【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ

文字の大きさ
12 / 67

第10話 隣国視点 噂ではなく実績 ー商会が知られた経路ー

しおりを挟む
隣国側の港湾管理局にとって、その契約は頭痛の種だった。

鉱石の品質自体には問題がない。需要も確かにある。利益も出る。だが、肝心の取引が、まるで前に進まない。

原因は単純で、そして厄介だった。

関係者が多すぎるのだ。しかも、皆がそれぞれ勝手なことばかり主張する。

王国側の貴族家は、こう言った。
「鉱石は予定通りに出す。だが輸送後の責任は負えない」

彼らの役割は、あくまで採掘と出荷だ。港で何が起きようと、それは“契約外”だと主張する。

隣国側の輸送業者は首を横に振った。
「港の引き渡しが遅れれば、こちらの責任にはできない」

彼らは輸送を担う立場だが、曖昧な引き渡し条件のままでは、遅延や破損の責任を押し付けられかねない。

港湾管理局は板挟みだった。「港としては受け入れるが、保管期間や管理責任の範囲を明確にしてほしい」

港は“通過点”に過ぎない。だが契約が曖昧なままでは、すべての苦情が最終的に港へ流れ込む。

そして軍需部門は、ただ一つだけを求めていた。「期限厳守だ。遅れは許されない」

品質よりも、価格よりも、彼らにとって重要なのは“確実に届くこと”だった。

それぞれの主張は、すべて正しい。
それぞれの立場として、理にかなっている。

だが――
正しさが、噛み合っていなかった。

「条件が曖昧すぎる」

「いや、そこは王国側の責任だ」

「輸送遅延は不可抗力だろう」

会議は何度も開かれ、そのたびに結論は先送りされた。

担当官のエドガー・ハインリヒは、机に広げた書類を見下ろしながら、深く息を吐いた。

「……これでは、いつまで経っても進まない」

数字は合っていないわけではない。だが、どこかに必ず“逃げ道”が残されている。

責任が曖昧な契約ほど、
後から必ず問題を生む。

これでは、円滑に進むはずがなかった。

それを、彼は何度も経験してきた。

そんなある日、会議に出席していないはずの“修正された契約書”が、机の上に置かれていた。

「これは……?」

エドガーは眉をひそめる。

条件は整理され、輸送ルートは一本化され、責任の所在が明確に書かれている。

例えば――

・港への引き渡し時点で品質検査を完了させ、
 以降の破損は輸送業者の責任とする
・港での保管期間を明確に区切り、
 超過分は軍需部門が管理費を負担する
・天候不良など不可抗力時の遅延は、
 事前通知を条件に免責とする

それぞれの主張を切り捨てるのではない。
“役割の範囲”に正しく収めている。

しかも、どこも不利になりすぎない。

王国側にも、隣国側にも、最低限の納得が残されていた。

「誰が作った?」

エドガーが尋ねると、部下が答えた。

「マルセワ商会が、調整として入ったそうです」

「マルセワ商会?」

聞き覚えがない。

「……特に有名ではありません」

それだけで、エドガーは違和感を覚えた。

名のある商会なら、必ず自分の功績を前に出す。

だが、この契約書には、
署名以外、余計な主張が一切ない。

「試しに、これで進めてみろ」

半信半疑のまま、エドガーは指示を出した。

結果は、驚くほどあっさり出た。

交渉は止まらなかった。
数字が合った。
期限も、守られた。

問題が起きない。

それ自体が、最大の異常だった。

「……これは、偶然じゃないな」

エドガーは、報告書をまとめた。

・契約が滞らない
・調整が最小限
・余計な主張がない

そして最後に、こう記した。

これは単なる商取引ではない。各方面の役割を正確に理解し、全体を見渡した者による調整である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

処理中です...