわざ作らずとも無表情のまま飽くまで冷静に考えていた。

「俺の物」だなんて、父親への執着が無ければ雛子自身のことなど見てないくせによく言う。
だからどうも苦手なのだ、この男のことは。

そうして鷹人も服を全て脱ぎ捨てて、既に半勃ちの雄までも雛子の前に曝け出す。
浅黒い裸は細身の筋肉質で見目以上に力強く硬い。
そのままじっくりと身体を開く為の舌や指が這ってくると、無力ぶりを思い知らされる。
際どい部分にキスされて脚が跳ねても、押さえ込まれたらどうにも出来ず。

ご丁寧にも、所有物の印を雛子の全身に刻みながら。
白く柔らかな肌にはよく映える。



「たかとさま……っ、ぁ……まだ、するんですか……?」
「何だ、随分と可愛い声が出るようになったな……」

繋がってからどのくらい時間が経ったのか。
何度も波が来て、意識が遠退きそうな雛子にはもう分からない。


夕方から最初の三回は情欲任せで随分と激しかった。
苛立たせてしまったこともあり四回目はさぞかし手酷くされるかと思ったのに、ここで趣向を変えてきたのだ。
突き刺した切っ先で雛子の弱い場所を探り当て、長々と緩く責め立てて身体の芯を溶かすやり方。
痛みの無い摩擦により、花弁は蜜だけでぐちゃぐちゃに熱くなって鷹人を欲しがる。

これでは炎天下のアイスクリーム。
泥々に掻き混ぜられるばかりで、粘着く水音は鳴り止まず。

幾度となく達せられるという点なら同じような調教も受けたこともあるが、強制的なものであり当主が満足するまで少しの我慢なのでまだ耐えられた。
こんなの知らない。
鷹人の雄の形を覚え込まされ、立て続けに来る快楽の不安感が涙になって流れる。

鷹人こそどうして好き好んで射精を堪えているのか。
意地悪に笑う余裕こそあれど表情には苦しげな艶を増して、額から汗が滴り落ちる。


「……雛子」

どうして、そんな声で呼ぶの。
名前なんて覚えられていないと思っていたのに。

暗褐色の双眸も今や溶けかけのコーヒーゼリー。
切れ切れに甘く啜り泣いていた雛子の涙を舐め取って、鷹人が唇も重ねてきた。
柔らかい舌遣いで交わる唾液。
恋人のような貪られ方をされて、今日一番胸が痛い。


初恋も知らないうちから全て奪われてきた。

生まれ育った地から遠くへ連れ去られ、この屋敷に閉じ込められて、籠の鳥としての日々。
雛子が魔物の精神を持つ故に折れなかっただけ。
単なる捌け口として扱われるなら娼婦に徹して割り切れるのに、鷹人は時折甘さが混ざり込んで仮面の内側まで侵そうとしてきて気味悪い。

それとも純真までも戯れで喰い荒らされるのか。
だとすれば本当に酷い男だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...