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ユリカ姫の目論み
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「いらっしゃらない? どういうこと?」
ユリカ姫は報告に来た衛兵を睨みつけた。
「そ、それが、いつの間にか、消えてしまわれたのです。しっかりと見張っていたのですが、いったいどうやって我々の監視の目をかいくぐったのか、皆目見当がつかないのです」
「荷物は?」
「何も残っていませんでした。王妃様の持ち物も侍女の持ち物もなくなっていました」
ユリカ姫は荷物を取り上げるべきだったと後悔した。
王妃は数々の国宝級の装飾品を保持していたのだ。
「王宮内は探したの?」
「はい、どこにもいらっしゃらないです」
「この間抜けどもがっ! 必ず見つけなさいっ。さもなくば、家族もろとも厳罰に処すわ。覚悟なさいっ!」
「はいっ」
そのとき、他の衛兵が入って来た。
「ユリカ様、月池のところに王妃様の靴が見つかりましたっ」
ユリカ姫は怪訝な表情をした。
「自害なされたとでもいうの?」
確かに昨日見た王妃は、絶望のどん底にいるような顔をしていて、いい気味だった。
だが、王妃は確か帝国のフローラ教徒だったはずだ。フローラ教では自殺は厳禁だ。
(衰弱死させるつもりが、失踪だなんて、面倒なことをしてくれると思ったけど、事故死したことにすれば、王妃の座はすぐに空くわね)
「いいえ、自害ではないわ。王妃様は事故に遭われたのよ。王様には私からご報告しておきます。あなたたちは王妃様の所持品を探しなさい」
自殺だと世間体がよくない。
不幸な事故で片付けるのが最良だとユリカ姫は判断した。
***
「そうか、死んだか」
ユリカ姫の報告を聞いたライザーは、一言そう言っただけだった。
長年夫婦として過ごして来た相手でも、情がなくなってしまうと、訃報を聞いてもこの程度の反応となってしまうのだろうか。
(私はこんな反応をされるようにはならないわよ。あの女の二の舞は踏まないわ)
「王様、葬儀は私にお任せ頂けますか?」
「そうだな、ユリカ姫に任せよう。かつては私が愛した女だ。近年は邪魔でしかなかったが、死んだのであれば、きちんと弔ってやろう。王妃は国民に人気があったしな。それより、今晩も楽しみにしているぞ」
「もう、王様ったら、もう少し悲しんであげて下さいな」
装飾品の行方が気になるが、これで王妃の座が空くことは確定だ。
喪が明ければ、自動的に第二夫人のユリカ姫が王妃に繰り上がる。
(あとは子供を産めばいいのだけど、果たして産めるかしら)
ユリカ姫は王国の隣国の教国の皇女で、もう愛されていない王妃の座を奪うために教国から送られて来た。
王国では、一夫多妻は法的には合法だが、倫理的にはあまり良いとはされていない。
そのため、歴代の王の妻はこれまで一人が慣例だったが、ライザーは四十を過ぎても子がいなかったのと、教国との友好を深めるという目的があったため、ユリカ姫は第二夫人として歓迎されたのであった。
ただ、王には非公式な妾が何人かいて、いずれも子をなしていないことから、子供が出来ない原因は王にある可能性が高かった。
教国は王と容姿の似た男性を数人用意しており、五年以内に子供が出来ない場合は、強硬手段に出ることも辞さない構えだった。
ユリカ姫は二十歳になったばかり。
教国の皇女で、天使と呼ばれた美貌を誇る自分が、二十歳以上も歳の離れた他国の男に嫁いで来て、第二夫人でしかないという立場に、ユリカ姫は我慢ができなかった。
王妃は四十歳にしては驚くほど美しいが、すでに全盛期の美貌はなく、自分には及ばない。
また、王妃の性格は奥ゆかしく、美人で静かな女性が好まれる王国の国民からの人気は高いが、王妃としては少し地味で、物足りないとユリカ姫は思っていた。
なぜ自分がこの女の次なんだと、ユリカ姫は王妃を見るたびにイライラしていたのであった。
ようやくそのストレスから解放される。
(短い間だったけど、本当に邪魔な女だったわ。国費がもったいない気がするけど、思ったよりも早く死んでくれてありがとうの感謝を込めて、王妃らしい葬儀にしてあげるから、早く成仏してね)
ユリカ姫は報告に来た衛兵を睨みつけた。
「そ、それが、いつの間にか、消えてしまわれたのです。しっかりと見張っていたのですが、いったいどうやって我々の監視の目をかいくぐったのか、皆目見当がつかないのです」
「荷物は?」
「何も残っていませんでした。王妃様の持ち物も侍女の持ち物もなくなっていました」
ユリカ姫は荷物を取り上げるべきだったと後悔した。
王妃は数々の国宝級の装飾品を保持していたのだ。
「王宮内は探したの?」
「はい、どこにもいらっしゃらないです」
「この間抜けどもがっ! 必ず見つけなさいっ。さもなくば、家族もろとも厳罰に処すわ。覚悟なさいっ!」
「はいっ」
そのとき、他の衛兵が入って来た。
「ユリカ様、月池のところに王妃様の靴が見つかりましたっ」
ユリカ姫は怪訝な表情をした。
「自害なされたとでもいうの?」
確かに昨日見た王妃は、絶望のどん底にいるような顔をしていて、いい気味だった。
だが、王妃は確か帝国のフローラ教徒だったはずだ。フローラ教では自殺は厳禁だ。
(衰弱死させるつもりが、失踪だなんて、面倒なことをしてくれると思ったけど、事故死したことにすれば、王妃の座はすぐに空くわね)
「いいえ、自害ではないわ。王妃様は事故に遭われたのよ。王様には私からご報告しておきます。あなたたちは王妃様の所持品を探しなさい」
自殺だと世間体がよくない。
不幸な事故で片付けるのが最良だとユリカ姫は判断した。
***
「そうか、死んだか」
ユリカ姫の報告を聞いたライザーは、一言そう言っただけだった。
長年夫婦として過ごして来た相手でも、情がなくなってしまうと、訃報を聞いてもこの程度の反応となってしまうのだろうか。
(私はこんな反応をされるようにはならないわよ。あの女の二の舞は踏まないわ)
「王様、葬儀は私にお任せ頂けますか?」
「そうだな、ユリカ姫に任せよう。かつては私が愛した女だ。近年は邪魔でしかなかったが、死んだのであれば、きちんと弔ってやろう。王妃は国民に人気があったしな。それより、今晩も楽しみにしているぞ」
「もう、王様ったら、もう少し悲しんであげて下さいな」
装飾品の行方が気になるが、これで王妃の座が空くことは確定だ。
喪が明ければ、自動的に第二夫人のユリカ姫が王妃に繰り上がる。
(あとは子供を産めばいいのだけど、果たして産めるかしら)
ユリカ姫は王国の隣国の教国の皇女で、もう愛されていない王妃の座を奪うために教国から送られて来た。
王国では、一夫多妻は法的には合法だが、倫理的にはあまり良いとはされていない。
そのため、歴代の王の妻はこれまで一人が慣例だったが、ライザーは四十を過ぎても子がいなかったのと、教国との友好を深めるという目的があったため、ユリカ姫は第二夫人として歓迎されたのであった。
ただ、王には非公式な妾が何人かいて、いずれも子をなしていないことから、子供が出来ない原因は王にある可能性が高かった。
教国は王と容姿の似た男性を数人用意しており、五年以内に子供が出来ない場合は、強硬手段に出ることも辞さない構えだった。
ユリカ姫は二十歳になったばかり。
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王妃は四十歳にしては驚くほど美しいが、すでに全盛期の美貌はなく、自分には及ばない。
また、王妃の性格は奥ゆかしく、美人で静かな女性が好まれる王国の国民からの人気は高いが、王妃としては少し地味で、物足りないとユリカ姫は思っていた。
なぜ自分がこの女の次なんだと、ユリカ姫は王妃を見るたびにイライラしていたのであった。
ようやくそのストレスから解放される。
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