私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ

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秘密の開示

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 湖に着くと、今日の晩御飯の材料を湖から調達するという。

「伯爵様、釣りはされたことはございますか?」

 ブランから聞かれてドキリとする。

 彼との会話はシミュレーションにはなく、いつもぶっつけ本番だからであろう。

「いや、経験はない」

「では、一緒に行きましょう。竿をもう一本持って来ました」

 ブランは楽しそうに釣りの仕掛けの説明をし始めた。

 要するに、擬似餌を使って魚を引っ掛ける方法のようだ。

「擬似餌とは可哀想に。魚にとっては、何も楽しいことなく釣られて、食べられてしまうだけではないか」

 私は素直な感想を述べた。

「面白いことをおっしゃりますね。では、伯爵様にはミミズをつけましょうか?」

 ブランは箱の中いっぱいにうごめくミミズを私に見せた。

「きゃっ。擬似餌にして」

「ははは、伯爵様はミミズが苦手でしたか。そんな女子のような悲鳴を出させてしまい、大変失礼致しました」

 ダメだ。このままでは女性だとバレるのは時間の問題だ。

 後で女性だとバレた場合のシミュレーションをと思ったが、すでにフレグランスに対しては実施済みだ。

 だが、いまだにブランは一度もシミュレーションに出て来たことがない。

 とりあえず、何故なのかの疑問は後回しにして、私はブランといっしょに湖に釣り糸を垂らした。

 ニーナは私の右後方に控えている。

「伯爵様、こうやって擬似餌を水面に踊らせて、生きている虫のように見せるのです」

 ブランが器用に竿を扱うと、擬似餌がまるで水面付近を飛ぶ虫のように踊り始めた。

 すると、ザバんという音と共に魚が擬似餌に食いついて、ブランはあっという間に大きな魚を一匹釣り上げた。

「幸先いいです。夕食にはもうあと一匹で足りますので、伯爵様に是非とも釣り上げて頂きましょう。今のをご覧になって、コツはお分かりいただけましたでしょうか」

「うむ、やってみる」

 私はブランの動きを思い出しながら竿を動かすが、なかなかブランのようには擬似餌が上手く動いてくれなかった。

「お手を失礼します」

 ちょっと、ブランが近いというか、私に密着してるんですけどぉ!

 ブランが私の後ろから腕に手を回して、竿を動かすのだ。

「こうです。お分かりいただけますか?」

 私は大パニックだった。

 ライザー以外の男性とここまで密着した経験がないのだ。

「ヒットしましたっ。伯爵様、どうされたのですか。しっかりと腰を入れてください」

 私はテンパってしまってふらふらで、ブランにされるがままだったが、それが返って良かったようで、大きな魚を釣り上げることが出来た。

 ニーナとブランが喜びながら、魚を持って来た箱に入れている。

 氷はガガが作ったのだろう。本当に優秀な魔法使いのようだ。

 さて、問題はこの後だ。

 シミュレーションでは、この後、テントまで戻って、夕食前に順番に水浴びをすることになるはずだ。

 私が最初に湖に入って、その後でフレグランスの面々が二組に分かれて水浴びをするのだが、ブランの動きが全く読めない。

 私は遂に観念した。

「ブラン、ニーナ、まずはお二人に私の秘密を打ち明けます。私は女性です」

 ニーナとブランが、魚を持ったまま固まって、私の方を見て、あんぐりと口を開けていた。

 特にブランは端正な顔立ちが台無しで、私は思わず吹き出してしまった。

「伯爵様、申し訳ございません。そうとは存じ上げず、そのお手に触れるだけでなく、腰まで触ってしまいました。本当に申し訳ございません」

 ブランが我に返ったようで、謝り倒し始めた。

「ブラン、性別を偽っていた私が悪いのです。あなたが悪い訳はないです。でも、今後はその、あのような密着指導はなしでお願いします」

「も、もちろんです。申し訳ございませんでした」

 私はニーナの方に向き直った。

「ニーナ、そういう訳で同性だから、同室でも緊張しなくてよろしくてよ」

「あ、あの、男の方にしては、すごく綺麗な方だと思っておりましたが、髪はお切りになられたのでしょうか」

「ええ、訳あって、護衛のないまま王国で孤立してしまって、男装しないと色々と危険だったのよ。でも、ちゃんと料金はお支払いするし、女性ということで割り増し料金が発生するのであれば、きちんとお支払いするから、護衛は継続してね」

「それは問題ないです。男女で料金が別ということはございません。でも、とても驚きました。きっとメンバーは残念がると思います。伯爵様がブランを超える美青年で、私たち、テンション上がりまくりでしたから」

「ごめんなさい、がっかりさせてしまったわね」

「いいえ、こちらこそ、失礼を申し上げてしまいました。リーダーのレイモアにも報告してよろしいでしょうか」

「もちろんよ。私から報告しましょうか」

「大丈夫です。ブランが先に行って報告を入れます。伯爵様は私と一緒にゆっくりとお戻り下さい」

 ニーナは視線でブランに合図をした。

 ブランはゆっくりと頷き、魚の入った箱を肩にかけて、テントの方に戻って行った。
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