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婚約発表
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マーク王子とエイミーが別室から出て来た途端、目ざといゲストたちがささやき出す。
「マーク第三王子よ。隣の女性はどなたかしら」
「あのドレス素敵だわ。デバリエ夫人のデザインじゃないかしら」
グロリア伯爵は二人に目をとめた。
(あれがエイミーか。確かに魅力的な女性だな)
マークとエイミーは会場中の視線を集めながら、トーマスとフローラのところに真っすぐに向かった。
フローラはエイミーがマークにエスコートされていることに驚きを隠せないでいた。
マークがフローラに話しかけた。
「フローラさん、初めまして、マークです。兄をよろしくお願いします」
「初めまして、殿下、エイミーとはお知り合いでしたか?」
「ええ、婚約の申し込みをしておりまして、先程受けて頂きました」
「よかったな、マーク」
「ありがとう、兄さん」
「エイミー、そんな話が進んでたのね。教えてくれればいいじゃない。親友でしょう?」
「こういうのは慎重にしないといけないと思ったの」
「今晩、この機会をお借りして、陛下から発表されると思います」
「ところで、エイミー、そのドレスなんだけど、デバリエ夫人のオートクチュールかしら?」
フローラはもう我慢できなくなって、エイミーに直接確認した。
「そうみたい。王家の方に失礼のないようにって、父が無理して買ってくれたの」
今をときめくデバリエ夫人デザインのオートクチュールは、無理して買えるものではない。
お得意様中のお得意様以外は、いくらお金を積んでも、注文すら出来ないのだ。
グロリア伯爵の名前を出しても、難しいだろう。
なのに田舎貴族のマルソー子爵がどうして発注出来るのだ。
しかも、エイミーを招待してからまだ二週間だ。こんな短期間に仕上げてもらうなんて、王家ぐらいしか出来ないのではないか。
(そうか、王家からの結納品ね。それしか考えられないわ)
フローラがまだドレスに執着している様子を見て、マークがエイミーに話しかけた。
「エイミー、僕たちが兄さんたちを独り占めしちゃって、他の方々からにらまれているぞ。紹介したい友人がいるから、ついて来てくれるかい?」
「ええ、マーク。では、失礼します」
去って行くエイミーを視線で追わないようトーマスは我慢した。
大好きだったエイミーが、美しく成長していて、いったん諦めた気持ちが再び揺れ動いていた。
(僕は振られたんだ。マークを祝福しよう)
ポーカーフェイスは王族の必須スキルだ。泣きたい気持ちを凍らせて、トーマスは笑顔でフローラに視線を戻した。
「殿下、マーク殿下はいつエイミーとお知り合いに?」
「あ、ああ、湖で君たちと過ごした日々が僕には忘れられなくてね。いつも三人の話をしていたら、マークがフローラとエイミーのことに興味を持ったんだ。それで、僕がフローラを婚約者にするって言ったら、じゃあエイミーをってことになったんだ」
この言い方であれば、フローラの機嫌は損ねないだろう。トーマス渾身の言い訳だった。
実際にはエイミーのことしかマークには話していない。
「まあ、そうだったのね。あの湖のとき、急にエイミーと殿下が来られなくなって、随分心配しました。何があったのでしょう?」
「エイミーは僕と君の二人の時間を作ってくれたんだけど、父に急用ができて、すぐに帰ることになってね。今更だけど、連絡しないで帰ってしまってごめんね。エイミーにも連絡しないで帰ったんだ」
「私、しばらく二人を誤解してしまっていたの。殿下から婚約を申し込んで頂いて、誤解が解けたの。エイミーには謝ったわ。また元の親友に戻れて嬉しいわ」
「それはよかった。あっ、父上がスピーチするようだよ」
ちょうど壇上に国王陛下が上がるところだった。
歓談がぴたりと止み、全員が国王に注目する。
「今宵は第一王子トーマスとグロリア伯爵フローラ嬢の婚約披露宴への参加に感謝する。トーマスとフローラの婚約を祝うめでたいこの席で、さらにめでたい二つの報告ができることを朕は嬉しく思う」
観客から拍手が送られた。
「まず一つ目だが、第三王子マークとマルソー子爵エイミー嬢の婚約をここに発表する」
全員の視線が壇上近くに移動していた若き二人に移り、盛大な拍手が二人に送られた。
マークとエイミーがお辞儀をした。
「続いて二つ目だが、マルソー子爵を王の名においてマルソー伯爵に陞爵する」
会場の端の方にいたマルソー子爵夫妻が深々と一礼した。
会場からは惜しみない拍手が送られたが、グロリア伯爵は心中穏やかではなかった。
資産規模が王国一と言われるマルソー家が伯爵となることで、エイミーが伯爵令嬢となり、王妃になる資格を得るのだ。
今までは第三王子がエイミーと婚約することをグロリア伯爵は問題視していなかったが、伯爵令嬢を娶るとなると、第三王子が立太子する可能性が出てくる。
順当に第一王子だとは思うが、万一第一王子が大きな失策をすることがあれば、第三王子の芽が出て来るのだ。
(陛下の意図を調べる必要があるな)
グロリア伯爵は第三王子とエイミーに対する警戒感を一段階上げた。
「マーク第三王子よ。隣の女性はどなたかしら」
「あのドレス素敵だわ。デバリエ夫人のデザインじゃないかしら」
グロリア伯爵は二人に目をとめた。
(あれがエイミーか。確かに魅力的な女性だな)
マークとエイミーは会場中の視線を集めながら、トーマスとフローラのところに真っすぐに向かった。
フローラはエイミーがマークにエスコートされていることに驚きを隠せないでいた。
マークがフローラに話しかけた。
「フローラさん、初めまして、マークです。兄をよろしくお願いします」
「初めまして、殿下、エイミーとはお知り合いでしたか?」
「ええ、婚約の申し込みをしておりまして、先程受けて頂きました」
「よかったな、マーク」
「ありがとう、兄さん」
「エイミー、そんな話が進んでたのね。教えてくれればいいじゃない。親友でしょう?」
「こういうのは慎重にしないといけないと思ったの」
「今晩、この機会をお借りして、陛下から発表されると思います」
「ところで、エイミー、そのドレスなんだけど、デバリエ夫人のオートクチュールかしら?」
フローラはもう我慢できなくなって、エイミーに直接確認した。
「そうみたい。王家の方に失礼のないようにって、父が無理して買ってくれたの」
今をときめくデバリエ夫人デザインのオートクチュールは、無理して買えるものではない。
お得意様中のお得意様以外は、いくらお金を積んでも、注文すら出来ないのだ。
グロリア伯爵の名前を出しても、難しいだろう。
なのに田舎貴族のマルソー子爵がどうして発注出来るのだ。
しかも、エイミーを招待してからまだ二週間だ。こんな短期間に仕上げてもらうなんて、王家ぐらいしか出来ないのではないか。
(そうか、王家からの結納品ね。それしか考えられないわ)
フローラがまだドレスに執着している様子を見て、マークがエイミーに話しかけた。
「エイミー、僕たちが兄さんたちを独り占めしちゃって、他の方々からにらまれているぞ。紹介したい友人がいるから、ついて来てくれるかい?」
「ええ、マーク。では、失礼します」
去って行くエイミーを視線で追わないようトーマスは我慢した。
大好きだったエイミーが、美しく成長していて、いったん諦めた気持ちが再び揺れ動いていた。
(僕は振られたんだ。マークを祝福しよう)
ポーカーフェイスは王族の必須スキルだ。泣きたい気持ちを凍らせて、トーマスは笑顔でフローラに視線を戻した。
「殿下、マーク殿下はいつエイミーとお知り合いに?」
「あ、ああ、湖で君たちと過ごした日々が僕には忘れられなくてね。いつも三人の話をしていたら、マークがフローラとエイミーのことに興味を持ったんだ。それで、僕がフローラを婚約者にするって言ったら、じゃあエイミーをってことになったんだ」
この言い方であれば、フローラの機嫌は損ねないだろう。トーマス渾身の言い訳だった。
実際にはエイミーのことしかマークには話していない。
「まあ、そうだったのね。あの湖のとき、急にエイミーと殿下が来られなくなって、随分心配しました。何があったのでしょう?」
「エイミーは僕と君の二人の時間を作ってくれたんだけど、父に急用ができて、すぐに帰ることになってね。今更だけど、連絡しないで帰ってしまってごめんね。エイミーにも連絡しないで帰ったんだ」
「私、しばらく二人を誤解してしまっていたの。殿下から婚約を申し込んで頂いて、誤解が解けたの。エイミーには謝ったわ。また元の親友に戻れて嬉しいわ」
「それはよかった。あっ、父上がスピーチするようだよ」
ちょうど壇上に国王陛下が上がるところだった。
歓談がぴたりと止み、全員が国王に注目する。
「今宵は第一王子トーマスとグロリア伯爵フローラ嬢の婚約披露宴への参加に感謝する。トーマスとフローラの婚約を祝うめでたいこの席で、さらにめでたい二つの報告ができることを朕は嬉しく思う」
観客から拍手が送られた。
「まず一つ目だが、第三王子マークとマルソー子爵エイミー嬢の婚約をここに発表する」
全員の視線が壇上近くに移動していた若き二人に移り、盛大な拍手が二人に送られた。
マークとエイミーがお辞儀をした。
「続いて二つ目だが、マルソー子爵を王の名においてマルソー伯爵に陞爵する」
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今までは第三王子がエイミーと婚約することをグロリア伯爵は問題視していなかったが、伯爵令嬢を娶るとなると、第三王子が立太子する可能性が出てくる。
順当に第一王子だとは思うが、万一第一王子が大きな失策をすることがあれば、第三王子の芽が出て来るのだ。
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