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第3話:“記憶の扉”と閉ざされた研究所
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イリヤはその日、はっきりとした“映像”を見た。
白く、無機質な部屋。冷たい照明に照らされた、小さなベッド。
そして、向かいに立つ一人の少年──
「……ソウマ?」
目が覚めたとき、彼女の手には汗が滲んでいた。
記憶にないはずの夢。けれど、その映像はあまりに鮮明で。
何より、あの少年の瞳が──自分の中にある、喪われた何かを呼び覚ますようで。
数日後。ソウマとイリヤは、彼女の断片的な夢をもとに調査を始めていた。
「“白い部屋”って、他に覚えてることはある?」
「窓がなかった。代わりに、天井に黒いカメラが……私、毎日誰かに“質問”されていた」
その話を聞いたとき、ソウマの中で何かが繋がった。
「……それ、“第六研究区”かもしれない」
「第六……?」
“第六研究区”――それは、かつて政府が極秘に設けた《記憶操作実験施設》。
公式には“存在しない”ことになっている。だが、地下情報サイトでは噂されていた。
“記憶を消せるなら、逆もできる”
そこでは、AIと脳を接続して特定の記憶を“上書きする”実験が行われていたという。
それが成功すれば、人間の感情さえも“プログラムできる”と──
「そこに……私がいた、ってこと?」
「可能性は高い。でも、本当の記憶を取り戻すには……そこへ行くしかない」
リスクは大きい。第六研究区に侵入すれば、国家の監視網に引っかかる。
だが、イリヤははっきりと頷いた。
「私は……思い出したい。たとえ、どんな記憶でも。あなたのことを、ちゃんと……知りたいから」
夜。二人は廃墟となった旧政府ビル群の地下へと潜り込む。
道中、何度もAIセキュリティの目をかいくぐり、ようやく“それ”を見つけた。
巨大なスチール扉。横には電子認証のパネルがあり、操作が必要だった。
「任せて。ケイから借りた“ジャミングコード”がある」
数分後──“カチッ”という音とともに、扉が開いた。
内部は、時間が止まったかのように静かだった。
埃の積もる廊下、壊れたモニター、そして――その先にあった、ひとつの部屋。
「……ここだ」
イリヤの目に、うっすらと涙が滲む。
彼女の中に、眠っていた扉がゆっくりと開かれていく。
その瞬間──突如、頭に激しい痛みが走る。
「っ……! やだ、また……!」
彼女はその場に崩れ落ち、震える手でソウマの袖を掴んだ。
「お願い……離れないで……今、全部思い出しそうで、怖いの……!」
ソウマは彼女を抱きしめた。
「大丈夫、イリヤ。いや、アリサ。俺が、そばにいる」
その言葉に、彼女の脳内で何かが“弾けた”。
──人工の記憶。
──操作された愛。
──そして、誰かの「意志」によって消された、ほんとうの気持ち。
彼女は、ようやく“自分”という存在に触れた気がした。
白く、無機質な部屋。冷たい照明に照らされた、小さなベッド。
そして、向かいに立つ一人の少年──
「……ソウマ?」
目が覚めたとき、彼女の手には汗が滲んでいた。
記憶にないはずの夢。けれど、その映像はあまりに鮮明で。
何より、あの少年の瞳が──自分の中にある、喪われた何かを呼び覚ますようで。
数日後。ソウマとイリヤは、彼女の断片的な夢をもとに調査を始めていた。
「“白い部屋”って、他に覚えてることはある?」
「窓がなかった。代わりに、天井に黒いカメラが……私、毎日誰かに“質問”されていた」
その話を聞いたとき、ソウマの中で何かが繋がった。
「……それ、“第六研究区”かもしれない」
「第六……?」
“第六研究区”――それは、かつて政府が極秘に設けた《記憶操作実験施設》。
公式には“存在しない”ことになっている。だが、地下情報サイトでは噂されていた。
“記憶を消せるなら、逆もできる”
そこでは、AIと脳を接続して特定の記憶を“上書きする”実験が行われていたという。
それが成功すれば、人間の感情さえも“プログラムできる”と──
「そこに……私がいた、ってこと?」
「可能性は高い。でも、本当の記憶を取り戻すには……そこへ行くしかない」
リスクは大きい。第六研究区に侵入すれば、国家の監視網に引っかかる。
だが、イリヤははっきりと頷いた。
「私は……思い出したい。たとえ、どんな記憶でも。あなたのことを、ちゃんと……知りたいから」
夜。二人は廃墟となった旧政府ビル群の地下へと潜り込む。
道中、何度もAIセキュリティの目をかいくぐり、ようやく“それ”を見つけた。
巨大なスチール扉。横には電子認証のパネルがあり、操作が必要だった。
「任せて。ケイから借りた“ジャミングコード”がある」
数分後──“カチッ”という音とともに、扉が開いた。
内部は、時間が止まったかのように静かだった。
埃の積もる廊下、壊れたモニター、そして――その先にあった、ひとつの部屋。
「……ここだ」
イリヤの目に、うっすらと涙が滲む。
彼女の中に、眠っていた扉がゆっくりと開かれていく。
その瞬間──突如、頭に激しい痛みが走る。
「っ……! やだ、また……!」
彼女はその場に崩れ落ち、震える手でソウマの袖を掴んだ。
「お願い……離れないで……今、全部思い出しそうで、怖いの……!」
ソウマは彼女を抱きしめた。
「大丈夫、イリヤ。いや、アリサ。俺が、そばにいる」
その言葉に、彼女の脳内で何かが“弾けた”。
──人工の記憶。
──操作された愛。
──そして、誰かの「意志」によって消された、ほんとうの気持ち。
彼女は、ようやく“自分”という存在に触れた気がした。
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