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監獄塔の面会人 フローラの悟り
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監獄塔の四階が私の住居。
牢屋というイメージからは程遠い高級ホテルの部屋のよう。
唯一気に入らないのは、窓が一つしかなく、小さいことだ。
その窓には鉄格子がはめられているが、王都の街並みを見ることが出来る。
右手の近くには私が通った学園が見える。
そういえば、学園からもこの塔が見えたっけ。
まさか私が入るとは思わなかったけど。
グロリア一族が粛正され、たった一人残されたものの、出産後に死刑が確定している私にとって、唯一の心残りは、お腹の子の成長を見ることが出来ないことだ。
自分の命が終わりを迎えると分かって、小さなことはどうでもよくなった。
母、父、トーマス、エイミー。
私の短い人生に多大な影響を与えた人たち。
この四人のことを想う日が多いが、母の死後、私の中に渦巻いていた焦燥感に似た気持ちはもうない。
何だか気持ちがスッキリしたのだ。
エイミーはトーマスがさらって、北方に逃亡中と聞いた。
あの優しい人が、エイミーの気持ちを無視することなんて有り得ないから、エイミーも一緒に行くことに決めたのだわ。
今、そのエイミーの夫が、私の牢獄を訪ねて来ている。
マークはこのところ、毎日のように私のところに訪ねて来ては、エイミーの昔話をせがんでくる。
「マーク、エイミーの昔話なんか聞いてないで、取り返しに追いかけに行きなさいよ」
「立太子の礼が終わってからだ。君は恩赦されて、無罪放免とまではいかないけど、死罪ではなくなる」
「そう……」
「あまり嬉しそうではないな」
「ほんと、自分でも驚いているわ。でも、この子の成長が見られるのは嬉しいかも」
私は自分のお腹をさすった。
「自分の人生をもう一度やり直したいとは思わないのか?」
「出来ることなら、郊外でこの子と二人でゆっくりと暮らしたいかな。朝起きて、ご飯を食べて、近くを散歩して。たまに町でオペラやオーケストラを観て。人を陥れたり、恨まれたりはもうしたくないわ」
「フローラは、その、綺麗だから、男たちが放っておかないんじゃないか?」
「ふふ、ありがとう。トーマスとよく似た顔でそう言われると、何だか嬉しいわ。そうね、私を愛してくれる人ならいいかな。愛のない結婚は経験済だから、愛のある結婚をしてみたい」
「今のフローラだったら、きっといい人が出来ると思うよ」
「凶悪な前科ものに恋する人がいるかしら」
この日から、マークは毎日私の牢を訪問するようになったが、エイミーの昔話はだんだんと少なくなり、お互いの話をよくするようになった。
そして、エイミー不在のまま、マークは皇太子となり、彼の尽力で、私は牢から出られることになった。
出所の日、何とマークが部屋まで迎えに来た。
「皇太子が迎えに来てくれるなんて。マーク、あなた、暇なの?」
「何を言ってるんだ。フローラは僕の義姉であり、今では友人でもあるんだ。ケアするのは当然だろう」
私はほろっと来てしまった。
人に親切にされるのは随分と久しぶりだ。
「素直に感謝します。ありがとう。このまま外に出されても、どうやって暮らして行くのか、正直なところ、さっぱり見当がつかなかったの。私って、何もできないお嬢様だって、痛感したわ」
マークが私をいたわりながら、塔の入口で待っていた馬車に乗せてくれた。
そして、何とマークまで馬車に乗り込んで来た。
「君の暮らす家を用意した。王都から馬車で三十分ほどのところだ。郊外で暮らしたいと言っていただろう。気に入ってくれるといいのだが」
私が目を丸くしてマークを見ていると、彼は照れくさそうに付け足した。
「もし気に入ったら、好きなだけいるといい。僕も今までと同じように話をしに行ってもいいかな」
私はにっこりと微笑んだ。
「いつでもどうぞ」
演技でなく、心から笑顔を見せたのは、母の死後、初めてのことだった。
牢屋というイメージからは程遠い高級ホテルの部屋のよう。
唯一気に入らないのは、窓が一つしかなく、小さいことだ。
その窓には鉄格子がはめられているが、王都の街並みを見ることが出来る。
右手の近くには私が通った学園が見える。
そういえば、学園からもこの塔が見えたっけ。
まさか私が入るとは思わなかったけど。
グロリア一族が粛正され、たった一人残されたものの、出産後に死刑が確定している私にとって、唯一の心残りは、お腹の子の成長を見ることが出来ないことだ。
自分の命が終わりを迎えると分かって、小さなことはどうでもよくなった。
母、父、トーマス、エイミー。
私の短い人生に多大な影響を与えた人たち。
この四人のことを想う日が多いが、母の死後、私の中に渦巻いていた焦燥感に似た気持ちはもうない。
何だか気持ちがスッキリしたのだ。
エイミーはトーマスがさらって、北方に逃亡中と聞いた。
あの優しい人が、エイミーの気持ちを無視することなんて有り得ないから、エイミーも一緒に行くことに決めたのだわ。
今、そのエイミーの夫が、私の牢獄を訪ねて来ている。
マークはこのところ、毎日のように私のところに訪ねて来ては、エイミーの昔話をせがんでくる。
「マーク、エイミーの昔話なんか聞いてないで、取り返しに追いかけに行きなさいよ」
「立太子の礼が終わってからだ。君は恩赦されて、無罪放免とまではいかないけど、死罪ではなくなる」
「そう……」
「あまり嬉しそうではないな」
「ほんと、自分でも驚いているわ。でも、この子の成長が見られるのは嬉しいかも」
私は自分のお腹をさすった。
「自分の人生をもう一度やり直したいとは思わないのか?」
「出来ることなら、郊外でこの子と二人でゆっくりと暮らしたいかな。朝起きて、ご飯を食べて、近くを散歩して。たまに町でオペラやオーケストラを観て。人を陥れたり、恨まれたりはもうしたくないわ」
「フローラは、その、綺麗だから、男たちが放っておかないんじゃないか?」
「ふふ、ありがとう。トーマスとよく似た顔でそう言われると、何だか嬉しいわ。そうね、私を愛してくれる人ならいいかな。愛のない結婚は経験済だから、愛のある結婚をしてみたい」
「今のフローラだったら、きっといい人が出来ると思うよ」
「凶悪な前科ものに恋する人がいるかしら」
この日から、マークは毎日私の牢を訪問するようになったが、エイミーの昔話はだんだんと少なくなり、お互いの話をよくするようになった。
そして、エイミー不在のまま、マークは皇太子となり、彼の尽力で、私は牢から出られることになった。
出所の日、何とマークが部屋まで迎えに来た。
「皇太子が迎えに来てくれるなんて。マーク、あなた、暇なの?」
「何を言ってるんだ。フローラは僕の義姉であり、今では友人でもあるんだ。ケアするのは当然だろう」
私はほろっと来てしまった。
人に親切にされるのは随分と久しぶりだ。
「素直に感謝します。ありがとう。このまま外に出されても、どうやって暮らして行くのか、正直なところ、さっぱり見当がつかなかったの。私って、何もできないお嬢様だって、痛感したわ」
マークが私をいたわりながら、塔の入口で待っていた馬車に乗せてくれた。
そして、何とマークまで馬車に乗り込んで来た。
「君の暮らす家を用意した。王都から馬車で三十分ほどのところだ。郊外で暮らしたいと言っていただろう。気に入ってくれるといいのだが」
私が目を丸くしてマークを見ていると、彼は照れくさそうに付け足した。
「もし気に入ったら、好きなだけいるといい。僕も今までと同じように話をしに行ってもいいかな」
私はにっこりと微笑んだ。
「いつでもどうぞ」
演技でなく、心から笑顔を見せたのは、母の死後、初めてのことだった。
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