8 / 24
昼食
しおりを挟む
王都から数十キロ北に行った高原の上で馬車を止め、ニーナとブラン以外のフレグランスの面々が、昼食のための設営を始めた。
ニーナは私の側をいっときも離れず、護衛を務めている。
シミュレーションのときも、ニーナは常に私の側にいて、周囲に目を光らせていた。
「ニーナ、少しは気を抜いたらどうだ」
「ありがとうございます。集中力が持続するようメリハリをつけておりますので、ご心配無用です」
ブランは少し離れたところで、どこからか取り出した調理器具を使って、調理を始めていた。
今回の食材は王都から持参したものらしい。
魔法使いのガガが、ブランに呼ばれて、火をつけたり、水を出したりしているのが見えた。
私は宮廷魔術師のベンジャミンを思い出した。
「王妃様、魔法はインチキではないですよ」
そう言って、ちょうど今ガガがしているように、何もないグラスに水を溜めたり、指先から火を出すところを見せてくれたりした。
私は気さくで人懐こい彼を好ましく思っていたが、ライザーが嫉妬して、彼を罷免してしまった。
代わりに怪しげな魔女が宮廷魔術師になってしまい、雨乞いの儀式をしたり、無病息災のために奇妙な物を食べさせられたり、よく考えると、あの頃から、ライザーは少しずつおかしくなっていったように思う。
「伯爵様、魔法をご覧になるのは初めてですか?」
ニーナの言葉で、私は思い出の世界から引き戻された。
「いや、以前、うちにも魔術師がいて、同じようなことをして見せてくれたことがある」
「それはすごい人ですね。火も水も使える魔法使いはそんなにはいないはずです。私はガガ以外に知らないです」
「そうなのもかもな」
ベンジャミンは今頃、どうしているだろうか。
ガガは案外彼の娘だったりするかもしれない。
「今日の夜はあそこに見える湖の辺りでテントを設営して宿泊します」
ニーナが丘の上から遠くに見える湖を指差した。
「ああ、レイニー湖か」
結婚して十年ぐらいは、暑さを避けるために、湖のほとりのレイニー城に毎年のようにライザーと滞在したものだ。
「そういえば、レイニー城といえば、王妃様が先日お亡くなりになられたようですね」
「えっ? そうなの?」
あ、驚いてしまって、ついいつもの口調で話してしまった。
先ほどからシミュレーションにはなかった会話がちょくちょく出てくる。
だが、ニーナに違和感はなかったようだ。
「ご存知なかったですか。王宮の池に落ちて、お亡くなりになられたそうです。そういえば、伯爵様は男性ですが、何となく王妃様に似ていらっしゃいますね」
「髪の色と目の色が一緒だからだろう。そうか、王妃様が亡くなられたのか」
どういうことだろうか。失踪を誤魔化すためか。理由は不明だが、その方がこちらも都合が良い。
「伯爵様、どうやら昼食の用意が出来たようです」
ニーナの向いている方向を見ると、真っ白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが用意され、ブランがトレイを持って、テーブルに配膳をしているところだった。
「すごい。まるで街のレストランのようではないか」
シミュレーションにはなかった構図だ。
「はい。でも、味は街のレストラン以上ですよ。お楽しみ下さい」
テーブルまで行くと、ブランが椅子を引いてくれた。
椅子に座ると、ブランが料理の説明を始めたが、ちょっと待ってほしい。
私がかつて王宮で食べていたときのような料理の名前が出て来るのだ。
「ブラン、どこで料理を学んだんだ? 王宮に出てくるようなコース料理ではないか」
「師匠が王宮で料理をしていたことがあるのです。伯爵様も王宮料理はご存知なのですね」
「うむ、聞いたことがある程度だが」
シミュレーションにないことばかり起きるので、ボロが出て、身バレしそうだ。
黙って食べよう。
私はコンソメスープを口にした。
ダメだ。黙っていられない。
「美味しいっ」
スープの後に口当たりの良い食前酒が出た後、鯛のカルパッチョ、生ハムと季節野菜のサラダ、鶏肉のソテーと続き、最後のデザートのティラミスに至るまで、全て絶品だった。
「こんなに美味しい料理は食べたことがない。ブラン、王宮の料理長になれる腕前だ」
「ありがとうございます。でも、王宮には行きたくないですね」
「そうだな。あんなところ、つまらないと思う」
しまった。また身バレしそうなことを言ってしまった。
だが、ブランは優しく微笑んだままだ。
こんな見惚れてしまうほど上品で魅力的な微笑みをなぜ冒険者の料理人が出来るのだろうか。
「伯爵様、護衛をレイモアと代わります。しばらくお寛ぎ下さいませ。私はあちらで皆と一緒に食事を頂いて来ます」
ニーナが食事をしたくて仕方がないようだ。
「了解した。レイモアは食事はいいのか?」
「私はすでに頂きました。伯爵様、紅茶をお持ちいたしました。ブランも下がらせて頂きます」
ブランは私に一礼してから、皆のところに走っていった。
黄色い声が向こうから聞こえる。ブランは人気者のようだ。
ニーナは私の側をいっときも離れず、護衛を務めている。
シミュレーションのときも、ニーナは常に私の側にいて、周囲に目を光らせていた。
「ニーナ、少しは気を抜いたらどうだ」
「ありがとうございます。集中力が持続するようメリハリをつけておりますので、ご心配無用です」
ブランは少し離れたところで、どこからか取り出した調理器具を使って、調理を始めていた。
今回の食材は王都から持参したものらしい。
魔法使いのガガが、ブランに呼ばれて、火をつけたり、水を出したりしているのが見えた。
私は宮廷魔術師のベンジャミンを思い出した。
「王妃様、魔法はインチキではないですよ」
そう言って、ちょうど今ガガがしているように、何もないグラスに水を溜めたり、指先から火を出すところを見せてくれたりした。
私は気さくで人懐こい彼を好ましく思っていたが、ライザーが嫉妬して、彼を罷免してしまった。
代わりに怪しげな魔女が宮廷魔術師になってしまい、雨乞いの儀式をしたり、無病息災のために奇妙な物を食べさせられたり、よく考えると、あの頃から、ライザーは少しずつおかしくなっていったように思う。
「伯爵様、魔法をご覧になるのは初めてですか?」
ニーナの言葉で、私は思い出の世界から引き戻された。
「いや、以前、うちにも魔術師がいて、同じようなことをして見せてくれたことがある」
「それはすごい人ですね。火も水も使える魔法使いはそんなにはいないはずです。私はガガ以外に知らないです」
「そうなのもかもな」
ベンジャミンは今頃、どうしているだろうか。
ガガは案外彼の娘だったりするかもしれない。
「今日の夜はあそこに見える湖の辺りでテントを設営して宿泊します」
ニーナが丘の上から遠くに見える湖を指差した。
「ああ、レイニー湖か」
結婚して十年ぐらいは、暑さを避けるために、湖のほとりのレイニー城に毎年のようにライザーと滞在したものだ。
「そういえば、レイニー城といえば、王妃様が先日お亡くなりになられたようですね」
「えっ? そうなの?」
あ、驚いてしまって、ついいつもの口調で話してしまった。
先ほどからシミュレーションにはなかった会話がちょくちょく出てくる。
だが、ニーナに違和感はなかったようだ。
「ご存知なかったですか。王宮の池に落ちて、お亡くなりになられたそうです。そういえば、伯爵様は男性ですが、何となく王妃様に似ていらっしゃいますね」
「髪の色と目の色が一緒だからだろう。そうか、王妃様が亡くなられたのか」
どういうことだろうか。失踪を誤魔化すためか。理由は不明だが、その方がこちらも都合が良い。
「伯爵様、どうやら昼食の用意が出来たようです」
ニーナの向いている方向を見ると、真っ白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが用意され、ブランがトレイを持って、テーブルに配膳をしているところだった。
「すごい。まるで街のレストランのようではないか」
シミュレーションにはなかった構図だ。
「はい。でも、味は街のレストラン以上ですよ。お楽しみ下さい」
テーブルまで行くと、ブランが椅子を引いてくれた。
椅子に座ると、ブランが料理の説明を始めたが、ちょっと待ってほしい。
私がかつて王宮で食べていたときのような料理の名前が出て来るのだ。
「ブラン、どこで料理を学んだんだ? 王宮に出てくるようなコース料理ではないか」
「師匠が王宮で料理をしていたことがあるのです。伯爵様も王宮料理はご存知なのですね」
「うむ、聞いたことがある程度だが」
シミュレーションにないことばかり起きるので、ボロが出て、身バレしそうだ。
黙って食べよう。
私はコンソメスープを口にした。
ダメだ。黙っていられない。
「美味しいっ」
スープの後に口当たりの良い食前酒が出た後、鯛のカルパッチョ、生ハムと季節野菜のサラダ、鶏肉のソテーと続き、最後のデザートのティラミスに至るまで、全て絶品だった。
「こんなに美味しい料理は食べたことがない。ブラン、王宮の料理長になれる腕前だ」
「ありがとうございます。でも、王宮には行きたくないですね」
「そうだな。あんなところ、つまらないと思う」
しまった。また身バレしそうなことを言ってしまった。
だが、ブランは優しく微笑んだままだ。
こんな見惚れてしまうほど上品で魅力的な微笑みをなぜ冒険者の料理人が出来るのだろうか。
「伯爵様、護衛をレイモアと代わります。しばらくお寛ぎ下さいませ。私はあちらで皆と一緒に食事を頂いて来ます」
ニーナが食事をしたくて仕方がないようだ。
「了解した。レイモアは食事はいいのか?」
「私はすでに頂きました。伯爵様、紅茶をお持ちいたしました。ブランも下がらせて頂きます」
ブランは私に一礼してから、皆のところに走っていった。
黄色い声が向こうから聞こえる。ブランは人気者のようだ。
59
あなたにおすすめの小説
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
悪役令嬢は蚊帳の外です。
豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」
「いえ、違います」
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる