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王妃の没落
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私はシーファ。
夫はライザー三世。この国の国王だ。
そう、私は王妃だ。
王家にしては珍しく、私たちは大恋愛のうえ、周囲の反対を押し切って結ばれた。
二人は永遠に仲睦まじく死ぬまで一緒に添い遂げる。
私はそれを当たり前のように信じていた。
しかし、時は移ろい、人の心は変わっていく。
私は歳を取り、王国の真珠と言われた美貌も衰えを隠せなくなった。
夫は最近隣国から送られてきたユリカ姫にご執心で、私は王宮内での居場所をどんどん失っていた。
「王様は薄情です。長年連れ添ったシーファ様にこんなところで暮らせなんて」
私は王宮内の古い庵に移るようにいわれ、侍女のテレサと一緒に言われた場所まで歩いて来たところだった。
籠も馬車の手配もなく、徒歩での移動で、荷物も自分で背中に巻きつけて持って来た。
私もまさかこんなに寂れた小屋だとは想像もしていなかったが、最近の私に対する仕打ちに疲れ果てていた私は、もう落胆する気力すら失っていた。
「雨風さえしのげればいいわ」
そう言ってはみたものの、中に入って絶句した。
柱はシロアリに食われてぼろぼろで、雨水が漏れるのか木の床がカビだらけで腐っており、所々に穴が空いていた。
「シーファ様、何かの間違いです。王妃様がお暮らしになる場所ではございません。近衛兵に確認して参ります」
あの大好きだったライザーが、私にこんな場所で暮らせと言うのか。
彼がわざわざこんな嫌がらせを私にする意味は何だろうか?
それとも、彼ではなく、ユリカ姫の差し金だろうか。
いずれにしろ、こんなところで暮らすぐらいなら、王宮を出て、庶民の家で暮らした方がマシだった。
そうか、彼は私に王宮から出て行って欲しいのか。
シーファ、シーファ、私のシーファ、こっちを向いて、お前の美しい顔を見せてくれ
彼の口癖だったが、彼は私の美貌を愛しただけで、私という人間を見てくれてはいなかったのか。
「テレサ、王宮を出ましょう。悪いのだけれど、いつか話してくれたお前の家でお世話になってもいいかしら?」
「もちろんでございます。王妃様。ただ、馬車がないと、徒歩ではかなり遠いです。サージに馬車と護衛を手配してもらうよう頼んできます」
サージは門の衛兵でテレサのボーイフレンドだ。
落ちぶれた私にいまだに便宜をはかってくれる数少ない味方だった。
「そんなことをして、後でサージが罰せられないかしら」
「上手くやってくれると思います。何だかんだで頼りになるんです」
テレサは得意げな顔をして、門の方に走って行った。
私も王太子時代の凛々しいライザーが自慢だった。
子供に恵まれず、王妃として一番大事な仕事である跡取りの出産が出来ない私に辛く当たる王太后様から、ライザーはよく守ってくれたのに。
もうやめよう。未練たらしい。
カビ臭いぼろぼろの庵の中に入る気はせず、私は大きな石の上にぼんやりと座って、テレサの帰りを待っていた。
しかし、待てども待てどもテレサは帰って来なかった。
二時間ほど待っただろうか。テレサの代わりに、ユリカ姫が数人の衛兵とともに現れた。
「王妃様、素敵な新居に入らず、何をなさっているのかしら」
ねっとりとしたユリカ姫の口調に、私はテレサに何かあったと直感した。
「ユリカ姫、あなた、テレサに何かしたの!?」
「誰ですか? テレサって? 馬車泥棒の女の方かしら。王宮のものを盗むなんて不届者は、その場で切り捨てましてよ」
「何ですって!? なんてことを……」
衛兵たちが下を向いていた。テレサとサージは、彼らに殺されたのだろうか。
彼らとて不本意だったのだろう。
「では、王妃様、ご機嫌よう」
この女、私が逃げ出さないように見張っていたに違いない。
私はテレサの笑顔を思い出し、絶叫した。
私の絶叫を聞いたユリカ姫は、私の方に振り返った。
「あははははは」
ユリカ姫は高らかな笑い声をあげながら、去って行った。
夫はライザー三世。この国の国王だ。
そう、私は王妃だ。
王家にしては珍しく、私たちは大恋愛のうえ、周囲の反対を押し切って結ばれた。
二人は永遠に仲睦まじく死ぬまで一緒に添い遂げる。
私はそれを当たり前のように信じていた。
しかし、時は移ろい、人の心は変わっていく。
私は歳を取り、王国の真珠と言われた美貌も衰えを隠せなくなった。
夫は最近隣国から送られてきたユリカ姫にご執心で、私は王宮内での居場所をどんどん失っていた。
「王様は薄情です。長年連れ添ったシーファ様にこんなところで暮らせなんて」
私は王宮内の古い庵に移るようにいわれ、侍女のテレサと一緒に言われた場所まで歩いて来たところだった。
籠も馬車の手配もなく、徒歩での移動で、荷物も自分で背中に巻きつけて持って来た。
私もまさかこんなに寂れた小屋だとは想像もしていなかったが、最近の私に対する仕打ちに疲れ果てていた私は、もう落胆する気力すら失っていた。
「雨風さえしのげればいいわ」
そう言ってはみたものの、中に入って絶句した。
柱はシロアリに食われてぼろぼろで、雨水が漏れるのか木の床がカビだらけで腐っており、所々に穴が空いていた。
「シーファ様、何かの間違いです。王妃様がお暮らしになる場所ではございません。近衛兵に確認して参ります」
あの大好きだったライザーが、私にこんな場所で暮らせと言うのか。
彼がわざわざこんな嫌がらせを私にする意味は何だろうか?
それとも、彼ではなく、ユリカ姫の差し金だろうか。
いずれにしろ、こんなところで暮らすぐらいなら、王宮を出て、庶民の家で暮らした方がマシだった。
そうか、彼は私に王宮から出て行って欲しいのか。
シーファ、シーファ、私のシーファ、こっちを向いて、お前の美しい顔を見せてくれ
彼の口癖だったが、彼は私の美貌を愛しただけで、私という人間を見てくれてはいなかったのか。
「テレサ、王宮を出ましょう。悪いのだけれど、いつか話してくれたお前の家でお世話になってもいいかしら?」
「もちろんでございます。王妃様。ただ、馬車がないと、徒歩ではかなり遠いです。サージに馬車と護衛を手配してもらうよう頼んできます」
サージは門の衛兵でテレサのボーイフレンドだ。
落ちぶれた私にいまだに便宜をはかってくれる数少ない味方だった。
「そんなことをして、後でサージが罰せられないかしら」
「上手くやってくれると思います。何だかんだで頼りになるんです」
テレサは得意げな顔をして、門の方に走って行った。
私も王太子時代の凛々しいライザーが自慢だった。
子供に恵まれず、王妃として一番大事な仕事である跡取りの出産が出来ない私に辛く当たる王太后様から、ライザーはよく守ってくれたのに。
もうやめよう。未練たらしい。
カビ臭いぼろぼろの庵の中に入る気はせず、私は大きな石の上にぼんやりと座って、テレサの帰りを待っていた。
しかし、待てども待てどもテレサは帰って来なかった。
二時間ほど待っただろうか。テレサの代わりに、ユリカ姫が数人の衛兵とともに現れた。
「王妃様、素敵な新居に入らず、何をなさっているのかしら」
ねっとりとしたユリカ姫の口調に、私はテレサに何かあったと直感した。
「ユリカ姫、あなた、テレサに何かしたの!?」
「誰ですか? テレサって? 馬車泥棒の女の方かしら。王宮のものを盗むなんて不届者は、その場で切り捨てましてよ」
「何ですって!? なんてことを……」
衛兵たちが下を向いていた。テレサとサージは、彼らに殺されたのだろうか。
彼らとて不本意だったのだろう。
「では、王妃様、ご機嫌よう」
この女、私が逃げ出さないように見張っていたに違いない。
私はテレサの笑顔を思い出し、絶叫した。
私の絶叫を聞いたユリカ姫は、私の方に振り返った。
「あははははは」
ユリカ姫は高らかな笑い声をあげながら、去って行った。
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