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二章:冷たい鳥籠(雛子過去編)
19:メイド服*
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あれから結局、化け物じみた若い精力で夕食の後から丑三つ時までゆっくりと泥々に貪られてしまった。
抱き潰されたのは初めてのこと。
半失神のまま深く眠り、雛子が目を覚ました頃には太陽の昇った後。
とりあえず熱帯夜のような夜は過ぎ去った。
朝になったのだし、もう自室へ帰っても良いだろう。
雛子にとっては飽くまでも世話役の務め。
鷹人に抱き着かれる形で眠っていたので抜け出すには少し苦労した。
体格の良い成人男性なんて腕一本でも重い。
またも面倒なことになりそうで、どうか起きないでほしいと祈りながら足早に部屋を後にした。
制服と下着、鷹人のシャツは脱衣籠へ。
ようやく雛子が安堵したのは自室のシャワーを浴びた頃。
それにしても噛み痕もキスマークも念入りに刻まれた全身が軋む。
身体は柔らかい方だと思うが、長いこと脚を開いたままだったので壊れたドアのようになりそうだ。
はて、鷹人はどういうつもりなのやら。
雛子の肌を味わうことで父親の残り香でも感じたかったのだろうか。
精神が魔物の雛子は一晩くらいで情に流されず、冷徹な分析。
何より最初にされたことを決して忘れてなかった。
あまりにも鷹人の印象が悪すぎる。
それも今日から五日間の連休、初日から気が重い。
ならば、こちらも世話役の仮面を被ろう。
柔らかな内側まで晒さないよう殻の中へ隠さねば。
雛子が顔を上げた時にはもういつもの無表情。
それなら着る物は決まっていた。
クローゼットを開け、一着のワンピースを手に取る。
「……おはようございます」
手早く準備を済ませて戻った頃、半裸の鷹人はベッドから身を起こしたところだった。
雛子が勝手に出て行ったので文句の一つも飛んでくるかと思いきや、その口は半分開いただけ。
呆れのような顰め面のような、少し驚いた顔。
「お前、何なんだ……その格好」
「世話役を任命いただきましたので、こちらの方が宜しいかと思いまして」
会釈すると足元まである長いスカートが揺れる。
そこに居るのは、金髪のメイドが一人。
昨今コンカフェブームですっかり世間では一般的になったが、最上家の女中は昔からクラシックメイドである。
実際には愛玩具扱いでも、親戚間では「最上家の使用人に」という建前で引き取られた訳なので雛子もメイド服を一応持たされていた。
白と黒の生地を重ね合わせたメイドキャップ。
腰まである金髪はアップに纏め上げ、うなじを見せるスタイルにした。
制服の黒いワンピースは肩周りを軽く膨らませたパフスリーブに、足首まで隠す長いスカート丈。
白いエプロンと合わせて広げてみるとちょっとしたボリュームがある。
ファッションが精神に与える影響は大きい。
身も心も使用人になりきって、ごっこ遊びで乗り切ることにした。
「朝食のお時間ですけど、いかがなさいますか?またここで召し上がるようでしたらお持ちしますけど……」
雛子が感情を出さないなんていつものこと。
鷹人に仕えることは全て業務として受け止めるつもりで声まで事務的に。
訝しむ視線を向けられても気にせず。
却ってそれが気に喰わなかったのだろうか。
突然ベッドから伸びた男の手に掴まれる。
思わず躓くように雛子はブランケットへ倒れ込んだ。
慌てて起き上がろうとしたが叶わず、鷹人の腕の中。
睨む形に近かった目を閉じて唇を吸われる。
「っふ……ン、あぅ……」
呼吸塞がれて苦しくなり、零れ落ちた吐息は甘く。
おはようのキスにしては妙に濃い。
口付けられると良くも悪くも雛子は一番感じてしまう。
警戒して身体が固まっていても、スイッチを押されて嫌でも熱が流れ込んでくる。
腕と舌で絡め取られては動けずにされるがまま。
何のつもりか、こんな触れ方しないでほしい。
「……その顔が見たかった」
口腔を掻き乱されては蕩かされる。
涎で緩んだ表情の雛子を見て、鷹人はようやく薄く笑った。
キスの名残、そう告げる唇に糸を紡ぎながら。
この流れは良くない方向。
今にも鷹人の手がスカートに忍び込んできそうな。
「朝食はまたお前とここで取る……その前に、鎮めろ」
鷹人が自分からブランケットを剥ぐと、撒き散ったサンダルウッドと体液の匂い。
下腹部に抜き身の硬い雄を見せ付けられて雛子の喉が詰まる。
正直なところ分かっていた。
抱き寄せられた時に当たっている感覚はあったのだ。
知識として頭にあったが朝勃ちを見るのは初めて。
当主は用さえ済めば解放していたので寝床で一晩を共にしたことなど無かった。
熱を帯びたキスと一晩掛けて覚えさせられた匂いで雛子の背筋に痺れが走る。
真っ直ぐ落ちて下腹部に疼き。
それでも数回呼吸を整えたら、また無表情。
「まだ、物足りないですか……」
「今しゃぶれば夜までは何もしない、約束してやる」
これまた傲慢な物言いだこと。
その約束も本当に守られるのかどうだか、と雛子は表に出さないまま訝しむ。
身体に触れられなくても、また放尿を見せろだとかの命令はされる可能性もあるのだし。
信用が無い、やはりお互い様。
しかし使用人の立場なら命令は絶対、雛子もそういう覚悟でメイド服に袖を通した。
媚びず、欲求は否定せず、それが基本姿勢。
当主と勝手が違って分からないことばかりなので、悠々とした態度まで保つのは少し難しいが。
それにしても鷹人はAVの真似事でもしたいのか。
だとしたら、もし彼に恋人や婚約者が居るとしてもそんなもの要求出来ないので納得ならする。
最上家次期当主の相手ともあれば、かなり良いところのお嬢様だろうし。
当主が「自分は家を継ぐ為だけに生まれた」と嘆いていたことを思い出す。
鷹人もそうしてこの世に生を受けたなら嫌なドミノだ。
最上の家柄は病院経営にも携わっており、医療もお家芸の一つ。
雛子が生まれた倉敷家も医者家系で金持ちではあったが、彼らから見ればまだ庶民のうちだろう。
父は親が決めた相手との縁談を蹴り、医大で出逢った母との愛を貫いて最期まで仲睦まじかった。
当然、雛子も確かに愛されて育った実感だってある。
しかし結婚までの過程はどうあれ、問題はその後だ。
人間関係に於いて、愛よりも大事なことは互いに信用を築けるかどうかでないかと雛子は考えている。
そこを踏まえると、鷹人に対してはやはり苦手意識。
「ご奉仕させていただきます……」
メイド服で朝からこんなこと、正直に白状すれば笑ってしまいそうになる。
密かに噛み殺して雛子が台詞を口にしたのは演じる為の自己暗示。
鷹人の下腹部に顔を寄せて、昨日は前後を何度も貫かれた雄に軽くキスを落とす。
切っ先に舌を這わせ始めると頭上から息を呑む気配。
生理現象の半勃ちから硬さが増してくる。
雛子が舌を垂らせば唾液もゆっくりと滴ってきた。
白い指を絡めて塗り付けるように扱き上げる度、ぬちゃぬちゃと淫らな音。
俯いていたら金髪が一束ほつれて落ちる。
耳に掛ける仕草は雛子に無造作な色気を滲ませた。
柔らかく動かす舌で雄全体を味わってから、そっと口を開く。
鷹人の雄を咥えるのは初めてのこと。
ベル型をした先端は裾が口腔に引っ掛かり、長さがあるので喉の奥まで届いてしまう。
根元まで全部は少し難しい。
無理やり押し込まれる前に舌遣いで補うことにした。
「ッ……んむぅ……あ、ふぅっ……」
昨夜交わってからまだシャワーを浴びずにいたので、染み付いていた精液が唾液で溶け始める。
その濃い匂いと味で否応なく思い出してしまう。
鷹人にされたこと、一つ一つを。
冷たい手と舌がどうやって触れてきたのか。
この口の中の物にどうやって抉られたのか。
嫌悪感よりも、血が沸き立つ熱を刻み付けられた。
「雛子……っ、も、出る……」
朦朧とするままに舌を動かし続けていたら、鷹人が切れ切れの限界を告げてくる。
苦しそうな声は少しだけ可愛い。
そんなことを思う間に、やがて脈打ちながら雛子の口に白濁が放出される。
「んぅ……っ、美味し、れふ……」
精液の味は生活習慣などに左右されるもの。
たまに葉巻を吸う当主は凄まじく苦い時があった。
それでも吐き出すことは許されず。
美味い筈がなくても、比べればまだ楽に飲み込める。
雛子が舌で唇を口拭うと、舐め擦られた赤が艶めく。
それより気掛かりなことが一つ。
こんなこと習慣化されたら流石に大変。
「あの、これから毎朝ですか……?」
「いや……どうせ起こしてくれるならキスの方が良い」
鷹人からの返事は意外。
随分とお可愛いことを言うものである。
ただ、やはりここに居るのは眠り姫ではない。
ましてや王子様でもないけれど。
不意に雛子の顎を掴むと、逃さぬ距離で視線と言葉を突き刺す。
「お前からキスするんだ、分かっているのか?」
「……はい、私は鷹人様のお世話役ですから」
雛子が真っ直ぐ見据えながら答えてみせる。
その一瞬だけ、鷹人の表情は妙に強張って見えた。
どうして、そんな顔するの。
黙ってひたすら従順でいることが務めだろうに。
この方が鷹人にとって都合が良いだろうに。
それとも反抗的な態度が残っている方が好みなのか。
唇は心に繋がっているからキスの意味は特別。
好きな人とすることなんて分かっているが、初恋も知らないうちから全て奪われた雛子には今更の話。
性感帯ではあっても、もう舌を捩じ込まれる被虐の悦楽だけしか無い。
言ってなどあげないけど。
メイド服は雛子の本音を押し包む。
柔らかな内側まで晒さないよう殻の中へ隠さねば。
抱き潰されたのは初めてのこと。
半失神のまま深く眠り、雛子が目を覚ました頃には太陽の昇った後。
とりあえず熱帯夜のような夜は過ぎ去った。
朝になったのだし、もう自室へ帰っても良いだろう。
雛子にとっては飽くまでも世話役の務め。
鷹人に抱き着かれる形で眠っていたので抜け出すには少し苦労した。
体格の良い成人男性なんて腕一本でも重い。
またも面倒なことになりそうで、どうか起きないでほしいと祈りながら足早に部屋を後にした。
制服と下着、鷹人のシャツは脱衣籠へ。
ようやく雛子が安堵したのは自室のシャワーを浴びた頃。
それにしても噛み痕もキスマークも念入りに刻まれた全身が軋む。
身体は柔らかい方だと思うが、長いこと脚を開いたままだったので壊れたドアのようになりそうだ。
はて、鷹人はどういうつもりなのやら。
雛子の肌を味わうことで父親の残り香でも感じたかったのだろうか。
精神が魔物の雛子は一晩くらいで情に流されず、冷徹な分析。
何より最初にされたことを決して忘れてなかった。
あまりにも鷹人の印象が悪すぎる。
それも今日から五日間の連休、初日から気が重い。
ならば、こちらも世話役の仮面を被ろう。
柔らかな内側まで晒さないよう殻の中へ隠さねば。
雛子が顔を上げた時にはもういつもの無表情。
それなら着る物は決まっていた。
クローゼットを開け、一着のワンピースを手に取る。
「……おはようございます」
手早く準備を済ませて戻った頃、半裸の鷹人はベッドから身を起こしたところだった。
雛子が勝手に出て行ったので文句の一つも飛んでくるかと思いきや、その口は半分開いただけ。
呆れのような顰め面のような、少し驚いた顔。
「お前、何なんだ……その格好」
「世話役を任命いただきましたので、こちらの方が宜しいかと思いまして」
会釈すると足元まである長いスカートが揺れる。
そこに居るのは、金髪のメイドが一人。
昨今コンカフェブームですっかり世間では一般的になったが、最上家の女中は昔からクラシックメイドである。
実際には愛玩具扱いでも、親戚間では「最上家の使用人に」という建前で引き取られた訳なので雛子もメイド服を一応持たされていた。
白と黒の生地を重ね合わせたメイドキャップ。
腰まである金髪はアップに纏め上げ、うなじを見せるスタイルにした。
制服の黒いワンピースは肩周りを軽く膨らませたパフスリーブに、足首まで隠す長いスカート丈。
白いエプロンと合わせて広げてみるとちょっとしたボリュームがある。
ファッションが精神に与える影響は大きい。
身も心も使用人になりきって、ごっこ遊びで乗り切ることにした。
「朝食のお時間ですけど、いかがなさいますか?またここで召し上がるようでしたらお持ちしますけど……」
雛子が感情を出さないなんていつものこと。
鷹人に仕えることは全て業務として受け止めるつもりで声まで事務的に。
訝しむ視線を向けられても気にせず。
却ってそれが気に喰わなかったのだろうか。
突然ベッドから伸びた男の手に掴まれる。
思わず躓くように雛子はブランケットへ倒れ込んだ。
慌てて起き上がろうとしたが叶わず、鷹人の腕の中。
睨む形に近かった目を閉じて唇を吸われる。
「っふ……ン、あぅ……」
呼吸塞がれて苦しくなり、零れ落ちた吐息は甘く。
おはようのキスにしては妙に濃い。
口付けられると良くも悪くも雛子は一番感じてしまう。
警戒して身体が固まっていても、スイッチを押されて嫌でも熱が流れ込んでくる。
腕と舌で絡め取られては動けずにされるがまま。
何のつもりか、こんな触れ方しないでほしい。
「……その顔が見たかった」
口腔を掻き乱されては蕩かされる。
涎で緩んだ表情の雛子を見て、鷹人はようやく薄く笑った。
キスの名残、そう告げる唇に糸を紡ぎながら。
この流れは良くない方向。
今にも鷹人の手がスカートに忍び込んできそうな。
「朝食はまたお前とここで取る……その前に、鎮めろ」
鷹人が自分からブランケットを剥ぐと、撒き散ったサンダルウッドと体液の匂い。
下腹部に抜き身の硬い雄を見せ付けられて雛子の喉が詰まる。
正直なところ分かっていた。
抱き寄せられた時に当たっている感覚はあったのだ。
知識として頭にあったが朝勃ちを見るのは初めて。
当主は用さえ済めば解放していたので寝床で一晩を共にしたことなど無かった。
熱を帯びたキスと一晩掛けて覚えさせられた匂いで雛子の背筋に痺れが走る。
真っ直ぐ落ちて下腹部に疼き。
それでも数回呼吸を整えたら、また無表情。
「まだ、物足りないですか……」
「今しゃぶれば夜までは何もしない、約束してやる」
これまた傲慢な物言いだこと。
その約束も本当に守られるのかどうだか、と雛子は表に出さないまま訝しむ。
身体に触れられなくても、また放尿を見せろだとかの命令はされる可能性もあるのだし。
信用が無い、やはりお互い様。
しかし使用人の立場なら命令は絶対、雛子もそういう覚悟でメイド服に袖を通した。
媚びず、欲求は否定せず、それが基本姿勢。
当主と勝手が違って分からないことばかりなので、悠々とした態度まで保つのは少し難しいが。
それにしても鷹人はAVの真似事でもしたいのか。
だとしたら、もし彼に恋人や婚約者が居るとしてもそんなもの要求出来ないので納得ならする。
最上家次期当主の相手ともあれば、かなり良いところのお嬢様だろうし。
当主が「自分は家を継ぐ為だけに生まれた」と嘆いていたことを思い出す。
鷹人もそうしてこの世に生を受けたなら嫌なドミノだ。
最上の家柄は病院経営にも携わっており、医療もお家芸の一つ。
雛子が生まれた倉敷家も医者家系で金持ちではあったが、彼らから見ればまだ庶民のうちだろう。
父は親が決めた相手との縁談を蹴り、医大で出逢った母との愛を貫いて最期まで仲睦まじかった。
当然、雛子も確かに愛されて育った実感だってある。
しかし結婚までの過程はどうあれ、問題はその後だ。
人間関係に於いて、愛よりも大事なことは互いに信用を築けるかどうかでないかと雛子は考えている。
そこを踏まえると、鷹人に対してはやはり苦手意識。
「ご奉仕させていただきます……」
メイド服で朝からこんなこと、正直に白状すれば笑ってしまいそうになる。
密かに噛み殺して雛子が台詞を口にしたのは演じる為の自己暗示。
鷹人の下腹部に顔を寄せて、昨日は前後を何度も貫かれた雄に軽くキスを落とす。
切っ先に舌を這わせ始めると頭上から息を呑む気配。
生理現象の半勃ちから硬さが増してくる。
雛子が舌を垂らせば唾液もゆっくりと滴ってきた。
白い指を絡めて塗り付けるように扱き上げる度、ぬちゃぬちゃと淫らな音。
俯いていたら金髪が一束ほつれて落ちる。
耳に掛ける仕草は雛子に無造作な色気を滲ませた。
柔らかく動かす舌で雄全体を味わってから、そっと口を開く。
鷹人の雄を咥えるのは初めてのこと。
ベル型をした先端は裾が口腔に引っ掛かり、長さがあるので喉の奥まで届いてしまう。
根元まで全部は少し難しい。
無理やり押し込まれる前に舌遣いで補うことにした。
「ッ……んむぅ……あ、ふぅっ……」
昨夜交わってからまだシャワーを浴びずにいたので、染み付いていた精液が唾液で溶け始める。
その濃い匂いと味で否応なく思い出してしまう。
鷹人にされたこと、一つ一つを。
冷たい手と舌がどうやって触れてきたのか。
この口の中の物にどうやって抉られたのか。
嫌悪感よりも、血が沸き立つ熱を刻み付けられた。
「雛子……っ、も、出る……」
朦朧とするままに舌を動かし続けていたら、鷹人が切れ切れの限界を告げてくる。
苦しそうな声は少しだけ可愛い。
そんなことを思う間に、やがて脈打ちながら雛子の口に白濁が放出される。
「んぅ……っ、美味し、れふ……」
精液の味は生活習慣などに左右されるもの。
たまに葉巻を吸う当主は凄まじく苦い時があった。
それでも吐き出すことは許されず。
美味い筈がなくても、比べればまだ楽に飲み込める。
雛子が舌で唇を口拭うと、舐め擦られた赤が艶めく。
それより気掛かりなことが一つ。
こんなこと習慣化されたら流石に大変。
「あの、これから毎朝ですか……?」
「いや……どうせ起こしてくれるならキスの方が良い」
鷹人からの返事は意外。
随分とお可愛いことを言うものである。
ただ、やはりここに居るのは眠り姫ではない。
ましてや王子様でもないけれど。
不意に雛子の顎を掴むと、逃さぬ距離で視線と言葉を突き刺す。
「お前からキスするんだ、分かっているのか?」
「……はい、私は鷹人様のお世話役ですから」
雛子が真っ直ぐ見据えながら答えてみせる。
その一瞬だけ、鷹人の表情は妙に強張って見えた。
どうして、そんな顔するの。
黙ってひたすら従順でいることが務めだろうに。
この方が鷹人にとって都合が良いだろうに。
それとも反抗的な態度が残っている方が好みなのか。
唇は心に繋がっているからキスの意味は特別。
好きな人とすることなんて分かっているが、初恋も知らないうちから全て奪われた雛子には今更の話。
性感帯ではあっても、もう舌を捩じ込まれる被虐の悦楽だけしか無い。
言ってなどあげないけど。
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