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逃亡ルートの検証
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私は倉庫の中を物色していた。
これから数時間は誰も入って来ないことは確認済みだ。
シミュレーションではざっとしか見ていないため、実際に目で見て確認しているのだ。
業者は王宮に食料品と日用雑貨を納品しているようだ。
「あ、これ、ここのものだったのね」
王宮内でよく見るランプだった。
食料品の棚には、保存のきく瓶詰めの漬物や干し肉のパック、飲料水のボトルなどが置かれていた。
「旅支度にはちょうどいい品揃えのように思うのだけれど、何が必要なのかよく分からないわ。私って本当にお嬢様で困ってしまう。テレサがいてくれたら……」
テレサの明るい笑顔が思い出されて、悲しい気持ちになってしまうが、彼女がくれた若さを無駄にしてはいけない。
「さて、シミュレーションしよう」
かなり体力的に辛いので、自分自身に喝を入れないとシミュレーションはなかなか始められない。
持って来た宝石類を売って、馬車を調達して、帝国に向かうシミュレーションは全て失敗だった。
次に乗り合い馬車に乗って、帝国へと向かうシミュレーションを試みたが、これも全て失敗だった。
「今日はもうこれ以上ダメかも……」
最後に引き続き三時間ここにいた場合のシミュレーションを行い、安全を確認した。
「少し休もう」
要するにただでさえ女の一人旅は危険なのに、歳が若く、しかも、美しい私は、男に狙われやすい、というのが分かった。
さすがに数時間で何かされそうになるという極端なケースはないが、不審な男に目をつけられてしまうのだ。
棚に保管してあった干し肉を食べ、少しだけ仮眠を取り、再びシミュレーションを開始しようと思ったが、女の格好では絶対にうまくいかない気がして来た。
「髪を切って、男装したパターンでシミュレーションしてみようかしら。いや、そうではないわ。思い切って、着飾っていけばいいのよ。貴族の娘にはそうそう手を出せないはずよ」
行けそうに思ったのだが、貴族の子女をさらうプロの盗賊団がいて、護衛のいない貴族はあっという間にカモにされることがわかった。
男装もダメだった。
「美少年も狙われるのね……。なんて治安の悪い国なのかしら」
命の軽い国だ。お金のために簡単に人をさらう。
「参ったわ。どうやって脱出すればいいのかしら」
結局、これだと思う方法に辿り着くまでに丸三日もかかってしまった。
倉庫には数回人の出入りがあったが、その都度、倉庫の裏の雑木林に隠れてやり過ごした。
雑木林にはちょっと他にも用があったのですけれども。
私は髪を切って、倉庫の中にあった上質の男性服に着替え、剣を腰に差した。
女らしい体の曲線を消すために、ロングコートを着て、前をしめた。
貴族の青年に変装したのだ。
私は女性の中では背の高い方だったし、踵の高いブーツを履いているので、男装してもそんなに違和感はないはずだ。
倉庫にお礼の代金として、シルクのスカートを置いて、冒険者組合へと向かった。
冒険者組合には貴人警護を専門とする女性チームが幾つかあり、そこに護衛を依頼すれば、防衛馬車をはじめ、旅支度も食料も全て用意してくれるのだ。
しかも、支払いは宝石でも可ということで、質屋でぼったくられることもなく、怪しい男につけられることもない。
「本当にシミュレーション能力がなかったら、今頃、盗賊の慰み者か、奴隷商に売られてるわね」
これから数時間は誰も入って来ないことは確認済みだ。
シミュレーションではざっとしか見ていないため、実際に目で見て確認しているのだ。
業者は王宮に食料品と日用雑貨を納品しているようだ。
「あ、これ、ここのものだったのね」
王宮内でよく見るランプだった。
食料品の棚には、保存のきく瓶詰めの漬物や干し肉のパック、飲料水のボトルなどが置かれていた。
「旅支度にはちょうどいい品揃えのように思うのだけれど、何が必要なのかよく分からないわ。私って本当にお嬢様で困ってしまう。テレサがいてくれたら……」
テレサの明るい笑顔が思い出されて、悲しい気持ちになってしまうが、彼女がくれた若さを無駄にしてはいけない。
「さて、シミュレーションしよう」
かなり体力的に辛いので、自分自身に喝を入れないとシミュレーションはなかなか始められない。
持って来た宝石類を売って、馬車を調達して、帝国に向かうシミュレーションは全て失敗だった。
次に乗り合い馬車に乗って、帝国へと向かうシミュレーションを試みたが、これも全て失敗だった。
「今日はもうこれ以上ダメかも……」
最後に引き続き三時間ここにいた場合のシミュレーションを行い、安全を確認した。
「少し休もう」
要するにただでさえ女の一人旅は危険なのに、歳が若く、しかも、美しい私は、男に狙われやすい、というのが分かった。
さすがに数時間で何かされそうになるという極端なケースはないが、不審な男に目をつけられてしまうのだ。
棚に保管してあった干し肉を食べ、少しだけ仮眠を取り、再びシミュレーションを開始しようと思ったが、女の格好では絶対にうまくいかない気がして来た。
「髪を切って、男装したパターンでシミュレーションしてみようかしら。いや、そうではないわ。思い切って、着飾っていけばいいのよ。貴族の娘にはそうそう手を出せないはずよ」
行けそうに思ったのだが、貴族の子女をさらうプロの盗賊団がいて、護衛のいない貴族はあっという間にカモにされることがわかった。
男装もダメだった。
「美少年も狙われるのね……。なんて治安の悪い国なのかしら」
命の軽い国だ。お金のために簡単に人をさらう。
「参ったわ。どうやって脱出すればいいのかしら」
結局、これだと思う方法に辿り着くまでに丸三日もかかってしまった。
倉庫には数回人の出入りがあったが、その都度、倉庫の裏の雑木林に隠れてやり過ごした。
雑木林にはちょっと他にも用があったのですけれども。
私は髪を切って、倉庫の中にあった上質の男性服に着替え、剣を腰に差した。
女らしい体の曲線を消すために、ロングコートを着て、前をしめた。
貴族の青年に変装したのだ。
私は女性の中では背の高い方だったし、踵の高いブーツを履いているので、男装してもそんなに違和感はないはずだ。
倉庫にお礼の代金として、シルクのスカートを置いて、冒険者組合へと向かった。
冒険者組合には貴人警護を専門とする女性チームが幾つかあり、そこに護衛を依頼すれば、防衛馬車をはじめ、旅支度も食料も全て用意してくれるのだ。
しかも、支払いは宝石でも可ということで、質屋でぼったくられることもなく、怪しい男につけられることもない。
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