第一王子を取られたと思ったら、第三王子の方が優良物件でしたが……

もぐすけ

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逃亡の誘い

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 法廷でマークは証言した。

「兄のトーマスの謀反は本当に残念ですが、裏でグロリア伯爵が糸を引いていたのは明白です。軍事費の横領の形跡もあります。また、兄が抵抗すると、監禁して無理矢理従わせたようです。監禁の証言もいくつか取っています」

 審議の成り行きを注意深く見守っていた貴族たちは、王家が多くの証拠を握っていると見て、グロリア伯爵から距離を置くようになった。

 グロリア伯爵は自邸で蟄居中のため、法廷へは出席出来ない。

 古参の従属貴族が法廷での審議の様子をグロリア伯爵に伝えた。

「何だと! 第三王子は味方になってくれるのではなかったのかっ」

 派閥の貴族が大量に離反してしまう前に、大勝負をかけないと、形勢は悪くなるばかりだ。

「かくなるうえは、挙兵して、第一王子に王位の簒奪をさせるしかない」

 グロリア伯爵は一か八かの勝負に出た。

 だが、王家はその動きを完全に読んでいた。

 マルソー家がすぐに自衛軍を動かした。マルソーの軍事力は圧倒的だった。

 弓矢と剣で攻めてくるグロリア軍に対して、銃や大砲で応戦してくるのだ。

 この世界で火薬が戦いで使用されたのは、これが初めてだった。

 力の差は歴然だった。

「マルソーがまさかこんなに力を持っていたとは……」

 グロリア伯爵は目の前の光景を信じることが出来なかった。

 大地を揺らし、耳をつんざくような轟音が響いた後、兵士たちが一瞬のうちに肉片に変わって行く。

 まるで、神と戦っているようだった。

 グロリア軍はただただ蹂躙されるだけだった。

 グロリア伯爵は泥まみれになりながら、敗走しているところをマルソー軍に捕えられた。

***

 グロリア伯爵が捕らえられて数日後、異例の早さで判決が下された。

 グロリア伯爵は国家反逆罪で死刑となった。

 翌日すぐに死刑執行となったが、グロリア伯爵は最後まで紳士然として、無言のまま潔く刑に服した。

 グロリア伯爵の最後の様子を聞いた国王は、「分かった」と一言発しただけだった。

 フローラはグロリア伯爵の共犯者とされたが、妊娠しているため、出産後に死刑となった。

 フローラの方は父親とは違って半狂乱になった。

 法廷で訳の分からないことを喚き散らし、逃げ出そうとしたところを女性騎士団に捕らえられ、貴族の婦女用の牢獄塔に幽閉となった。

 トーマスはグロリア伯爵に脅迫されて反逆を手伝ったということで、死罪とはならなかったが、皇太子を廃され、庶民の地位に落とされたうえで、ノルランド帝国との国境の町に追放となった。

 トーマスは王家を守るため、王家からの密命を自身の人生を犠牲にしてまでも遂行したのだが、世間からは謀反人としか見られないからだ。

 こういったことも覚悟の上で、トーマスは密命を受けたのだった。

 トーマスは護送車で北方に向かう途中で、エイミーに会うことを許されていた。

 エイミーは安定期に入り、数日後にマークの待つ王都に向かう準備をしていたところだった。

 エイミーは約ニ年振りにトーマスと再会した。

「やあ、エイミー、久しぶり、元気そうだね」

「トーマス様もあまりお変わりになられてないのですね」

 確かにトーマスは相変わらず綺麗な顔をしていた。

「エイミー、私と一緒に逃げないか?」

 トーマスはとんでもないことを話し始めた。
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