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旅立ち
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レンブラントに行くには、東端の港町タレーまで行き、そこから漁船に扮した船で渡るのだという。ジーク王子が私たちにそう説明してくれた。
私は今、馬車に揺られている。左にリブル、前にジークがいる。
着替えやその他は、私だけではなく、リブルの分もすべて用意してくれるらしく、まさに身一つで出発した。
馬車の外は田園風景が続いている。
先ほどから、リブルとジークは直接話そうとしない。私としか話さないのだ。会話は私とリブルか私とジークでしか行われず、極めて不自然だ。
「ちょっとリブル、殿下となぜ話さないのよ」
私は左肘でリブルを小突いた。リブルとは子供の頃によく遊んだが、その時の関係が徐々に戻って来ていた。
「いや、特にその、話すことがないんだ」
それを聞いてジークはにっこりと微笑んで、リブルに話しかけてくれた。
「リブル殿、レンブラントは初めてだろうか」
(むむ、さすが大人のジーク殿下ね。リブルがお子ちゃまに見えるわ)
「初めてです」
そして、沈黙が流れる。
(は、早くも会話が終わってしまった……。もういい、リブルは無視だ)
「あの、失礼ですが、ジーク殿下はおいくつなのでしょうか?」
「私は十八です」
(年下!? この落ち着き払った人物が年下っ!?)
「てっきり年上の方かと思ってました」
「よく言われます。落ち着いていると」
ふと横を見ると、リブルがニヤついている。この体育会系の単細胞は、王子が年下と知って、なぜか嬉しいらしい。やはりこいつは無視しよう。
私はジークの家族について、質問をすることにした。
「ご兄弟やご両親のことなども差し支えない範囲で教えて頂けますでしょうか」
「もちろんですとも。父は国王で、母は王妃です。兄弟は全員異母兄弟で、兄が六人、姉が五人です。私は王妃待望の子供で、全兄弟の末っ子なのです」
正妻の息子だって!? 嫡男じゃないの。
「あの、王位継承者はどなたなのでしょうか?」
「通常は長兄ですが、私が産まれて、不穏な空気になっています」
「そんな危険なところに姉を!?」
おおっ、リブルが会話に加わって来た。
「フローラ殿に危険はないです。むしろ、私とフローラ殿が結婚した方が、王位継承にはマイナスですので、兄たちは喜ぶと思います。それにリブル殿がついておられれば、危険など何もないのでは?」
「そ、それはその通りですが……」
リブルったら、いいようにあしらわれているわね。
「殿下、家臣の方々の中に、殿下を担ごうとされる方々がいれば、私は邪魔になるのでは?」
「さすがはフローラ殿、その通りです。ですが、もう少し事情は複雑でして、我が国は現在、意見が分かれておりまして、私は絶対反戦派から支持されています。どことも戦争を行わず、国力を富ませることを目標としていますので、やはりあなたに危害は加えません」
「どことも戦争をせず、ということは、主戦派にはアルタリアを攻める以外の考えもあるのでしょうか」
「はい、貴国とは友好関係を結び、東に進むことを主張する一派もおります。でも、貴国の国力が落ちれば、貴国との戦争を選択する方向に動くでしょう。いずれにせよ、現段階であなたをどうこうする輩は出るはずがないのです」
「分かりました」
リブルが神妙になって何か考えている。こと戦闘に関しては、カイザー家の面々は頭脳明晰となる。
「リブル、どうしたの?」
「いや、皇帝に離縁された元皇后という身分が、レンブラントにどのような価値として映るかを考えていたんだ。姉を利用しようと思うものから姉を守るためには、敵の思考を読まないといけないのでね」
そこまで言って、リブルはジークを見て、付け足した。
「悪いですが、殿下も敵の可能性がありますから」
「そこまで考えてくれていると頼もしいよ」
ジークが苦笑いしながらそう答えたが、私も同意見だ。今回旅に出ようと決めたのも、リブルが同行してくれるという安心感があったからだ。
リブル、頼りになりそうね。
私は今、馬車に揺られている。左にリブル、前にジークがいる。
着替えやその他は、私だけではなく、リブルの分もすべて用意してくれるらしく、まさに身一つで出発した。
馬車の外は田園風景が続いている。
先ほどから、リブルとジークは直接話そうとしない。私としか話さないのだ。会話は私とリブルか私とジークでしか行われず、極めて不自然だ。
「ちょっとリブル、殿下となぜ話さないのよ」
私は左肘でリブルを小突いた。リブルとは子供の頃によく遊んだが、その時の関係が徐々に戻って来ていた。
「いや、特にその、話すことがないんだ」
それを聞いてジークはにっこりと微笑んで、リブルに話しかけてくれた。
「リブル殿、レンブラントは初めてだろうか」
(むむ、さすが大人のジーク殿下ね。リブルがお子ちゃまに見えるわ)
「初めてです」
そして、沈黙が流れる。
(は、早くも会話が終わってしまった……。もういい、リブルは無視だ)
「あの、失礼ですが、ジーク殿下はおいくつなのでしょうか?」
「私は十八です」
(年下!? この落ち着き払った人物が年下っ!?)
「てっきり年上の方かと思ってました」
「よく言われます。落ち着いていると」
ふと横を見ると、リブルがニヤついている。この体育会系の単細胞は、王子が年下と知って、なぜか嬉しいらしい。やはりこいつは無視しよう。
私はジークの家族について、質問をすることにした。
「ご兄弟やご両親のことなども差し支えない範囲で教えて頂けますでしょうか」
「もちろんですとも。父は国王で、母は王妃です。兄弟は全員異母兄弟で、兄が六人、姉が五人です。私は王妃待望の子供で、全兄弟の末っ子なのです」
正妻の息子だって!? 嫡男じゃないの。
「あの、王位継承者はどなたなのでしょうか?」
「通常は長兄ですが、私が産まれて、不穏な空気になっています」
「そんな危険なところに姉を!?」
おおっ、リブルが会話に加わって来た。
「フローラ殿に危険はないです。むしろ、私とフローラ殿が結婚した方が、王位継承にはマイナスですので、兄たちは喜ぶと思います。それにリブル殿がついておられれば、危険など何もないのでは?」
「そ、それはその通りですが……」
リブルったら、いいようにあしらわれているわね。
「殿下、家臣の方々の中に、殿下を担ごうとされる方々がいれば、私は邪魔になるのでは?」
「さすがはフローラ殿、その通りです。ですが、もう少し事情は複雑でして、我が国は現在、意見が分かれておりまして、私は絶対反戦派から支持されています。どことも戦争を行わず、国力を富ませることを目標としていますので、やはりあなたに危害は加えません」
「どことも戦争をせず、ということは、主戦派にはアルタリアを攻める以外の考えもあるのでしょうか」
「はい、貴国とは友好関係を結び、東に進むことを主張する一派もおります。でも、貴国の国力が落ちれば、貴国との戦争を選択する方向に動くでしょう。いずれにせよ、現段階であなたをどうこうする輩は出るはずがないのです」
「分かりました」
リブルが神妙になって何か考えている。こと戦闘に関しては、カイザー家の面々は頭脳明晰となる。
「リブル、どうしたの?」
「いや、皇帝に離縁された元皇后という身分が、レンブラントにどのような価値として映るかを考えていたんだ。姉を利用しようと思うものから姉を守るためには、敵の思考を読まないといけないのでね」
そこまで言って、リブルはジークを見て、付け足した。
「悪いですが、殿下も敵の可能性がありますから」
「そこまで考えてくれていると頼もしいよ」
ジークが苦笑いしながらそう答えたが、私も同意見だ。今回旅に出ようと決めたのも、リブルが同行してくれるという安心感があったからだ。
リブル、頼りになりそうね。
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