私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ

文字の大きさ
3 / 24

王宮からの脱出

しおりを挟む
 庵には見張りがいる。

 二名ずつ交代制で一日中私を見張っているが、昼の交代のとき、申し送りをするため、庵の裏側に割と大きな死角が生まれる。

 私は裏口から出て、彼らから死角となる位置取りで、庵から真っ直ぐ離れていった。

 ある程度、庵から離れれば、十六歳になった私を誰も王妃だとは思わない。

 テレサの荷物から彼女の服を取り出して着用しているので、女官に見えるはずだ。

 自分で言うのも何だが、私はかなり綺麗な顔をしているので、出来るだけ俯いて歩くようにした。

「私の美貌は目立つのよね」

 見張りの目を抜けたことで、軽口を叩ける余裕も出て来たが、これはシミュレーションではなく本番だ。

 否が応でも緊張する。

 門の近くまで行き、王宮から出る業者が来るのを待ち、狙っていた馬車の荷台に飛び乗って、すぐにホロの中に隠れた。

「ふう。うまく行ったわ」

 やはり本番はかなり緊張した。

 荷台に隠れた後も、しばらく足の震えがおさまらなかった。

 王宮から真っ直ぐに伸びるメインストリートを抜け、市街地に差し掛かった辺りで、ようやく王宮から無事に抜け出せたことを実感できた。

 私の実家は帝国の貴族だ。

 帝国の貴族の娘ということで、王との結婚には、王国の面々から猛反対を受けた。

 また、実家からも敵国に嫁ぐなら縁を切って行けと言われ、ライザーの部下たちの手引きで、帝国を逃げ出すように出国したのだった。

 今更おめおめと私が実家に帰ることは出来ないが、私の娘と名乗って、孫として父に会いに行けば、匿ってくれるはずだ。

 シミュレーション能力は、今の自分が起点となって行う必要があるため、実家に訪問するシミュレーションは今はできない。

 せいぜい今から数時間先までのシミュレーションが精一杯で、それ以上は息が切れてしまって続けられないのだ。

「どこか安全にシミュレーションできる場所まで辿り着くためのシミュレーションが必要ね」

 自分でも訳の分からないことを言っている自覚があり、苦笑してしまった。

 前回のシミュレーションで、誰からも見つからず、怪我もしないで荷台から降りられるチャンスが二回あることまで分かっている。

 私はその先のシミュレーションを開始した。

 荷台が街中で一時停止したときに降りる場合と、業者の倉庫に入ってから降りる場合の比較検討だ。

「あー、苦しい。毎回毎回、ひどく疲れる……。でも、この能力がなかったら、今頃、酷い目にあっているわ」

 私は深呼吸して息を整えた。

「やはり倉庫かな。水と食料の補給もできそうだし、場合によっては一晩過ごせるかもね」

 これから先のことを決めたことで、少し余裕が出て来て、荷台の隙間から少し外を覗いてみた。

 あのレストランは若いころよくライザーと一緒に出かけたところだ。

 カニ料理のレストランだが、二人ともカニを剥くのに夢中で会話がなく、お互いにそれに気づいて笑いあったものだ。

「この街には想い出がたくさん詰まっている。ああ、テレサを殺されても、私はまだあの頃のあの人のことを思い出すのね」

 ライザーに会いに行くシミュレーションは行っていない。

 いくら王妃の若い頃の容姿をしていたとしても、見ず知らずの十六歳の小娘が、王に会える可能性はゼロだからだ。

 私には昔の彼を懐かしむ気持ちがまだ残っているようだが、今の彼には憎悪しかない。

「ライザー、ユリカ姫、報いは受けてもらうわ。私はあなたたちを決して許しはしない」

 私にはシミュレーションというとんでもない能力がある。

 国王とその妃という強大な敵であっても、倒せる方策は見つかるはずだ。

 私が復讐の決意をしているうちに、荷台が倉庫に入れられたようだ。

 荷台は空なので、中を調べることはなく、荷役たちが雑談しながら荷台から離れて行く。

 倉庫の扉が閉じられ、辺りが静寂に包まれた。

 私は荷台からゆっくりと抜け出し、地面に降り立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

妖精のお気に入り

豆狸
ファンタジー
羽音が聞こえる。無数の羽音が。 楽しげな囀(さえず)りも。 ※略奪女がバッドエンドを迎えます。自業自得ですが理不尽な要素もあります。

最後のカードは、

豆狸
ファンタジー
『離縁』『真実の愛』『仮面の歌姫』『最愛の母(故人)』『裏切り』──私が手に入れた人生のカードは、いつの間にか『復讐』という役を形作っていました。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

【読切】魔帝結界術師は追放後の世界を謳歌する

暮田呉子
ファンタジー
結界魔法に特化した魔帝結界術師は役に立たないと勇者のパーティを追放される。 私は悲しみに暮れる……はずもなく!ようやく自由を手に入れたのだ!!※読み切り。

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...