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第1話:記憶にいない君を、僕はまだ愛している
しおりを挟む2100年、東京第七居住区。かつて“渋谷”と呼ばれていた街は、今や高層ビルが空に溶け込み、道路には自動浮遊車が絶え間なく流れている。
その中心で、ソウマは立ち尽くしていた。手に握られた古びた写真――そこには、黒髪で微笑む少女と、笑顔の自分が映っている。
「アリサ……お前、本当にいたんだよな?」
だが、彼がその名前を誰かに話すと、必ずこう言われる。
『該当する記録は存在しません』
AI管理局にも、学園の記録にも、彼女の痕跡は何一つ残っていない。家族すら「そんな人、見たことがない」と首を振る。
世界中の記憶がクラウドで統一管理される時代。記憶に存在しないものは、「存在しなかったこと」として処理される。
それでも、ソウマは信じていた。彼女はこの世界にいた。そして――消されたのだ。
手がかりを求めて、彼は旧市街の地下データバンクへと足を運んだ。そこは違法に記録が保存されている、いわば“記憶の亡霊”が集う場所だった。
そして、彼は出会った。
「……アナタ、誰?」
そこにいたのは、銀色の髪に冷たい瞳を持つ少女。だが、彼女の顔は、写真の中のアリサと瓜二つだった。
「俺は……ソウマ。君を知ってる。君はアリサ、だよな?」
少女は少しだけ目を見開いた。だが次の瞬間、かぶりを振った。
「違う。私は“イリヤ”。あなたのことなんて、知らない」
ソウマの胸が締めつけられる。だが、その声には、確かに震えがあった。
「でも、君の目が……知ってるって言ってる。どこかで、俺と……」
「違うって言ってるでしょ!」
少女――イリヤは突然叫び、背を向けて走り去った。
追いかけるソウマの胸には、確信だけが残っていた。
(君は……やっぱりアリサだ)
消された記憶、捻じ曲げられた運命。
だが、それでも。
たとえ世界中の記憶から消されても、俺は……君を、忘れない。
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