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第2話:“記録”にない、君の涙
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イリヤが逃げ去った路地裏には、冷たい空気が漂っていた。
ソウマは膝に手をつき、肩で息をしながら呟く。
「やっぱり……君はアリサなんだよ」
彼女の目に宿った“迷い”が、すべてを物語っていた。忘れたふりをしても、魂は記憶している──ソウマはそう信じていた。
彼は翌日、旧市街の《レコードスパイラル》と呼ばれる記録改ざん専門の闇業者に足を運んだ。そこで働く中年技師・ケイは、写真を一目見て鼻を鳴らす。
「こいつは……珍しいタイプの消去だな。国家管理の上層クラウドから“完全抹消”されてる」
「つまり……?」
「その女の記憶は“誰かの意思”で完全に消された。本人の記憶だけでなく、周囲の人間からも。これは……ただの事故じゃない。消されたってことだ」
ソウマは、強く拳を握った。誰が、なぜ、アリサを消したのか。そして──なぜ彼だけが、彼女のことを覚えているのか。
「もし……その記録を復元できたら、彼女は思い出すんですか?」
ケイは少し黙ってから答えた。
「理論上は可能だが、本人の“自発的な記憶反応”が必要になる。つまり、彼女自身が“思い出そう”としなければ無理だ」
それは難題だった。今のイリヤに、アリサだった自覚はない。
だが──ソウマは諦めなかった。
翌週。ソウマは偶然を装い、再びイリヤと出会う。
この街の小さなパークカフェ。そのテラス席で、ひとり本を読んでいた彼女に声をかけた。
「……また、会ったね」
「……本当に偶然かしら?」
イリヤは本から目を離さず答える。だがその手は、わずかに震えていた。
「君に──渡したいものがあるんだ」
そう言って、ソウマは懐から一枚の折れた紙を取り出す。
写真。二人が笑い合っている、あの日の記憶。
「これを見て……何か、思い出さないか?」
イリヤの瞳が揺れる。唇がわずかに開き、そして──
ぽつりと、涙が落ちた。
彼女は頬を抑えながら、首を横に振る。
「わからない……でも……なんで……涙が出るの……?」
ソウマはゆっくりとその手を握った。
「それは、君が“君自身”を取り戻そうとしてるからだよ」
風が吹き抜け、カフェのグラスがかすかに鳴った。
その音とともに、何かが、確かに“動き始めた”気がした。
ソウマは膝に手をつき、肩で息をしながら呟く。
「やっぱり……君はアリサなんだよ」
彼女の目に宿った“迷い”が、すべてを物語っていた。忘れたふりをしても、魂は記憶している──ソウマはそう信じていた。
彼は翌日、旧市街の《レコードスパイラル》と呼ばれる記録改ざん専門の闇業者に足を運んだ。そこで働く中年技師・ケイは、写真を一目見て鼻を鳴らす。
「こいつは……珍しいタイプの消去だな。国家管理の上層クラウドから“完全抹消”されてる」
「つまり……?」
「その女の記憶は“誰かの意思”で完全に消された。本人の記憶だけでなく、周囲の人間からも。これは……ただの事故じゃない。消されたってことだ」
ソウマは、強く拳を握った。誰が、なぜ、アリサを消したのか。そして──なぜ彼だけが、彼女のことを覚えているのか。
「もし……その記録を復元できたら、彼女は思い出すんですか?」
ケイは少し黙ってから答えた。
「理論上は可能だが、本人の“自発的な記憶反応”が必要になる。つまり、彼女自身が“思い出そう”としなければ無理だ」
それは難題だった。今のイリヤに、アリサだった自覚はない。
だが──ソウマは諦めなかった。
翌週。ソウマは偶然を装い、再びイリヤと出会う。
この街の小さなパークカフェ。そのテラス席で、ひとり本を読んでいた彼女に声をかけた。
「……また、会ったね」
「……本当に偶然かしら?」
イリヤは本から目を離さず答える。だがその手は、わずかに震えていた。
「君に──渡したいものがあるんだ」
そう言って、ソウマは懐から一枚の折れた紙を取り出す。
写真。二人が笑い合っている、あの日の記憶。
「これを見て……何か、思い出さないか?」
イリヤの瞳が揺れる。唇がわずかに開き、そして──
ぽつりと、涙が落ちた。
彼女は頬を抑えながら、首を横に振る。
「わからない……でも……なんで……涙が出るの……?」
ソウマはゆっくりとその手を握った。
「それは、君が“君自身”を取り戻そうとしてるからだよ」
風が吹き抜け、カフェのグラスがかすかに鳴った。
その音とともに、何かが、確かに“動き始めた”気がした。
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