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ブランとの再会
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私はフレグランスに護衛され、リンガまで戻った。
リンガは海と山に挟まれた風光明媚な場所で、帝国との国境が近く、帝国貴族もよく観光に訪れる都市だ。
そのため、帝国貴族の所有する別荘も多い。
リンガ湾を眺望する高台に皇室所有の別荘があり、そこに滞在させてもらうことにした。
王国の混乱に巻き込まれないように、完全に帝国民として振る舞うことにしたのだ。
フレグランスも冒険者風の装いではなく、帝国の軍服を着用するように命じた。
「シーファ様、ブランデル殿下がまもなくご到着されるようです」
ニーナが私を迎えに来た。
ブランも今後は皇太子として扱うように切り替える。
フレグランスを始め、ブランの配下は帝国貴族の子女たちで構成されている。
女性に美人が多いのは、親がブランのお手付きを望んだからだが、ブランは絵画に描かれた私に恋してしまっていたため、親たちの目論見は外れてしまった。
だが、将来は皇帝になる人物であり、ブランの配下にいれば、将来は約束されたようなものだ。そのため、配下になるための倍率は非常に高く、優秀な人材が多い。
ブランとは例の高級宿屋のレストランで待ち合わせをしていた。
「そう。では、行きましょう」
外に出ると、馬車が用意されていた。
御者はガガが務めるようだ。
いつものように両脇をマリアとアン、後方をレイモアが固めている。
私はニーナと一緒に馬車に乗り込んだ。
ブランとはほぼ半年ぶりの再会だ。
私はブランとの再会を楽しみにしている自分に驚いていた。
私って案外チョロいのかもね。
レストランに着くと、ブランが満面の笑顔で迎えてくれた。
「シーファ様、お元気そうで何よりです」
「あなたもね、ブラン」
「今日は刺身を試してみますか?」
「生のままで食べるあれね。面白そうね。お任せするわ」
「ワインではなく、リンガの地酒を注文します。刺身にはそちらの方が合うと思います」
「楽しみだわ」
ブランがウェイターに注文をしている横顔を見ると、この前よりも少し男らしくなったように思えた。
いろいろと揉まれて成長しているのだろうか。
男の子の成長って何だか素敵ね。
「ブラン、政務はどうかしら?」
「政務は順調です。王国の諜報活動が私のそもそもの担当ですので、シーファ様の工作が全て私の手柄になってます。申し訳ございません」
「それはそれでいいのよ。婚約の方はどうかしら?」
「グロリア家のご令嬢ということで、母がまず難色を示しました。母はシーファ様に随分と劣等感を持っているのです」
「ああ、フローラ様ね。お若いときによくお話ししたわ。アードレー侯爵家のご令嬢でしょう? そう、あなたの瞳の色は彼女と同じなのね」
「でも、シーファ様が王国の王妃様の若いときと瓜二つという話をしたら、母は考えを変えました。恐らく父が興味を示すのを恐れたのだと思います」
「私はどういう生まれになっているのかしら?」
「グロリア家とも話をしまして、王国の王妃様の二十四歳離れた妹君で、同じシーファという名前にしたことになっています。王妃様がお亡くなりになられたことは、公式に王国からも連絡がありましたし、まさかシーファ様が王妃様と同一人物だとは思わないです」
「普通はそうでしょうが、父はすぐに見抜いたし、母も疑っていたのは最初だけよ。あなたも見抜いたでしょう」
「シーファ様はご自分ではお気づきになられておられないようですが、多くの魅力的な仕草や口調がございまして、それをしばしば出されますと、親しいものにはシーファ様だと分かってしまうのです。私などは、シーファ様の瞬きの間隔やリズムまでつかんでおります」
いやいや、どこまで私フェチなのよ。
「ということは、それを出さなければよいのね」
「はい。男言葉を使って頂きたいのと、表情はできるだけ動かさないようにして頂きたいのです」
「分かったわ。それで、問題の皇帝陛下はどうなのかしら。私はあなたのお父様は苦手なのよ」
「父には母から話してもらいました。父はグロリア家のご令嬢ということで、驚いていたそうですが、すぐに興味を持ったようで、早く連れて参れ、とのことでした」
「まさか側室に入れという話ではないでしょうね?」
帝国は一夫多妻制で、皇帝には側室が数人いる。
「息子の婚約者を取り上げたりはしないですよ」
「いいえ、あなたのお父様はそんなことはお構いなしのはずよ」
「貴族社会にはすでにグロリア家と私の方から、婚約の話は広めましたので、父も無茶は出来ないはずです。万一、それでも強引なことをするようでしたら、父子で殺し合いになると申し出るつもりです」
「それでブランが殺されたら、私はどうしたらいいの?」
「それは……」
「戦いは必ず勝てるようにしてから始めないとダメなの。皇帝の力を十分に削いでから、戦うのよ。それで、少し私が動きたいのだけど、相談に乗ってくれるかしら?」
リンガは海と山に挟まれた風光明媚な場所で、帝国との国境が近く、帝国貴族もよく観光に訪れる都市だ。
そのため、帝国貴族の所有する別荘も多い。
リンガ湾を眺望する高台に皇室所有の別荘があり、そこに滞在させてもらうことにした。
王国の混乱に巻き込まれないように、完全に帝国民として振る舞うことにしたのだ。
フレグランスも冒険者風の装いではなく、帝国の軍服を着用するように命じた。
「シーファ様、ブランデル殿下がまもなくご到着されるようです」
ニーナが私を迎えに来た。
ブランも今後は皇太子として扱うように切り替える。
フレグランスを始め、ブランの配下は帝国貴族の子女たちで構成されている。
女性に美人が多いのは、親がブランのお手付きを望んだからだが、ブランは絵画に描かれた私に恋してしまっていたため、親たちの目論見は外れてしまった。
だが、将来は皇帝になる人物であり、ブランの配下にいれば、将来は約束されたようなものだ。そのため、配下になるための倍率は非常に高く、優秀な人材が多い。
ブランとは例の高級宿屋のレストランで待ち合わせをしていた。
「そう。では、行きましょう」
外に出ると、馬車が用意されていた。
御者はガガが務めるようだ。
いつものように両脇をマリアとアン、後方をレイモアが固めている。
私はニーナと一緒に馬車に乗り込んだ。
ブランとはほぼ半年ぶりの再会だ。
私はブランとの再会を楽しみにしている自分に驚いていた。
私って案外チョロいのかもね。
レストランに着くと、ブランが満面の笑顔で迎えてくれた。
「シーファ様、お元気そうで何よりです」
「あなたもね、ブラン」
「今日は刺身を試してみますか?」
「生のままで食べるあれね。面白そうね。お任せするわ」
「ワインではなく、リンガの地酒を注文します。刺身にはそちらの方が合うと思います」
「楽しみだわ」
ブランがウェイターに注文をしている横顔を見ると、この前よりも少し男らしくなったように思えた。
いろいろと揉まれて成長しているのだろうか。
男の子の成長って何だか素敵ね。
「ブラン、政務はどうかしら?」
「政務は順調です。王国の諜報活動が私のそもそもの担当ですので、シーファ様の工作が全て私の手柄になってます。申し訳ございません」
「それはそれでいいのよ。婚約の方はどうかしら?」
「グロリア家のご令嬢ということで、母がまず難色を示しました。母はシーファ様に随分と劣等感を持っているのです」
「ああ、フローラ様ね。お若いときによくお話ししたわ。アードレー侯爵家のご令嬢でしょう? そう、あなたの瞳の色は彼女と同じなのね」
「でも、シーファ様が王国の王妃様の若いときと瓜二つという話をしたら、母は考えを変えました。恐らく父が興味を示すのを恐れたのだと思います」
「私はどういう生まれになっているのかしら?」
「グロリア家とも話をしまして、王国の王妃様の二十四歳離れた妹君で、同じシーファという名前にしたことになっています。王妃様がお亡くなりになられたことは、公式に王国からも連絡がありましたし、まさかシーファ様が王妃様と同一人物だとは思わないです」
「普通はそうでしょうが、父はすぐに見抜いたし、母も疑っていたのは最初だけよ。あなたも見抜いたでしょう」
「シーファ様はご自分ではお気づきになられておられないようですが、多くの魅力的な仕草や口調がございまして、それをしばしば出されますと、親しいものにはシーファ様だと分かってしまうのです。私などは、シーファ様の瞬きの間隔やリズムまでつかんでおります」
いやいや、どこまで私フェチなのよ。
「ということは、それを出さなければよいのね」
「はい。男言葉を使って頂きたいのと、表情はできるだけ動かさないようにして頂きたいのです」
「分かったわ。それで、問題の皇帝陛下はどうなのかしら。私はあなたのお父様は苦手なのよ」
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帝国は一夫多妻制で、皇帝には側室が数人いる。
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