ほんとうに体験した不思議な25の話

月夢(らいむ)

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お稲荷さん

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  これは、月夢(らいむ)の母が子供の頃にやってしまったことです。



  6歳の暁月(あかつき)は、いつもお友達と一緒に、近くの神社の境内で遊んでいた。

  境内の大きい木の所に、鬼が立ちそこから鬼が振り返るだるまさんが転んだとか

  かくれんぼとか、鬼ごっことか、木の実を拾ったりもした。
 夏にはお祭りも行われたり、屋台がでたりと楽しい場所だった。


  お母さんは、あまり神社で遊んじゃダメだよって言っていた。神様のお家なんだってうるさくしてはいけないところなんだって

   暁月は、境内の中の、横の方ある赤い鳥居の向こう側、お家みたいなところ「ほこら」に何匹かいる白い狐がとっても怖かった。
  少し目が吊り上がっていていっつもこっちを見ている。見張られているようで少し怖かった。

 

  「いつも遊ばせてもらっているんだから、これをお稲荷さんに持って行くんだよ。」

   夕ご飯のお味噌汁に使う油揚げを、おかあちゃんに、いつも持たされる。
 いつもは、お兄ちゃんと一緒に行くけど、今日は、まだ帰って来ていない。

「お兄ちゃんと一緒に行く」暁月は答えた。

「お兄ちゃん、まだ帰って来てないから、待ってたら暗くなっちゃうよ。」


「今は、行きたくない。おいなりさんも、今日は食べないって」
  そういったが、なぜかおかあちゃんは、油揚を、持っていけと毎日のようにいう。

「おいなりさんもお腹がすいているんだよ。お供えしていらっしゃい」と

「なんで油揚げあげるの?あのキツネえらいの?」


  「キツネの神様なんだから、大事にしないといけないんだよ、お供えしたらすぐに帰ってくるんだよ。」おかあちゃんは言った。

「わかった」暁月はしぶしぶ答えた。

 神社って昼間遊んでいる時は、別に怖くないけど、夕方になると少しだけこわい、お兄ちゃんは、イジワルだからいっしょに行ったって帰りは、先に走って帰ったふりをして、こわくて半分泣きそうなわたしを急に出てきていつもおどかす。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」暁月が半泣きで、神社を出ようとすると、鳥居のよこから急に、出てきたりする

「わっ」ってだから鳥居のところを通る時が、一番こわい。

「お兄ちゃんなんてだいきらい」
 そう暁月がいうと、お兄ちゃんは、イジワルな顔をしてニヤリと笑う。
「そんなこというとほんとに先に帰っちゃうぞっ」って

「そんな悪い口きくこは、おいなりさんに食べられちゃうぞ」って

 だからお兄ちゃんなんていっしょじゃない方が絶対にいいに決まっているの。

 あと油揚げを、おくときもこわい。キツネがにらんでいる気がする。

「油揚げを置いたら必ず、手を合わせるんだよ」そうおかあちゃんは、必ず言う。


  油揚げをもって、家を出ると、暁月は、小さなため息をついて空を見上げた、夕焼けがすごくきれいだった。夕日で空がオレンジ色にそまってた。
 お空がきれいだから、いいか、はやく油揚げを置いてこよう 暁月は、少しはやく歩いた。

 神社の横の小さな赤い鳥居をくぐった先にお稲荷さんのほこらがあった。少し大きめのお稲荷さんともう一段下に大きさがバラバラな小さめなお稲荷さんがたくさん並んでいた。
  神社の横のおいなりさんに、油揚げをおこうとした暁月は、あやまって小さなおいなりさんを倒してしまった。

「ごめんなさい」暁月は、おいなりさんに謝って元の位置に立てて戻そうとしたが、今度は、隣のおいなりさんが倒れてしまった。
「なんでなの  ごめんなさい」 少しだけ背伸びをして元に戻そうとしたが、今度は、下の段にあるお稲荷さんが倒れた。

  手に持っているおいなりさんがにらんでいる。

 並んでいるおいなりさんもにらんでいる。

 まだ倒れたままのおいなりさんもにらんでいる

 ひとつ元に戻すととなりが倒れ、下の段を治すと上のおいなりさんがたおれ、こわくてあせればあせるほど、元に戻らなくなった。

 さっきまで眩しいほどの夕日の輝く空だったのが、ピンク色、水色いろんな色が混ざったグラデーションの美しい空になった。

 もう少しすると暗くなる。暗いと神社は怖くなる。

 暁月は、焦った。

  お稲荷さんを立てて戻そうとすればするほどだんだんとひどい状態になる。

「だからおいなりさんきらいなの  イジワルしないで」暁月は、お稲荷さんに向かって言い放った。

  暁月は、手に持っていたおいなりさんを上に横にしたままもどすと、下の段の10個並んでいて、2つほど倒れてしまっていた残りのお稲荷さんを手で、払った。

 ザァー

 ほこらの下に3つほど落ちて、他は、倒れて転がった。

「もういい。お稲荷さんバイバイ」


 暁月は、後ろを振り返って手を振った。
 お稲荷さんがにらんでいる気がした。元に戻ってお稲荷さんを並べ直す勇気はなかった。

 もうすぐ暗くなる。

 鳥居をくぐるとき、お兄ちゃんが、「わっ」て言って出てきてくれないかなぁ、そしたら、「そんなことするとお稲荷さんのバチが当たるぞ。」とか言いながらも倒してしまったお稲荷さんを元に戻してくれるだろう。

お兄ちゃんは、鳥居の陰からも出てこなかった。

空は、上の方が濃い藍色に変わっていた。

もうすぐ暗くなる

心のなかでごめんなさいをつぶやきながら暁月は、家へ急ぐ。
  
「ただいま」玄関のドアをガラッとあける。
お兄ちゃんの、黒いランドセルが玄関の横に置いてある。お兄ちゃん帰ってきてる。

 トン、トン、トンとおかあちゃんが夕飯を作っているリズミカルな包丁の音が聞こえた。

 「おかえり もうすぐご飯できるから手をあらっておいで」

 「はーい」暁月は、家に帰ってきた安堵とお稲荷さんを倒してしまった罪悪感で、涙が出そうだった。そして、お兄ちゃんが、神社にきてくれなかったことにも腹がたった。
 
洗面台の鏡に、半分だけ映った自分の顔の頭のうえらへんに、すごい速さの白い影が通り過ぎた気がした。  
あわてて後ろを振り返るがなにもいなかった。 

 今日は暁月の大好きな栗ご飯だったけどいつもよりも食べられなかった。

 少し寒気がした。朝になると少し具合が悪かった。
「おかあちゃん、具合が悪い」
おかあちゃんは、暁月の、額に手をあてた。
「ちょっと、熱があるみたいだね。今日は、学校やすみなさい。」

「うん」そう暁月は答えて目をつぶった。

目をつぶると白い影が、すごい速さで横ぎった。
シュー
またしばらくすると
シュー
目をつぶっているのに見える感覚が最初は、不思議だった。
この白いのはなんだろう?
すごくはやく通り過ぎるので、形とかもわからなかった。
右から左へ
白い影が通り過ぎる
しばらくすると左から右へ白だけではなくたまに薄い茶色の影も通るようになった。
通り過ぎる間隔はだんだんと早くなり
白と茶色の動く影で目の前が埋め尽くされた。たまらなくなって閉じていた目を開けた。

 目を開けていたら影は見えなくなった。しばらく目を開けていたが、すごく眠くなった。身体も内側から熱くなった。
これ絶対熱があるやつだ。

 目をつぶるとやっぱり通り過ぎる影、目を開けたら見えない。

 ふすまのところなにか通りすぎなかった?
白いか影、目をつぶっている時よりもやや遅く通り過ぎる白い影

 これはなんなんだろう? 目をつぶった状態でも横を通り過ぎる影が見えるようになった。
目をつぶっても開けても見える白に時折まざる茶色の影。
どこかに見えるわけではなく自分の目線の先に見えるんだ。
自分が映像を映し出す機械のようなものなんだ。

 よくよくその影を見るとその影は横長で四つ足で、しっぽがあるように見えた。

もしかして    もしかして

少しゆっくりと走ってくるその四つん這いの生き物は、通り過ぎる時にこっちを向いた。

お稲荷さんだ

もう1匹やってきた

やっぱりこっちを向いた

お稲荷さんだ

今じゃ通り過ぎる時に必ずこっちを向くようになった

目が吊り上がって怒っているように見えた。

キャー    ー

結構な大きさの悲鳴を暁月はあげた。

おかあちゃん      おかあちゃん


1階から、おかあちゃんが、あわててとんできた。

「どうしたの?暁月」

「お稲荷さんがいっぱい見える。昨日倒しちゃったの。お稲荷さんが、怒ってる
怖いよー」

 暁月は、昨日のことを説明した。油揚げをお供えしようとして倒してしまったこと直そうとしたが、どんどん倒れ最後は、下に落ちたお稲荷さんもあったが、暗くなりそうだったので怖くてそのまま帰ってきた事。

最後に、腹がたって手で払って落としたことはおかあちゃんには内緒にした。

 おかあちゃんは、黙って話を聞き終わると「暁月は、お稲荷さんを倒したまま帰ってきちゃったんだね。」と聞いた。

「うん。そしたら、白い影がたくさん見えて、今もずっーと見える、おかあちゃんの顔の前にもお稲荷さんがとおってる、目をつぶっても開けてもずっーと」

「お稲荷さんにあやまりに行かないといけないね。一緒に、謝りに行ってあげるから、とうふや開いたら油揚げをかいに行ってくるからちょっと待っているんだよ。」
 
 おかあちゃんは、ちょっと早めに店に行き油揚げを売ってもらうと、家に戻ってきた。

「手と、顔を洗って着替えるんだよ。」

おかあちゃんに手伝ってもらいながらなんとか支度を整えて、一緒に神社に向かった。

その道中も通りすぎるだけではなくたくさんのお稲荷さんが見えた。茶色いふつうのキツネまで見えるようになった。

 茶色のキツネは、歩く道の途中に座ってみていた。中には足元についてくるキツネもいた。

「おかあちゃん、キツネいっぱいいるよ。ほらここにも、これって本当に見えないの?」暁月は、自分の足元を指さした。

「おかあちゃんには、なにも見えないよ。」

ようやく神社に辿り着き手水舎で手と口を清めお稲荷さんを元に戻す

「ごめんなさい」

油揚げをお供えして、暁月は、一緒懸命に謝った。
おかあちゃんも真剣な顔で祈っていた。


謝り終えて顔をあげた。

もうどこにも、お稲荷さんもキツネも見えなかった。

雲ひとつない真っ青な空が見えた。




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