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本当の目的
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馬車でリーバに向かっていたときに、ハプニングが発生した。
数時間前に出した伝令が戻って来て、この先の道が土砂崩れで通れなくなってしまっていることを教えてくれたのだ。
先日の土砂降りの影響だという。
我々は仕方がないので、いったん港町に戻ったのだが、昨日、王都で政変が起きていたらしく、長男のジタンが父に譲位を迫り、王位についたらしいのだ。
そして、ジタンが後顧の憂いを断つために、ジーク派の一掃も始めたらしく、リーバにも兵を派遣して来たらしい。
「申し訳ございません。旅のご案内は出来なくなりました。私の手のものに、お二方をアルタリアまでお送りするように申し伝えますので、すぐにお帰りください」
「姉、どうする?」
私はレンブラントを分裂させるいい機会だと思った。
「殿下、我が国に亡命されませんか?」
「そんなことをしたら、ジタンは貴国を攻めるかもしれないです」
「どっちにしろ、攻めるつもりでしょう。今回私を連れて来たのも、それを認識させる目的があったのでは?」
「攻めるかどうかは五分五分です。フローラ殿にその状況をご認識頂きたかったのはおっしゃる通りです。フローラ殿が貴国に戻った後、国力を上げて頂き、我が国が貴国を攻めるのを断念する方向に持って行きたいと考えてました」
「殿下は我が国を攻めるのは反対なのですね?」
「反対です。我が王国は陸軍は強力ですが、海軍は貴国と同等か、もしくは少し勝るぐらいです。そのため、貴国と戦争を始めたら、数十年続く消耗戦に陥る可能性があると私は見ています。貴国の鉱山資源は魅力的ですが、代償が大きすぎるのです」
「殿下が手勢を引き連れて亡命したら、いい防波堤になってくれると私は考えました。新政権もそういう形で殿下が亡命すれば、我が国を攻めることは諦めるのではないでしょうか」
「私の軍ごと受け入れるとおっしゃるのですか? そのまま貴国を攻めるかもしれませんよ」
「ふふふ。攻めてどうするのです? ジタンは殿下が手柄を立てれば、ますます殿下を危険視して、殿下のおっしゃった強力な陸軍で、殿下ごとアリタリアを制服してしまうでしょう」
「ジタンと私が組んでいて、フローラ殿に私の亡命をスムーズに運んでもらうための計略だったとしら、どうされるのです?」
「それも考えましたが、可能性はゼロと思いました。仮に土砂崩れも含めて、これが計略だとしたら、私は間違いなく殿下に惚れてしまいます。そうなったら、殿下に嫁いで、我が国が貴国から平和的に制服される方向にするように尽力したいと思います」
「そこまでお考えか。私があなたを愛していることは疑わないのですか?」
「その、大切にして頂いていることを一秒一秒感じるのです……」
「ああ、それは伝わっていたのですね。でも、それも計略かもしれないですよ」
「もしそうだったら、この世を悲観して、修道院にでも入りますわ」
「分かりました。ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして、私の持つ全軍を貴国に避難させます。戦艦もありったけ、貴国に提供します」
ジークは海軍を掌握しており、ジタンには陸では手も足も出ないが、海では圧倒できる力を持っていた。
ジークの海軍を引き連れての亡命は、私から父、マルクス、カイザー将軍を説得し、受け入れられた。獅子心中の虫となるかもしれないが、私と同様、父たちもそうはならないと踏んだのである。ちなみに、陛下には知らせなければいい。
ジークが電光石火のごとく、海軍を引き連れて亡命する様子を見て、私は確信した。
(この人、これを狙っていたのだわ)
私は後日、ジークに聞いてみた。
「殿下、本当に土砂崩れなどあったのでしょうか?」
「いずれバレますからお話しします。土砂崩れどころか、政変も起きていないのです」
「え? どこまでが嘘で、どこまでが本当なのでしょうか?」
「あなたを愛していることは本当です。パーティが開かれるというところからは、嘘というか、すべて計略です。騙すようなことをして、本当に申し訳ございません。でも、海軍を差し出すなんて、とても信じて頂けないですよね。こうするしかなかったのです」
(ダメ、この人、凄すぎるわ)
数時間前に出した伝令が戻って来て、この先の道が土砂崩れで通れなくなってしまっていることを教えてくれたのだ。
先日の土砂降りの影響だという。
我々は仕方がないので、いったん港町に戻ったのだが、昨日、王都で政変が起きていたらしく、長男のジタンが父に譲位を迫り、王位についたらしいのだ。
そして、ジタンが後顧の憂いを断つために、ジーク派の一掃も始めたらしく、リーバにも兵を派遣して来たらしい。
「申し訳ございません。旅のご案内は出来なくなりました。私の手のものに、お二方をアルタリアまでお送りするように申し伝えますので、すぐにお帰りください」
「姉、どうする?」
私はレンブラントを分裂させるいい機会だと思った。
「殿下、我が国に亡命されませんか?」
「そんなことをしたら、ジタンは貴国を攻めるかもしれないです」
「どっちにしろ、攻めるつもりでしょう。今回私を連れて来たのも、それを認識させる目的があったのでは?」
「攻めるかどうかは五分五分です。フローラ殿にその状況をご認識頂きたかったのはおっしゃる通りです。フローラ殿が貴国に戻った後、国力を上げて頂き、我が国が貴国を攻めるのを断念する方向に持って行きたいと考えてました」
「殿下は我が国を攻めるのは反対なのですね?」
「反対です。我が王国は陸軍は強力ですが、海軍は貴国と同等か、もしくは少し勝るぐらいです。そのため、貴国と戦争を始めたら、数十年続く消耗戦に陥る可能性があると私は見ています。貴国の鉱山資源は魅力的ですが、代償が大きすぎるのです」
「殿下が手勢を引き連れて亡命したら、いい防波堤になってくれると私は考えました。新政権もそういう形で殿下が亡命すれば、我が国を攻めることは諦めるのではないでしょうか」
「私の軍ごと受け入れるとおっしゃるのですか? そのまま貴国を攻めるかもしれませんよ」
「ふふふ。攻めてどうするのです? ジタンは殿下が手柄を立てれば、ますます殿下を危険視して、殿下のおっしゃった強力な陸軍で、殿下ごとアリタリアを制服してしまうでしょう」
「ジタンと私が組んでいて、フローラ殿に私の亡命をスムーズに運んでもらうための計略だったとしら、どうされるのです?」
「それも考えましたが、可能性はゼロと思いました。仮に土砂崩れも含めて、これが計略だとしたら、私は間違いなく殿下に惚れてしまいます。そうなったら、殿下に嫁いで、我が国が貴国から平和的に制服される方向にするように尽力したいと思います」
「そこまでお考えか。私があなたを愛していることは疑わないのですか?」
「その、大切にして頂いていることを一秒一秒感じるのです……」
「ああ、それは伝わっていたのですね。でも、それも計略かもしれないですよ」
「もしそうだったら、この世を悲観して、修道院にでも入りますわ」
「分かりました。ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして、私の持つ全軍を貴国に避難させます。戦艦もありったけ、貴国に提供します」
ジークは海軍を掌握しており、ジタンには陸では手も足も出ないが、海では圧倒できる力を持っていた。
ジークの海軍を引き連れての亡命は、私から父、マルクス、カイザー将軍を説得し、受け入れられた。獅子心中の虫となるかもしれないが、私と同様、父たちもそうはならないと踏んだのである。ちなみに、陛下には知らせなければいい。
ジークが電光石火のごとく、海軍を引き連れて亡命する様子を見て、私は確信した。
(この人、これを狙っていたのだわ)
私は後日、ジークに聞いてみた。
「殿下、本当に土砂崩れなどあったのでしょうか?」
「いずれバレますからお話しします。土砂崩れどころか、政変も起きていないのです」
「え? どこまでが嘘で、どこまでが本当なのでしょうか?」
「あなたを愛していることは本当です。パーティが開かれるというところからは、嘘というか、すべて計略です。騙すようなことをして、本当に申し訳ございません。でも、海軍を差し出すなんて、とても信じて頂けないですよね。こうするしかなかったのです」
(ダメ、この人、凄すぎるわ)
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