上 下
9 / 14

【 第7話: 彼女の寝室 】

しおりを挟む
 翌朝、僕が目を覚ますと、台所で彼女が朝食を作ってくれているよう。
 布団から起き上がると、それに気付いた彼女がやさしい笑顔で「おはよう」と言ってくれる。

 これは夢なのか……?
 いや、彼女は現実に存在している。

 夢なんかじゃない……。

 彼女との楽しい朝食。
 朝からこんなにテンションが上がることなんて、21年間生きてきて一度もなかったと思う。

 彼女の無邪気な笑顔は、まるで天使のようだ。


 ――この日僕らは、家電量販店で新しい大きめの冷蔵庫を買いに来ていた。
 彼女が窮屈なのが可哀想だから、今よりももっと大きな冷蔵庫がいい。
 それに、食材も入れておきたいから、場所が分かれているタイプがいいだろう。

 店員さんがいないことを確認して、冷蔵庫の中に少し彼女の体を入れてみる。

「これなんかいいんじゃない?」
「あっ、ほんとだ。すごく大きいね」
「少し体入れてみる?」
「うん……」

「あっ、これなら広くていいんじゃない?」
「うふふっ、そうね。広くて快適♪」

 彼女はとても楽しそうだった。
 そんな彼女の顔を見るのが、僕はとても嬉しく感じる。
 少し冷蔵庫の目的としては違うが、彼女の喜ぶ顔がもっと見たいんだ。

 業者の人に頼み、買った大きな冷蔵庫をアパートの中へ設置してもらった。
 こんなオンボロアパートには、相応しくないほど大きな冷蔵庫。
 この真新しい冷蔵庫が、今日から彼女の寝室になる。

「新しくて綺麗~♪」

 彼女は、そう言いながらその場でクルリと一回転して喜びを表現した。
 その時の彼女の嬉しそうな顔を今でも忘れない。

 この後、僕らに待ち受けている絶望なんて、この時の僕らには想像もつかなったんだ……。


しおりを挟む

処理中です...