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レンブラント
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湖畔の城には、毎日のように客が来て、全くゆっくり出来ない。
昨日はカイザー将軍の後に、しれっとマルクス宰相がやって来て、政策の打ち合わせに付き合わされた。
顧問料を請求したら、私が後宮から持ち出した宝石類については黙っておく、と言われた。あのたぬき親父には本当に腹が立つ。私が後宮嫌いになったのも、マルクス宰相からの政務責めが原因だと思う。
せっかく湖の近くの城なのに、まだ、一度も湖を見に行けていない。今日こそはと思っていたら、リブルがやって来た。
おおっ、格好いい男になっているじゃないの。
「フローラ姉、久しぶり。離縁されたんだって?」
リブルは同い年だが、私のことを姉と呼ぶ。
「まあね。リブル、見違えたわよ。ずいぶん背が高くなったわね」
「そうか。俺は姉のことは、何回か皇居で見かけているけど、姉は俺のことに気づいてなかったか。騎士団にいたんだぜ。オヤジに辞めさせられたけど」
「ごめん、知らなかった。でも、辞めてよかったの?」
「ああ、別にいいぜ。姉といるのは、いろいろと楽しいと思ったから」
「あなた、好きな子はいないの?」
「いないぞ。これから姉を好きにならないとな」
「別に無理しなくていいわよ。あなたモテそうね」
「どうだろう? 騎士団は硬派の男軍団だからね。そういうのはよく分からないんだ。ところで、早速だが、荷物はどこに置いたらいい?」
「アンナに案内させるわ。アンナ、リブルを客室に案内して差し上げて」
すぐにアンナが駆け付けて来て、リブルの荷物を持とうとしたら、リブルが「いいって、いいって」と言いながら、自分で荷物を持って歩いて行った。鍛え上げられた背中が逞しかった。
私がリブルの背中を見送っていると、セバスチャンが話かけて来た。
「ジーク・レンブラント様がいっらっしゃっております。フローラ様にぜひお会いしたいと」
「え? もう来られたの?」
レンブラント王国からここまで、三日はかかるはずだ。それに、なぜこの場所がわかったのだろうか。
(監視されていたのかしら。いずれにしろ、白黒つけなくてはいけないかも)
「応接室にお通しして」
「かしこまりました」
リブルはどうしようか。
「リブルには黙っていて。しばらく客室で休んでもらって」
「かしこまりました」
リブルはいてもいなくてもどちらでもよかったが、自分のペースで会話したいと思ったため、一人で会うことにした。
応接室に入ると、金髪碧眼の美しい男性が姿勢良く立って待っていた。
「お待たせいたしました。フローラです」
「突然押しかけてしまって申し訳ございません」
お互いに略式の挨拶を交わして、早速要件に入った。
「私はお父上からお聞きになっているかと思いますが、レンブラント王国の第七王子です」
「はい、聞いております」
「フローラ殿、私の妃になって頂けないでしょうか」
「お断りします」
「即答ですね」
王子が苦笑いしている。
「はい、申し訳ありませんが」
「出来れば、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「理由も何も、私は殿下を存じ上げませんもの」
「であれば、私を知って頂ければ、妃になって頂ける可能性はあると?」
「そうですね。可能性はございます」
「では、私を知って頂くために、我が国にご招待させて頂きたいのですが、如何でしょうか」
「それは出来かねます」
「マルクス殿から逃れられますが」
「み……」
「み?」
「魅力あるご提案です……。ですが、この城での生活を私は楽しみにしていたのです」
「旅行とお考え頂ければと思うのです。まずは一週間のご旅行ということでいかがでしょうか。もちろん、リブル殿の護衛付きでどうぞ」
リブルのことも調査済みか。
「お返事する前に、逆に私から質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。どうぞ」
「私をいつどちらでお知りになったのでしょうか」
王子は少し考えてから、口を開いた。
「出来れば秘密にしておきたかったのですが、お教えします。貴国の廷臣に我が国のスパイを潜ませております。その者から皇后様の各種政策を聞きました。また、その能力を皇帝から煙たがれていたことも」
そうだったのか。しかし、よくスパイのことまで話したな。
「分かりました。その者の名前は聞きません」
「助かります。その者の命に関わりますので。他にございますか?」
「貴国はハマーンの支配下にあると思いますが、現在はどのような状況でしょうか?」
「ハマーンとは同盟国の関係ですので、支配下にはありません。ハマーンは西海岸での力は失い、東に撤退した状態です」
「ハマーンとの再戦があると我国では警戒しておりますが」
「それは我国です」
「はい?」
「我国が貴国を狙っているのです。暗愚な皇帝が国力を落とすのを待っているのですよ」
「ひょっとして私を誘っているのは……」
「いくつか理由はありますが、もっとも大きな理由は、私がフローラ殿に魅力を感じているからです。国のことはおまけというか、周りを説得する材料でしかありません。その点は信じて頂くしかありませんが」
これは情報収集のためにも、一度レンブラントに行った方がいいだろう。
「分かりました。旅行に行かせてもらいます」
王子の目が輝いた。とても嬉しそうだ。
「ありがとうございます。それでは、行きましょう」
「え? 今からですか!?」
昨日はカイザー将軍の後に、しれっとマルクス宰相がやって来て、政策の打ち合わせに付き合わされた。
顧問料を請求したら、私が後宮から持ち出した宝石類については黙っておく、と言われた。あのたぬき親父には本当に腹が立つ。私が後宮嫌いになったのも、マルクス宰相からの政務責めが原因だと思う。
せっかく湖の近くの城なのに、まだ、一度も湖を見に行けていない。今日こそはと思っていたら、リブルがやって来た。
おおっ、格好いい男になっているじゃないの。
「フローラ姉、久しぶり。離縁されたんだって?」
リブルは同い年だが、私のことを姉と呼ぶ。
「まあね。リブル、見違えたわよ。ずいぶん背が高くなったわね」
「そうか。俺は姉のことは、何回か皇居で見かけているけど、姉は俺のことに気づいてなかったか。騎士団にいたんだぜ。オヤジに辞めさせられたけど」
「ごめん、知らなかった。でも、辞めてよかったの?」
「ああ、別にいいぜ。姉といるのは、いろいろと楽しいと思ったから」
「あなた、好きな子はいないの?」
「いないぞ。これから姉を好きにならないとな」
「別に無理しなくていいわよ。あなたモテそうね」
「どうだろう? 騎士団は硬派の男軍団だからね。そういうのはよく分からないんだ。ところで、早速だが、荷物はどこに置いたらいい?」
「アンナに案内させるわ。アンナ、リブルを客室に案内して差し上げて」
すぐにアンナが駆け付けて来て、リブルの荷物を持とうとしたら、リブルが「いいって、いいって」と言いながら、自分で荷物を持って歩いて行った。鍛え上げられた背中が逞しかった。
私がリブルの背中を見送っていると、セバスチャンが話かけて来た。
「ジーク・レンブラント様がいっらっしゃっております。フローラ様にぜひお会いしたいと」
「え? もう来られたの?」
レンブラント王国からここまで、三日はかかるはずだ。それに、なぜこの場所がわかったのだろうか。
(監視されていたのかしら。いずれにしろ、白黒つけなくてはいけないかも)
「応接室にお通しして」
「かしこまりました」
リブルはどうしようか。
「リブルには黙っていて。しばらく客室で休んでもらって」
「かしこまりました」
リブルはいてもいなくてもどちらでもよかったが、自分のペースで会話したいと思ったため、一人で会うことにした。
応接室に入ると、金髪碧眼の美しい男性が姿勢良く立って待っていた。
「お待たせいたしました。フローラです」
「突然押しかけてしまって申し訳ございません」
お互いに略式の挨拶を交わして、早速要件に入った。
「私はお父上からお聞きになっているかと思いますが、レンブラント王国の第七王子です」
「はい、聞いております」
「フローラ殿、私の妃になって頂けないでしょうか」
「お断りします」
「即答ですね」
王子が苦笑いしている。
「はい、申し訳ありませんが」
「出来れば、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「理由も何も、私は殿下を存じ上げませんもの」
「であれば、私を知って頂ければ、妃になって頂ける可能性はあると?」
「そうですね。可能性はございます」
「では、私を知って頂くために、我が国にご招待させて頂きたいのですが、如何でしょうか」
「それは出来かねます」
「マルクス殿から逃れられますが」
「み……」
「み?」
「魅力あるご提案です……。ですが、この城での生活を私は楽しみにしていたのです」
「旅行とお考え頂ければと思うのです。まずは一週間のご旅行ということでいかがでしょうか。もちろん、リブル殿の護衛付きでどうぞ」
リブルのことも調査済みか。
「お返事する前に、逆に私から質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。どうぞ」
「私をいつどちらでお知りになったのでしょうか」
王子は少し考えてから、口を開いた。
「出来れば秘密にしておきたかったのですが、お教えします。貴国の廷臣に我が国のスパイを潜ませております。その者から皇后様の各種政策を聞きました。また、その能力を皇帝から煙たがれていたことも」
そうだったのか。しかし、よくスパイのことまで話したな。
「分かりました。その者の名前は聞きません」
「助かります。その者の命に関わりますので。他にございますか?」
「貴国はハマーンの支配下にあると思いますが、現在はどのような状況でしょうか?」
「ハマーンとは同盟国の関係ですので、支配下にはありません。ハマーンは西海岸での力は失い、東に撤退した状態です」
「ハマーンとの再戦があると我国では警戒しておりますが」
「それは我国です」
「はい?」
「我国が貴国を狙っているのです。暗愚な皇帝が国力を落とすのを待っているのですよ」
「ひょっとして私を誘っているのは……」
「いくつか理由はありますが、もっとも大きな理由は、私がフローラ殿に魅力を感じているからです。国のことはおまけというか、周りを説得する材料でしかありません。その点は信じて頂くしかありませんが」
これは情報収集のためにも、一度レンブラントに行った方がいいだろう。
「分かりました。旅行に行かせてもらいます」
王子の目が輝いた。とても嬉しそうだ。
「ありがとうございます。それでは、行きましょう」
「え? 今からですか!?」
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