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第十二章 カミナリ様
龍王国
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竜子に連れられて降りたところは、火山の火口近くにある神社だった。生物には致死のガスが噴出していて、周囲に生物の反応はなかった。
本堂はわりと小綺麗に保たれていた。
「ここは安全なのよ」
俺は本堂の板の間にあぐらをかいた形で浮かんでいた。竜子は女座りの状態で浮かんでいて、風で乱れた髪をといでいる。
「お前はまだ生身なのか?」
「霊体化は終わってるわよ。髪だけ権現しているのよ」
「なぜ?」
「それしか出来ないの」
竜子は恥ずかしそうに言った。俺はコツを教えてやった。
「ありがとう、おじさん! 何だか出来そうな気がして来た。後で練習してみる」
教えてくれる親もなく、全部自分でやってきたのか。不憫で可哀想すぎる。
「で、味方はいないのか?」
「うん、一体も」
「どうしてこんなことになった?」
「龍は龍神様の使いの雄雌八十体ずつの霊王から産まれた初代と呼ばれる古龍たちの末裔なの。龍に寿命はないから、初代はまだほとんどが生きているわ」
「なるほど、見えて来たぞ。カザナミが初代の親を皆殺しにしたのを恨んでいるんだな」
「ええ、そして、それを阻止できなかった私の両親のことも無能神と呼んでバカにしているの。娘の私のこともね」
「そいつはまた大きく出たな。神霊には敵わないだろうに」
「彼らは霊王と神霊の差が分かってないのよ。私はまだ霊王レベルなのに、私を封印できそうなので、神々にも対抗出来ると驕り高ぶっているのよ」
「さっき言っていた神通力を妨害する方法か?」
「ええ。おばさんを捕まえたときに天使たちが使った『天粒子の壺』が、龍王国にはゴロゴロしているのよ」
天粒子を空気中に散布すると、神通力が空気を伝わりにくくなり、奇蹟の発現が難しくなる。ミサトは四百年前にこれを使われて、この龍王国で捕縛された。
「神界の奴らは壺を回収していないのか?」
「買収されているのよ。『龍の涙』でね」
「龍の涙」は戦闘マシンの天使たちの大好物だ。口にすると神の愛を感じることができ、幸福の絶頂を感じることが出来る。
「神界委員会は気づいているのか?」
「気づいていないわよ」
「俺が報告すれば終わりじゃないか。ま、まさか、竜子お前っ!?」
完全に騙された。女は怖い。全く気付けなかった。竜子は女王を追われたりなどしていない。今も龍たちの上に君臨していて、龍たちと一緒にミサトに復讐するつもりだ。
「そうよ。おじさんにはずっとここにいて欲しいのよ。神界に報告されて、壺を回収されちゃうと困るのよね」
「お前、ミサトを捕らえるつもりかっ」
「おばさんは今ミサトっていうのね。いいこと聞いちゃった」
竜子はペロリと舌を出した。こいつ、本気でやるつもりだ。
「それに、俺が捕えられたら、母がすぐに気づくぞ」
「女神祖様には話は通してあるわ。女神祖様はおばさんのことがお嫌いみたいよ。少しはお灸を据えるべきね、だって」
「お前たち、ミサトに勝てるとでも本気で思っているのか!?」
「思っているわよ。私たちには天使軍団がバックにいるのよ」
「ミサトは神祖様の愛娘だぞ。神祖様も争いに出て来たら、えらいことになるぞ」
「別におばさんを殺す訳じゃないのよ。龍たちに土下座して謝ってもらうだけよ。神祖様はおばさんが害されない限りは手を出さないわ。子供の喧嘩に親が出てくるようなことはしないわよ」
「お前たち、ミサトの恐ろしさを何も分かっていない。神霊に明確に敵対した場合、他神の創造物であっても、神罰を下していいんだぞ。お前は俺が守ってやるが、龍たちは皆殺しにされるぞ!」
「あはは! おじさんですら何も出来ないこの濃度の天粒子を浴びたら、いくらおばさんが化け物でも、何も出来ないわよ」
「でも、人間は動けるぞ。人間の神通力は神通力もどきだ。仕組みが違う」
「おじさん、どうかしちゃったの? 私は人間には手を出せないけど、龍たちは違うのよ。龍が人間に負けるわけがないじゃない」
だめだ。竜子は復讐心が強くなりすぎて、物事がよく見えなくなってしまっている。ミサトが捕まったのは、俺が味方にならないと知ったからだ。壺なんぞはどうにか出来たに違いないのだ。
母もミサトの強さは知っているはずだが、母は龍がどうなっても構わないのだろう。面白い行事が始まるぐらいにしか思っていない。
龍神とアテナが作ったこの龍王国をバカ娘が台無しにするのを俺は見ていることしか出来ないのか。
本堂はわりと小綺麗に保たれていた。
「ここは安全なのよ」
俺は本堂の板の間にあぐらをかいた形で浮かんでいた。竜子は女座りの状態で浮かんでいて、風で乱れた髪をといでいる。
「お前はまだ生身なのか?」
「霊体化は終わってるわよ。髪だけ権現しているのよ」
「なぜ?」
「それしか出来ないの」
竜子は恥ずかしそうに言った。俺はコツを教えてやった。
「ありがとう、おじさん! 何だか出来そうな気がして来た。後で練習してみる」
教えてくれる親もなく、全部自分でやってきたのか。不憫で可哀想すぎる。
「で、味方はいないのか?」
「うん、一体も」
「どうしてこんなことになった?」
「龍は龍神様の使いの雄雌八十体ずつの霊王から産まれた初代と呼ばれる古龍たちの末裔なの。龍に寿命はないから、初代はまだほとんどが生きているわ」
「なるほど、見えて来たぞ。カザナミが初代の親を皆殺しにしたのを恨んでいるんだな」
「ええ、そして、それを阻止できなかった私の両親のことも無能神と呼んでバカにしているの。娘の私のこともね」
「そいつはまた大きく出たな。神霊には敵わないだろうに」
「彼らは霊王と神霊の差が分かってないのよ。私はまだ霊王レベルなのに、私を封印できそうなので、神々にも対抗出来ると驕り高ぶっているのよ」
「さっき言っていた神通力を妨害する方法か?」
「ええ。おばさんを捕まえたときに天使たちが使った『天粒子の壺』が、龍王国にはゴロゴロしているのよ」
天粒子を空気中に散布すると、神通力が空気を伝わりにくくなり、奇蹟の発現が難しくなる。ミサトは四百年前にこれを使われて、この龍王国で捕縛された。
「神界の奴らは壺を回収していないのか?」
「買収されているのよ。『龍の涙』でね」
「龍の涙」は戦闘マシンの天使たちの大好物だ。口にすると神の愛を感じることができ、幸福の絶頂を感じることが出来る。
「神界委員会は気づいているのか?」
「気づいていないわよ」
「俺が報告すれば終わりじゃないか。ま、まさか、竜子お前っ!?」
完全に騙された。女は怖い。全く気付けなかった。竜子は女王を追われたりなどしていない。今も龍たちの上に君臨していて、龍たちと一緒にミサトに復讐するつもりだ。
「そうよ。おじさんにはずっとここにいて欲しいのよ。神界に報告されて、壺を回収されちゃうと困るのよね」
「お前、ミサトを捕らえるつもりかっ」
「おばさんは今ミサトっていうのね。いいこと聞いちゃった」
竜子はペロリと舌を出した。こいつ、本気でやるつもりだ。
「それに、俺が捕えられたら、母がすぐに気づくぞ」
「女神祖様には話は通してあるわ。女神祖様はおばさんのことがお嫌いみたいよ。少しはお灸を据えるべきね、だって」
「お前たち、ミサトに勝てるとでも本気で思っているのか!?」
「思っているわよ。私たちには天使軍団がバックにいるのよ」
「ミサトは神祖様の愛娘だぞ。神祖様も争いに出て来たら、えらいことになるぞ」
「別におばさんを殺す訳じゃないのよ。龍たちに土下座して謝ってもらうだけよ。神祖様はおばさんが害されない限りは手を出さないわ。子供の喧嘩に親が出てくるようなことはしないわよ」
「お前たち、ミサトの恐ろしさを何も分かっていない。神霊に明確に敵対した場合、他神の創造物であっても、神罰を下していいんだぞ。お前は俺が守ってやるが、龍たちは皆殺しにされるぞ!」
「あはは! おじさんですら何も出来ないこの濃度の天粒子を浴びたら、いくらおばさんが化け物でも、何も出来ないわよ」
「でも、人間は動けるぞ。人間の神通力は神通力もどきだ。仕組みが違う」
「おじさん、どうかしちゃったの? 私は人間には手を出せないけど、龍たちは違うのよ。龍が人間に負けるわけがないじゃない」
だめだ。竜子は復讐心が強くなりすぎて、物事がよく見えなくなってしまっている。ミサトが捕まったのは、俺が味方にならないと知ったからだ。壺なんぞはどうにか出来たに違いないのだ。
母もミサトの強さは知っているはずだが、母は龍がどうなっても構わないのだろう。面白い行事が始まるぐらいにしか思っていない。
龍神とアテナが作ったこの龍王国をバカ娘が台無しにするのを俺は見ていることしか出来ないのか。
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