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しおりを挟むそれから、言葉の通りロベルトは足しげくセイラの元を訪ねるのだった。
ただしセイラの醜聞にならぬよう、ルドー家へ訪問する時には家紋の入っていない馬車を使用したり、親戚筋の馬車を使って訪れることもした。
仕事で忙しくて来られない時は、菓子や花束を送ってくれたりもした。
そんなロベルトの心遣いが温かく嬉しい気持ちにもなるのだが、セイラの心はまだ癒し切れてはいなかった。
レインハルドを思う気持ちを消し去るのは、そんな簡単なことではなかったから。
セイラとレインハルドの婚約解消が正式に受理されると、その噂はまたたくまに社交界を駆け抜けた。
張本人のセイラから話を聞くために茶会や夜会の招待状が多数届くが、どれも欠席の返事を出す。
あれからセイラは誰にも会わず、どこにも顔を出さず、家で一人過ごしていた。
部屋で刺繍をしたり本を読んだり、時折年の離れた弟と遊んだりした。
そして足しげく通いつめるロベルトから、世間話程度の情報を耳にするくらいだった。
セイラとて、ただ憔悴しているわけではなく、噂が落ち着くのを待っていたのだ。
今自分が表舞台に出て行けばいらぬ噂も立つだろう。
恋に落ちた二人に余計な心配をかけたくはない。
そんなセイラにとって、ロベルトの訪問は息抜きになる大事な時間に変わっていった。
ある時、ロベルトから誘いを受ける。一緒に馬車で出かけないか?と。
行先は落ち着いた湖畔や山間の高原辺りを考えているようだ。
「気晴らしに行ってきたらどうだ?彼は信用できない人ではないと思うが」
父に言われ
「二人で出かけたところを見られたら、また何を言われるかわかったものじゃないわ。
もう少し大人しくしていたいのに」
「荒療治ということもある。お前が引きこもっているから、ある事ない事言われるんだ。
元気な姿をさらすことも時には必要な時もあるぞ」
そう言われセイラも考えるのだった。
「そう?そうかもしれないわね。そろそろ外の風を吸った方がいいのかもしれないわ」
父親に向かって、やっと作り笑いができるようになった自分に、自信もでてきた気がする。
次の週、ロベルトの誘いを受け少し遠い湖のほとりに出向くことになった。
「セイラ嬢、私の誘いを受けていただき感謝する。
今日はお互い気遣わず、のんびりとした時間を過ごそう」
ロベルトはセイラの手を取り口づけを落とす。
なんの真似だ?と思ったら表情に出たらしい。
「まったくあなたは思ったことがすぐに顔に出る。そう言われたことは?」
くくく・・・と笑いを堪えるロベルトに
「よく言われます」
と、睨みつけるのだった。
馬車で1時間ほどの距離、馬車の中ではなんてことのない雑談をして過ごした。
やはりこの人の前では素が出てしまう。困ったものだと思いながらも、それを面白がるロベルトに、まあいいか?とセイラは開き直ってみせた。
湖に着くと人の気配はないが、それでもベンチや四阿などがあり季節によっては賑わいそうな場所だった。
ロベルトは慣れた手つきで持参したシーツを広げると、その上にバスケットからランチを広げだす。
セイラの手を引きクッションの上に座らせると、熱い紅茶をカップに注ぎ手わたしてくれた。
あまりにも慣れた手つきに驚いたが、すぐに『ああ、誰かとこういうことをしているのね?』と理解する。
紅茶をひと口飲むと、
「恋人といつもこのようなことを?」
セイラの言葉に目を丸くして驚くロベルト。
「恋人?いたら君をこんなところに誘ったりはしないさ」
「あら、ごめんなさい。あまりに手つきが慣れていらしたから。
でも、今はいなくても前はそうだったのでしょう?」
「ははは。そんなに僕に恋人を作りたいのか?残念ながら今も昔も恋人なんていたことはないよ。
慣れているように見えるのは実際に慣れているからかな」
「恋人とではなく、こういうことを?」
「外での行動に慣れているのは、騎士として野戦の訓練をしたりするからさ。
ま、もっともその時はこんな小綺麗な物は一つもないがね」
そう言うと自分もカップに紅茶を注ぎ、一口飲みこんだ。
「え?あなた騎士だったの?」
驚くセイラに
「はあ・・・セイラ嬢は本当に僕に興味がないんだな。
ねえ、確認するけど僕が公爵家の三男だってことは知っている?」
「それはもちろん。公爵家の令息だとは知っていますわ。でも、三男とまでは知らなかったけど」
「他の令嬢方はね、我先にと僕に近づいてこようとするんだよ。これでも僕はモテる方だと思っていたんだけどねぇ」
「え?ええ、そうね。おモテになるんじゃないかしらね?」
「今、心にもないことを言ったって顔してたよ。君はすぐに顔に出るから」
「え?ほんとに?」
セイラは両手で頬を押さえて確認しようとするが
「ははは。まったく、セイラ嬢は本当に面白い!!」
「あ!嘘なのね?ひどいわ!」
初めて会ってから顔を合わせたのは、これで何度目だろう?
あれからロベルトはセイラを気遣い、何度となくルドー家へ訪問してくれている。
そのたびに優しく熱いものを与えられている気もするが、さすがにそれを真に受けるほどセイラの心の傷は癒されてはいなかった。
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