第一王子を取られたと思ったら、第三王子の方が優良物件でしたが……

もぐすけ

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新王誕生

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「どうしてこんなことになった」

 国王は代表貴族が参加する議会の議長席の机を拳で叩いた。

 いならぶ貴族たちは全員が目を伏せている。

 マルソー家から領地を接収した年から徐々に税収が落ち始め、マルソー一家が帝国に移動してからは、年々五割以上の落ち込みで、全体の税収は接収前のニ割にも満たなくなってしまったのだ。

 また、農民の人口も三割以上が帝国に移動してしまった。

 王家は破産寸前だった。

 貴族たちも王家ほどの落ち込みではないが、マルソー領の税収を当てにして領地経営が散漫になり、やはり接収前よりも税収が落ち込んでしまっている。

「このままでは王国は潰れるぞ」

 王の嘆きに貴族の一人が意見を述べる。

「マルソー伯爵を呼び戻してはいかがでしょうか」

「で、何と言うのだ? 立て直した後にもう一度奪うから、戻って来てくれというのか? あのような忠臣に鬼畜のような所業で応じたのは、王家も貴様たちも破産寸前だったからだ。やはり、素直に助けを求めるべきだったか」

 別の貴族が別の案を出す。

「帝国におられる皇太子妃様に助けを求めては如何でしょうか。皇太子妃様は今や帝国で『国妃』と呼ばれ、絶大な権力を保持していると聞き及んでおります」

 エイミーはマルソー家で最も地位が高く、一族および全社員(使用人や役人をマルソー家では「社員」と呼んでいる)ニ万人の頂点に立っているという。

「エイミーにか。先祖代々の土地を奪っておいてか」

 今まで口を閉ざしていた宰相のマルクスが、神妙な顔で王に提案する。

「恐れながら、王位を皇太子様にお譲りになられては如何でしょうか。エイミー様はマーク様の正妻ですから、きっと救いの手を差し伸べてくれましょうぞ」

「何だと!」

 王は一瞬気色ばんだが、このままではいずれ王位にいられなくなるのは明らかだった。

 税収の落ち込みを補うために税率をあげ、都市の商人にも新税を課しており、民衆の不満は爆発寸前だ。

 退位させられるよりは譲位した方が、残りの人生を穏やかに過ごせるに違いない、と王は思い直した。

「いや、一理ある。少し考えさせてくれ」

***

 一週間後、国王は重税による国内の混乱の責任を取って、王位を皇太子に譲位すると宣言した。

 マークは戴冠式に王妃として出席するようエイミーに帰国要請を出したが、返って来た返事に苦笑いした

「ごめんなさい。こっちの方が面白いから、マークがこっちに来て」

 マークは国内情勢に配慮し、エイミー抜きの質素な戴冠式とした。

 国王に即位したマークは、すぐに宰相を罷免し、エイミーの弟のユージンを宰相に大抜擢した。

 そして、マークは国内の内政をユージンに一任した。

 ユージンはエイミーと仲がよい。

 マークはユージンをマルソー家が支援するだろうと踏んだのだ。

 民衆もマルソー家の血縁が宰相になったことで、ほっと一息ついた。

 ユージンはマルソー家のアドバイスを受けながら、様々な減税政策や農政改革を次々と打ち出し、王国は徐々に息を吹き返し始めた。

 マークは王国が危機的状況を脱したのを確認した後、フローラとソフィアを連れて、帝国に向かった。
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