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第二章 地上の動き

魔王復活

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サタンは憑依する人物を探していた。

水晶玉に一定レベル以上の人間が浮かび上がっては消えていく。目的の人間が映っているときに、水晶玉を手にして瞑想すると、一時的にその人間の精神と同期ができる。

精神を「同期」することで、その人物の五感を共有できるが、考えを読んだり、記憶を覗いたり、意志を操ったりすることは出来ない。だが、さらに「憑依」することで、その人間を完全に支配することが出来るようになる。

ただし、「同期」は勇者や聖女といった神の祝福を受けているもの以外には可能だが、「憑依」は邪悪な心を持つものにしか出来ない。それが神と決めたルールであった。

ニックが水晶玉に映った。

『勇者剥奪されたようだな。ゲスめ。地獄に落としてやる』

サタンはニックに憑依した。

ニックは普通に道を歩いていて、突然滑って転び、頭を痛打して死亡した。魂は大切に地獄へと送られた。

サタンが狙うのは邪悪な心を持つ実力者だ。そういう意味ではニックはいい候補だったかもしれないが、ゲスなやつはサタンも嫌いだった。

ライルが水晶玉に浮かんで来た。

『ライルか、こいつは強敵だ。新しい勇者と組まれないように何とかすべきだな」

サタンはライルと同期した。

『ここはどこだ? 随分と立派なリビングだ。ほう、妻を娶ったのか」

サタンはライルとの同期を解除し、ルシアと同期してみた。すると驚くべき五感の持ち主だった。

『この娘の五感はどうなっているのだ』

通常の人ではあり得ないほどの高性能な感覚を持っている。

視覚は遠くのものも近くのものもよく見え、ズームすることまで出来る。

聴覚にも指向性があり、集中すると遠くの小さな音まで拾える。

嗅覚、味覚、触覚も全てが規格外だ。サタンは興奮していた。過去に類を見ない優秀な器だ。

『この体を是非とも我が器としたいが、やはり、憑依は無理か』

恋する乙女に憑依することは出来なかった。ただ、ルシアの超人的な五感を駆使して、ここが何処であるのかの推測は出来た。

『ライルを亡き者にすれば、この娘の邪悪な面を引き出せるやも知れぬな』

サタンはルシアをいったんは諦めることにした。

その後、何千もの人間と同期を行ったが、ルシアはやはり別格だった。

『当面はこの神父で行くか』

サタンが憑依したのは、孤児を貴族に人身売買している神父だった。ルシアを貴族に売ったのもこの神父だ。

『ほう、記憶の中に面白いものがある。ライルの妻の幼少時に縁のある神父か。ルシアというのだな。俺にしてはついているな」

サタンは神父への憑依を解除して、ルシアの養父となった貴族、売り飛ばされた先の娼館のマダムにも憑依して、情報を収集した。

狙った相手の情報を収集するのは、当たり前のことだ。ただ、娼館のマダムがルシアは火事で死んだと思っていたため、その後のルシアの情報は得られなかった。

そこで、サタンは神父に戻り、ルシアの両親の情報収集を開始した。

『なるほど。このような出生秘話があったとはな。ますます欲しくなったぞ』

娼館がイグアスにあったということは、ライルとルシアがいたのは恐らくイグアスのダンジョンだ。

サタンはイグアスに向かった。イグアスで適当に憑依を繰り返したところ、ルシアの冒険者時代も把握できた。イグアスのダンジョンにいるのは間違いない。ライルとの接点は見出せなかったが、特に問題はあるまい。

魔王に人間で勝てるのは勇者だけのはずだったのだが、ライルのあの魔法は魔王を打ち負かす力がある。だが、タンク役がいなければ問題ない。ルシアはタンク役という感じではなかった。油断は出来ないが、魔王一人で行っても問題ないだろう。

『よし、ダンジョンに潜るぞ」

魔王はイグアスのダンジョンに入っていった。
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