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王宮からの脱出
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庵には見張りがいる。
二名ずつ交代制で一日中私を見張っているが、昼の交代のとき、申し送りをするため、庵の裏側に割と大きな死角が生まれる。
私は裏口から出て、彼らから死角となる位置取りで、庵から真っ直ぐ離れていった。
ある程度、庵から離れれば、十六歳になった私を誰も王妃だとは思わない。
テレサの荷物から彼女の服を取り出して着用しているので、女官に見えるはずだ。
自分で言うのも何だが、私はかなり綺麗な顔をしているので、出来るだけ俯いて歩くようにした。
「私の美貌は目立つのよね」
見張りの目を抜けたことで、軽口を叩ける余裕も出て来たが、これはシミュレーションではなく本番だ。
否が応でも緊張する。
門の近くまで行き、王宮から出る業者が来るのを待ち、狙っていた馬車の荷台に飛び乗って、すぐにホロの中に隠れた。
「ふう。うまく行ったわ」
やはり本番はかなり緊張した。
荷台に隠れた後も、しばらく足の震えがおさまらなかった。
王宮から真っ直ぐに伸びるメインストリートを抜け、市街地に差し掛かった辺りで、ようやく王宮から無事に抜け出せたことを実感できた。
私の実家は帝国の貴族だ。
帝国の貴族の娘ということで、王との結婚には、王国の面々から猛反対を受けた。
また、実家からも敵国に嫁ぐなら縁を切って行けと言われ、ライザーの部下たちの手引きで、帝国を逃げ出すように出国したのだった。
今更おめおめと私が実家に帰ることは出来ないが、私の娘と名乗って、孫として父に会いに行けば、匿ってくれるはずだ。
シミュレーション能力は、今の自分が起点となって行う必要があるため、実家に訪問するシミュレーションは今はできない。
せいぜい今から数時間先までのシミュレーションが精一杯で、それ以上は息が切れてしまって続けられないのだ。
「どこか安全にシミュレーションできる場所まで辿り着くためのシミュレーションが必要ね」
自分でも訳の分からないことを言っている自覚があり、苦笑してしまった。
前回のシミュレーションで、誰からも見つからず、怪我もしないで荷台から降りられるチャンスが二回あることまで分かっている。
私はその先のシミュレーションを開始した。
荷台が街中で一時停止したときに降りる場合と、業者の倉庫に入ってから降りる場合の比較検討だ。
「あー、苦しい。毎回毎回、ひどく疲れる……。でも、この能力がなかったら、今頃、酷い目にあっているわ」
私は深呼吸して息を整えた。
「やはり倉庫かな。水と食料の補給もできそうだし、場合によっては一晩過ごせるかもね」
これから先のことを決めたことで、少し余裕が出て来て、荷台の隙間から少し外を覗いてみた。
あのレストランは若いころよくライザーと一緒に出かけたところだ。
カニ料理のレストランだが、二人ともカニを剥くのに夢中で会話がなく、お互いにそれに気づいて笑いあったものだ。
「この街には想い出がたくさん詰まっている。ああ、テレサを殺されても、私はまだあの頃のあの人のことを思い出すのね」
ライザーに会いに行くシミュレーションは行っていない。
いくら王妃の若い頃の容姿をしていたとしても、見ず知らずの十六歳の小娘が、王に会える可能性はゼロだからだ。
私には昔の彼を懐かしむ気持ちがまだ残っているようだが、今の彼には憎悪しかない。
「ライザー、ユリカ姫、報いは受けてもらうわ。私はあなたたちを決して許しはしない」
私にはシミュレーションというとんでもない能力がある。
国王とその妃という強大な敵であっても、倒せる方策は見つかるはずだ。
私が復讐の決意をしているうちに、荷台が倉庫に入れられたようだ。
荷台は空なので、中を調べることはなく、荷役たちが雑談しながら荷台から離れて行く。
倉庫の扉が閉じられ、辺りが静寂に包まれた。
私は荷台からゆっくりと抜け出し、地面に降り立った。
二名ずつ交代制で一日中私を見張っているが、昼の交代のとき、申し送りをするため、庵の裏側に割と大きな死角が生まれる。
私は裏口から出て、彼らから死角となる位置取りで、庵から真っ直ぐ離れていった。
ある程度、庵から離れれば、十六歳になった私を誰も王妃だとは思わない。
テレサの荷物から彼女の服を取り出して着用しているので、女官に見えるはずだ。
自分で言うのも何だが、私はかなり綺麗な顔をしているので、出来るだけ俯いて歩くようにした。
「私の美貌は目立つのよね」
見張りの目を抜けたことで、軽口を叩ける余裕も出て来たが、これはシミュレーションではなく本番だ。
否が応でも緊張する。
門の近くまで行き、王宮から出る業者が来るのを待ち、狙っていた馬車の荷台に飛び乗って、すぐにホロの中に隠れた。
「ふう。うまく行ったわ」
やはり本番はかなり緊張した。
荷台に隠れた後も、しばらく足の震えがおさまらなかった。
王宮から真っ直ぐに伸びるメインストリートを抜け、市街地に差し掛かった辺りで、ようやく王宮から無事に抜け出せたことを実感できた。
私の実家は帝国の貴族だ。
帝国の貴族の娘ということで、王との結婚には、王国の面々から猛反対を受けた。
また、実家からも敵国に嫁ぐなら縁を切って行けと言われ、ライザーの部下たちの手引きで、帝国を逃げ出すように出国したのだった。
今更おめおめと私が実家に帰ることは出来ないが、私の娘と名乗って、孫として父に会いに行けば、匿ってくれるはずだ。
シミュレーション能力は、今の自分が起点となって行う必要があるため、実家に訪問するシミュレーションは今はできない。
せいぜい今から数時間先までのシミュレーションが精一杯で、それ以上は息が切れてしまって続けられないのだ。
「どこか安全にシミュレーションできる場所まで辿り着くためのシミュレーションが必要ね」
自分でも訳の分からないことを言っている自覚があり、苦笑してしまった。
前回のシミュレーションで、誰からも見つからず、怪我もしないで荷台から降りられるチャンスが二回あることまで分かっている。
私はその先のシミュレーションを開始した。
荷台が街中で一時停止したときに降りる場合と、業者の倉庫に入ってから降りる場合の比較検討だ。
「あー、苦しい。毎回毎回、ひどく疲れる……。でも、この能力がなかったら、今頃、酷い目にあっているわ」
私は深呼吸して息を整えた。
「やはり倉庫かな。水と食料の補給もできそうだし、場合によっては一晩過ごせるかもね」
これから先のことを決めたことで、少し余裕が出て来て、荷台の隙間から少し外を覗いてみた。
あのレストランは若いころよくライザーと一緒に出かけたところだ。
カニ料理のレストランだが、二人ともカニを剥くのに夢中で会話がなく、お互いにそれに気づいて笑いあったものだ。
「この街には想い出がたくさん詰まっている。ああ、テレサを殺されても、私はまだあの頃のあの人のことを思い出すのね」
ライザーに会いに行くシミュレーションは行っていない。
いくら王妃の若い頃の容姿をしていたとしても、見ず知らずの十六歳の小娘が、王に会える可能性はゼロだからだ。
私には昔の彼を懐かしむ気持ちがまだ残っているようだが、今の彼には憎悪しかない。
「ライザー、ユリカ姫、報いは受けてもらうわ。私はあなたたちを決して許しはしない」
私にはシミュレーションというとんでもない能力がある。
国王とその妃という強大な敵であっても、倒せる方策は見つかるはずだ。
私が復讐の決意をしているうちに、荷台が倉庫に入れられたようだ。
荷台は空なので、中を調べることはなく、荷役たちが雑談しながら荷台から離れて行く。
倉庫の扉が閉じられ、辺りが静寂に包まれた。
私は荷台からゆっくりと抜け出し、地面に降り立った。
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