私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ

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若返りと新たな能力

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 私は逃げ出すことも出来ず、ましてや、テレサとサージの仇を討つことなど出来るはずもなかった。

 私に出来ることは、仕方なく廃屋のような庵に入って行くことだけだった。

 ユリカ姫の横暴は目に余る。

 いくら何でも、裁判もなしに切り捨てるなど、私の知るライザーが許すはずがない。

 しかも、テレサは使用人とはいえ、ライザーとも面識があった。

 ライザーと話がしたかったが、もう私とは会いたくないらしい。

 取り次ぎすら出来ないのだ。

 外はだんだんと日が落ちてきたが、室内にはランプが見当たらず、真っ暗になって来た。

 私は持って来た荷物の中から衣類を取り出し、布団代わりにした。

 こうまでして、生きていく必要があるのか。

 私の心は折れてしまいそうだった。

 そんな絶望のどん底にいる私の耳に、よく知った声が入って来た。

「王妃様」

「え? テレサっ!?」

 テレサの声が暗闇から聞こえた。

「殺されてなんかいなかったのね。よかった。本当によかった」

 私は心の底から安堵した。

 しかし、返って来た言葉は意外なものだった。

「王妃様、私は霊なんです。ユリカ姫にサージと一緒に殺されちゃいました」

 テレサの姿が白く浮かび上がった。

 不思議と怖くはなかった。むしろ、生前と同じようにテレサと話せることが嬉しかった。

「私のせいでごめんなさい。サージにも会えるのかしら?」

「サージは先に行きました。よほど強い未練がこの世にないと、留まっていられないのです。私は王妃様に何の恩も返していないのが心残りなのです……」

「恩なんて。私の方こそ、あなたと一緒で幸せだったわ。テレサ」

「王妃様、私の若さを差し上げますから、どうか第二の人生を楽しんでくださいまし」

 そう言うと、テレサは私に近づいて来た。

 私の両手にテレサの両手を重ねる形になった。

「サージと私から十二歳ずつ、合計で二十四歳分の若さです。受け入れて下さいますか?」

 突然の申し出だったが、テレサはあまり時間がないようだ。

 もっとテレサと話したかったが、用件に集中した。

「十六歳まで若返るということかしら?」

「はい。もう一つ、『シミュレーション』という能力をお渡しします。私とサージの後悔の念から生まれた能力です。体に負担がかかりますが、事前に計画の結果を正確に予測することができます」

「若さと大切な能力を私に与えてしまって、あなたたちはそれでいいの?」

「私とサージはお互いがいればそれで十分です。孤児の私を娘のように育ててくれた王妃様に少しでも恩返しがしたかったのです。二人で話し合った結果です。では、始めますね」

 テレサから暖かい何かが流れ込んできた。

 目の前の白いテレサが、少しずつ歳をとって行く。

「王妃様、少しだけですが、恩を返せてよかったです。どうかお幸せに」

 そう言ってテレサはすうっと消えていった。

「テレサ、テレサ」

 もう返事はなかった。

 せっかくテレサからもらった大切な若さだ。無駄にしないようにしよう。

 まずはここから出よう。

 私は徐々に元気が出て来た。若返ったからだろうか。

 先程までの絶望感が消えて、気持ちが前向きになっている。

「どうやって王宮を出ようかしら」

 私は脱出方法を色々と検討し始めた。

 門から堂々と出たらどうなるかと想像する。

 すると不思議なことに鮮明な映像が私の頭の中に現れて、結末を教えてくれるのだ。

「これが『シミュレーション能力』……、すごいっ!」

 しかし、全速力で走った後のように息が上がってしまい、落ち着くまで、十分ほど休憩しなければならなかった。

「なるほど。体に負担がかかるというのはこういうことね」

 私はその後も休み休み色々な方法を検討し、最適な脱出ルートと思われる方法を見つけるまで、一晩かかってしまった。

 シミュレーションの結果、王宮の出入り業者の荷台に紛れて外に出る方法がよいことが分かった。

 この能力のすごいところは、シミュレーションを重ねるたびに、未知の情報を入手出来るところにもある。

  私は王宮に出入りしている業者のことなど全く知らなかったが、門を通過していく馬車の業者に話を聞いたり、思い切って馬車の中に入ったら何が起きるのかも確認出来る。

 危険な目に遭いそうなときは、そこで思考を停止すればよい。

 実際、衛兵に捕えられたり、親切そうな男に妙な場所に連れて行かれそうにもなった。

「では、寝ましょうか」

 私はお昼からの行動に備えて、まずはゆっくりと睡眠を取ることにした。
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