鳳凰の巣には雛が眠る〜かつて遊び人だった俺と慰み者だった君が恋人になるまで〜

タケミヤタツミ

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二章:冷たい鳥籠(雛子過去編)

21:バスルーム*

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ここから見る中庭は雛子の部屋と景色が全く違う。
真っ暗なガラスの向こう、月が夜を告げる頃。
ただし薄っすらと舞う湯気がレースのカーテン代わりに光を柔らかくしていた。
湯船が並々と沸き立つバスルームは湯加減も上々。

「夜までは何もしない」の約束通りに日は暮れる。
待ち兼ねて夕食の後ですぐベッドかとも思ったが、まず入浴ということで鷹人の部屋のバスルームに連れて来られた。
昨日と同じく先に済ませろという意味でなく、今日は一緒に。
使用人らしく彼の背中を流すにしても足首まで丈のある黒いワンピースでは濡れてしまうので、結局は全部脱ぐことになるか。


個室に付いた風呂とはいえ一般家庭とそう変わらない広さ。
鷹人の部屋自体がホテルのスイートルームに似た造りなので、ここだけで親子三人くらい悠々と寝泊まり出来るだろう。
ベッドとリビングで二部屋分、風呂とトイレ完備。

全面が大理石のバスルームはグレーのマーブル模様。
艶や光沢により高級感がある空間。
ただ石の質感は滑らかながら冷ややか、何となく雛子は落ち着かずにいた。
広いのであまり湯気が籠もらず少しばかり肌寒い。


「いつまで隠してるつもりだ?」

鷹人に手拭いタオルを奪われて、反射的に雛子が縮こまる。
昨夜ベッドでも見せた時はもっと薄暗かった。
こんなに明るい場所で一糸纏わず肌を晒すなんて流石に恥ずかしい。

殻代わりに纏ったメイド服を脱いでしまった所為か。
精神的にも何となく今は少し弱気になる。

とはいえ腕や手で覆っても肉付き豊かな身体は隠し切れない。
むしろ寄せる形になってしまった重い乳房は谷間が深くなり、このまま羞恥で固まって動けず。
ただでさえ昨夜の痕が無数に残っているのだ。
痛むくらいの強さで吸われたり噛まれたりしたので、まだ消えずにいた。
これは父親への当て付けなのか、所有の証なのか。

「どうした、背中流してくれるんじゃなかったか」

バスルームなので鷹人の方も勿論裸なのだが、事も無げに言ってくれる。
それに単なる意地悪でタオルを取った訳でない。
身体を洗う時に必要、当然の話。


「ご希望でしたらタオル使いますけど、泡踊りとかしなくて良いんですか?」
「……は?」

虚勢のつもりで雛子が質問一つを投げてみる。
AVの真似事でもしたいのかという疑惑はまだ晴れてないのだ。
鷹人が何をどこまで求めているのか分からないので、つい色々と考えてしまう。

成人向けでなくても性描写を含む創作物とは幾らでもあるもので、乳房を泡立てて男の身体を洗う性技の存在は頭にあった。
ただ、ここにはエアマットも無い。
流石に硬い床の上で寝転がるのは勘弁したいところ。

しばし面食らっていた鷹人だったが、どういうことか結び付いたらしく額を抑えながら眉間に皺。
雛子の方も妙なことを言った自覚くらいあれど、この数年ずっと男の欲望を受け止めてきたのだ。
覚悟を決める為に際どい妄想ばかりが先走るのは仕方あるまい。

「お前、うちの親父と風呂に入ったことは……」
「無いです……けど、知識としては分かるので」
「そんなことしなくて良い、商売女じゃあるまいし」
「私を娼婦と呼んだのは鷹人様の方ですけど……」

これは事実、昨日は手荒いことも酷いこともされた。
雛子からしてみればもう瘡蓋かさぶたが硬くなってしまって痛みなんてもう忘れたが。

「……それは悪かった」

なので、ここで鷹人に謝罪されるとは思わなかった。
今度は雛子が困惑する番か。
顔に出さず驚きつつ、やはり複雑な心境。
いっそ当主と同じく悍ましく非道なだけの男でいれば良いものを、不意にそういう面を見せられると調子が狂う。


そういえば、この人は風俗に行ったりするのだろうか。

本当に鷹人のことなんて雛子は何も知らないのだ。
恋人や婚約者が居るのかすら。
見知らぬご令嬢から泥棒猫などと怒鳴り込れる可能性もあるので、一応は確認を取っておこうか。

「……そんな奴居たら、お前と関係持ったりしてない」

曰く、鷹人が学生の頃にはもう見合い自体あったそうだ。
こういうところが嫌で家を出た訳なのだが。
結局は親同士が勝手に縁談を纏めて政略結婚で落ち着きそうだった。
しかしそんな中、数回しか顔を合わせたことのない相手のご令嬢が「真実の愛に目覚めた」とかで恋人と逃げてしまったと。

確かに最上家の面目に関わりちょっとした騒ぎになっても、鷹人としては正直なところ安堵したのでどうでも良い他人事。
あちらの家から多額の慰謝料を貰って淡々と終わり。
空いた席を巡って年頃の娘が居る家は色めき立ったものの、地固めの方が先だからと全て断って今に至る。


それはそれは、どこぞの悪役令嬢物を彷彿とさせる話だこと。

薔薇のボディソープを垂らしたタオルで鷹人の背中を擦りながら雛子は黙って聞いていた。
浅黒い男の肌に真っ白な泡が流れ落ちるのはどことなく艶っぽい。

「自分は家を継ぐ為だけに生まれた」と弱々しく零していた当主のことを思い出す。
鷹人に次の相手を強制せずにいたのは自分と同じ道を歩ませる負い目などがあった所為かもしれない。
結果、こうして実の息子に愛玩具を寝取られているのだから皮肉なことだが。


そんな時に鷹人が振り返るものだから思わず狼狽えてしまった。
一歩後退った雛子を笑って、タオルを自分の胸に当てながら揶揄してくる。

「それで、前は洗ってくれないのか?」

言われた通り世話役としての義務で従っても、洗うだけで済む筈なかった。
途中、泡だらけの手を鷹人に取られてタオルが落ちる。
引き締まった平たい胸と腹を経て導かれたのは知れたこと、その下。

石鹸効果で滑らかな男の長い指と女の細い指。
絡んで、扱いて、既に反応していた雄の部位は硬くなる。

こうなることなら分かっていた。

約束の時間は過ぎており、もう情欲のスイッチに指先は触れていたのだ。
ゆっくり撫で回した末、とうとう押される。
明確な意思を以って。


「……なるほど、これは気持ち良いな」

泡立った身体で不意に抱き竦められると、ぬるぬるした肌触り。
どこに触れても柔らかい雛子は密度の濃い泡で更に蕩けそうだった。
滑るからこそ鷹人の方も腕の力が強くなる。
吐息が乱れたら、噎せ返りそうに華やかな薔薇の香り。
頭の中にまで甘い霧が立ち込めてきた。

この辺りで戯れは終わり。
熱と香りだけ残して、降り注いだシャワーで流した。
もっともっと深く酔う為に。
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