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皇帝との面会
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ブランにどこまで色仕掛けをしていいか確認したところ、何をしても大丈夫とのことだった。
ブランは、何があっても私に対する愛は変わらない、と笑っていた。
ここまで愛されると女冥利に尽きる。
私は彼の言葉で、逆に色仕掛けは使わないことを決めた。
話し合った結果、私たちは皇帝に謁見することにした。
会わないと何も始まらないし、皇帝が早く連れて来いとうるさいからだ。
シミュレーションをしてみたが、ブランが出て来ないので、謁見そのものが成り立たない。
そこで、グロリア家が娘を紹介するという体で謁見してみたところ、百発百中で皇帝は私がシーファであることを見抜いてしまい、側室になれと言って来た。それで、皇后じゃないと嫌だと断ると、皇后にでも何にでもする、と皇帝は豪快に笑うのだった。
要するに皇帝は今でも私のことが好きなのだ。
ただ、若い頃には気が付かなかったが、歳を取ってから皇帝と対峙してみると、彼も歳を取ったからなのか、あるいは、私を逃してしまったのを悔いたからなのか、強引なようでいて、私へのかなりの気遣いが感じられた。
皇帝が実は心の優しい人物だったのだと私はシミュレーションを通して知らされたのだった。
彼は本当に私を愛していたのだが、皇帝として育てられたという特殊な事情と若さゆえに、私と上手く接することが出来なかったようなのだ。
あのとき、サウザーを選べばよかったのかもしれない。
皇帝との謁見を控えた待合室で、私は二十五年前のサウザーの言葉を思い出していた。
「俺の妻になれ。お前は俺を誤解している。それを証明するチャンスをくれ」
彼は皇帝の権力を使って強引に私を我が物にしようとしたが、結局は私の意志を尊重して、国外に逃亡する私を見逃した。
若い頃って、本当に何も見えていないのね。
「ブランデル様、シーファ様、皇帝皇后両陛下がお待ちです」
秘書官に案内され、私はブランの後に続いた。
謁見の間で見た皇帝サウザーは確か四十五歳のはずだが、いまだに若々しく精悍な顔つきをしていたが、私の顔を見るなり、驚愕の表情となった。
隣の皇后フローラも同じように非常に驚いている。
「よく参られた。フローラ殿。しかし、そなたは姉の二十五年前と瓜二つではないか」
「本当に。あなたのお姉様とは私も懇意にさせて頂いていたのよ。ブランデルから瓜二つと聞いてましたが、まさかここまでとは……」
私は正直に話したかったが、そうなると私が処女でないことが分かってしまうため、婚約が成立しなくなってしまう。
私は妹で通すしかないのだ。ただ、演技するのはやめにして、素の自分で行くことにした。
「お初お目にかかります。シーファと申します」
「なんと、声も話し方までも、いや、表情までも同じではないか。まるで二十五年前に戻ったかのようだぞ」
ブランも驚いて私の方を見ていた。話し方を変えると事前に取り決めていたからだ。
「はい、よく似ていると言われます」
「いや、似ているというレベルではないぞ。そなたはシーファではないのかっ!?」
「は、はい、シーファでございますが……」
「あ、いや、そういう意味ではない。王国の王妃として嫁いだシーファではないのかっ!?」
「あの皇帝陛下、私は十六でございます……」
「むう、そのセリフ、二十五年前に全く同じ顔で、全く同じトーンで言われたのだぞっ」
「父上、シーファは私の婚約者として謁見しております。父上のお知り合いのシーファ王妃の妹君でございます」
「……。そうであった。取り乱して済まなかった。そなたの姉にはこっぴどくフラれてな。いまだに後悔しているのだ」
「姉も当時はまだ若く、何が本当の愛なのか、誰に嫁げば幸せになれるのかが見えていなかったのです。王国での姉は、晩年は不遇で、失意のうちに亡くなったと聞いております。きっと後悔していると思います」
「そうか、そちにそう言われると、何だか救われた気分になる」
「姉の人生は終わりましたが、私はこれからです。皇太子殿下に愛して頂いて私は幸せです。私は姉とは同じ過ちをせず、私を心から愛して下さる殿下に添い遂げたいと思っております。どうかお許し下さい」
「……。そうか、そなたの姉の人生は終わったか。その通りだな。そなたの姉は私が深く愛した女性だ。ご冥福をお祈りしよう。ブランデル、シーファ殿を幸せにせよ。これは勅命であるぞ」
「はい、誓います」
私は正式に皇太子の婚約者となり、ブランには結婚受諾を伝えた。
ブランは、何があっても私に対する愛は変わらない、と笑っていた。
ここまで愛されると女冥利に尽きる。
私は彼の言葉で、逆に色仕掛けは使わないことを決めた。
話し合った結果、私たちは皇帝に謁見することにした。
会わないと何も始まらないし、皇帝が早く連れて来いとうるさいからだ。
シミュレーションをしてみたが、ブランが出て来ないので、謁見そのものが成り立たない。
そこで、グロリア家が娘を紹介するという体で謁見してみたところ、百発百中で皇帝は私がシーファであることを見抜いてしまい、側室になれと言って来た。それで、皇后じゃないと嫌だと断ると、皇后にでも何にでもする、と皇帝は豪快に笑うのだった。
要するに皇帝は今でも私のことが好きなのだ。
ただ、若い頃には気が付かなかったが、歳を取ってから皇帝と対峙してみると、彼も歳を取ったからなのか、あるいは、私を逃してしまったのを悔いたからなのか、強引なようでいて、私へのかなりの気遣いが感じられた。
皇帝が実は心の優しい人物だったのだと私はシミュレーションを通して知らされたのだった。
彼は本当に私を愛していたのだが、皇帝として育てられたという特殊な事情と若さゆえに、私と上手く接することが出来なかったようなのだ。
あのとき、サウザーを選べばよかったのかもしれない。
皇帝との謁見を控えた待合室で、私は二十五年前のサウザーの言葉を思い出していた。
「俺の妻になれ。お前は俺を誤解している。それを証明するチャンスをくれ」
彼は皇帝の権力を使って強引に私を我が物にしようとしたが、結局は私の意志を尊重して、国外に逃亡する私を見逃した。
若い頃って、本当に何も見えていないのね。
「ブランデル様、シーファ様、皇帝皇后両陛下がお待ちです」
秘書官に案内され、私はブランの後に続いた。
謁見の間で見た皇帝サウザーは確か四十五歳のはずだが、いまだに若々しく精悍な顔つきをしていたが、私の顔を見るなり、驚愕の表情となった。
隣の皇后フローラも同じように非常に驚いている。
「よく参られた。フローラ殿。しかし、そなたは姉の二十五年前と瓜二つではないか」
「本当に。あなたのお姉様とは私も懇意にさせて頂いていたのよ。ブランデルから瓜二つと聞いてましたが、まさかここまでとは……」
私は正直に話したかったが、そうなると私が処女でないことが分かってしまうため、婚約が成立しなくなってしまう。
私は妹で通すしかないのだ。ただ、演技するのはやめにして、素の自分で行くことにした。
「お初お目にかかります。シーファと申します」
「なんと、声も話し方までも、いや、表情までも同じではないか。まるで二十五年前に戻ったかのようだぞ」
ブランも驚いて私の方を見ていた。話し方を変えると事前に取り決めていたからだ。
「はい、よく似ていると言われます」
「いや、似ているというレベルではないぞ。そなたはシーファではないのかっ!?」
「は、はい、シーファでございますが……」
「あ、いや、そういう意味ではない。王国の王妃として嫁いだシーファではないのかっ!?」
「あの皇帝陛下、私は十六でございます……」
「むう、そのセリフ、二十五年前に全く同じ顔で、全く同じトーンで言われたのだぞっ」
「父上、シーファは私の婚約者として謁見しております。父上のお知り合いのシーファ王妃の妹君でございます」
「……。そうであった。取り乱して済まなかった。そなたの姉にはこっぴどくフラれてな。いまだに後悔しているのだ」
「姉も当時はまだ若く、何が本当の愛なのか、誰に嫁げば幸せになれるのかが見えていなかったのです。王国での姉は、晩年は不遇で、失意のうちに亡くなったと聞いております。きっと後悔していると思います」
「そうか、そちにそう言われると、何だか救われた気分になる」
「姉の人生は終わりましたが、私はこれからです。皇太子殿下に愛して頂いて私は幸せです。私は姉とは同じ過ちをせず、私を心から愛して下さる殿下に添い遂げたいと思っております。どうかお許し下さい」
「……。そうか、そなたの姉の人生は終わったか。その通りだな。そなたの姉は私が深く愛した女性だ。ご冥福をお祈りしよう。ブランデル、シーファ殿を幸せにせよ。これは勅命であるぞ」
「はい、誓います」
私は正式に皇太子の婚約者となり、ブランには結婚受諾を伝えた。
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