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第二章 スローライフ
テンタクル山
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テンタクル山はリッチモンド公爵領の北の境界にある標高600メートルの霊山で、古来から仙人の修行の場として知られている。
リッチモンド本邸からは馬車で3日の旅路だった。
妖精にはシルバという名前をつけた。シルバは馬車の中ではグレースの膝の上で寝ていて、外ではいつもグレースの右肩に顎と両前足をちょこんと乗せる形でぶら下がるようにして浮いていた。
宿でお風呂に入るときもグレースの頭の上辺りに浮いていて、トイレに入るときでさえ一緒だった。
「君はどこにでもついてくるんだな」
グレースはそう言って、シルバの頭を撫でた。
全く何もしない子猫なのだが、毛並みがモフモフしていて、撫でると気持ちがいい。グレースはいつも黙ってただそばにいてくれるシルバに少しずつ心が癒されて行き、ローズと話が出来るまでには、精神が回復していた。
ローズもシルバに慣れて来て、何とかこの可愛い子猫を抱っこしようとするのだが、シルバはグレースから決して離れようとしない。グレースがローズに手渡そうとしても、すり抜けてグレースの元に戻ってしまうのだ。
そのため、ローズは仕方がないので、グレースごとシルバをハグすることにした。シルバもさすがにこの作戦には対応できず、迷惑そうに黙ってハグされていた。
ローズはグレースを山の麓まで送ってくれた。
「お嬢様、本当に一人で大丈夫ですか?」
ローズは心配してしばらく一緒にいると言ってくれたが、グレースと一緒にいるのはローズにとって良くないし、これ以上甘えるのも良くないと思い、グレースは申し出を断った。
「ええ、今まで本当にありがとうございます。ローズ先生がいなかったら、私、死んでいたと思います。ご恩は一生忘れません。それに一人ではありません。シルバが一緒です」
ローズは心配しながらも、当座の食糧と衣類や生活用品をグレースに渡して、馬車で帰っていった。
グレースは急に心細くなってしまったが、肩にシルバの体温を感じ、シルバに話しかけた。
「これから頑張らないとね。頼りにしているわよ、相棒」
『おう、任せとけ』
「なっ、喋った? いや、響いた?」
『念話ってやつだ。久しぶり、っていっても、どうやら俺のことは覚えてないか』
シルバの話によると、前世でグレースとシルバは恋人同士だったのだが、シルバはグレースを幸せに出来なかったらしい。詳細はあまり話したがらないのだが、その罪滅ぼしのために今世では妖精となってグレースを守ると誓ったのだそうだ。
「ってことは君は男?」
『どうだろうな。妖精には性別がないからな。でも、まあ、前世の記憶があるから、中身は男かな』
「お、お、お風呂とか、ト、トイレまでついて来て、何してくれてんのよっ」
グレースは真っ赤になって声を張り上げた。
『おっ、やっと元気が出て来たか? ほら前世では契りを結んでるし、今更だろう。そういえば、前世の方が胸がだいぶ大きかったような気が。かなり前なのでうろ覚えなんだが。おわっ』
グレースが肩にぶら下がっていたシルバを一本背負いのようにして地面に投げつけた。シルバは猫の身のこなしで難なく着地を決める。
「裸どころか、トイレまで見られるなんて、もうお嫁に行けないわ」
グレースは両手で顔を覆って、イヤイヤしている。
『トイレは見てないって。感覚も全部遮断して、魔法で敵を検知するようにしていたからさ」
シルバはグレースの右肩に戻った。
「本当?」
『本当さ。グレースの嫌がることはしないって』
「じゃあ、今度からお風呂もトイレもついてこないでよ」
『分かったよ。でも、浴場にはついていくぞ。襲われたときに守れないからな』
「この先、浴場に行く機会なんてないわよ」
グレースは寂しそうに笑った。
『何があったのかは馬車の中での会話で大体分かったが、詳細は後で聞くとして、これからどうするつもりだ?』
「山荘に行ってみる」
山の中腹にリッチモンド家所有の山荘がある。幼少の頃に何度か両親に連れて来られたことがあるが、十年ほど前の大雨での土砂崩れが山荘近くであり、危険になったため訪れなくなっていた。グレースはまずはそこに行くつもりでいた。
『よし、じゃあ、行くぞ』
「えっ? 私浮いてる!?」
『山歩きは今の弱った体では疲れるだろうよ。今は鍛えるよりも休む方が大切だ。俺は治癒魔法は使えないんだ。道案内頼んだぞ』
「うん、分かった」
グレースに少しずつ笑顔が戻ってきた。
リッチモンド本邸からは馬車で3日の旅路だった。
妖精にはシルバという名前をつけた。シルバは馬車の中ではグレースの膝の上で寝ていて、外ではいつもグレースの右肩に顎と両前足をちょこんと乗せる形でぶら下がるようにして浮いていた。
宿でお風呂に入るときもグレースの頭の上辺りに浮いていて、トイレに入るときでさえ一緒だった。
「君はどこにでもついてくるんだな」
グレースはそう言って、シルバの頭を撫でた。
全く何もしない子猫なのだが、毛並みがモフモフしていて、撫でると気持ちがいい。グレースはいつも黙ってただそばにいてくれるシルバに少しずつ心が癒されて行き、ローズと話が出来るまでには、精神が回復していた。
ローズもシルバに慣れて来て、何とかこの可愛い子猫を抱っこしようとするのだが、シルバはグレースから決して離れようとしない。グレースがローズに手渡そうとしても、すり抜けてグレースの元に戻ってしまうのだ。
そのため、ローズは仕方がないので、グレースごとシルバをハグすることにした。シルバもさすがにこの作戦には対応できず、迷惑そうに黙ってハグされていた。
ローズはグレースを山の麓まで送ってくれた。
「お嬢様、本当に一人で大丈夫ですか?」
ローズは心配してしばらく一緒にいると言ってくれたが、グレースと一緒にいるのはローズにとって良くないし、これ以上甘えるのも良くないと思い、グレースは申し出を断った。
「ええ、今まで本当にありがとうございます。ローズ先生がいなかったら、私、死んでいたと思います。ご恩は一生忘れません。それに一人ではありません。シルバが一緒です」
ローズは心配しながらも、当座の食糧と衣類や生活用品をグレースに渡して、馬車で帰っていった。
グレースは急に心細くなってしまったが、肩にシルバの体温を感じ、シルバに話しかけた。
「これから頑張らないとね。頼りにしているわよ、相棒」
『おう、任せとけ』
「なっ、喋った? いや、響いた?」
『念話ってやつだ。久しぶり、っていっても、どうやら俺のことは覚えてないか』
シルバの話によると、前世でグレースとシルバは恋人同士だったのだが、シルバはグレースを幸せに出来なかったらしい。詳細はあまり話したがらないのだが、その罪滅ぼしのために今世では妖精となってグレースを守ると誓ったのだそうだ。
「ってことは君は男?」
『どうだろうな。妖精には性別がないからな。でも、まあ、前世の記憶があるから、中身は男かな』
「お、お、お風呂とか、ト、トイレまでついて来て、何してくれてんのよっ」
グレースは真っ赤になって声を張り上げた。
『おっ、やっと元気が出て来たか? ほら前世では契りを結んでるし、今更だろう。そういえば、前世の方が胸がだいぶ大きかったような気が。かなり前なのでうろ覚えなんだが。おわっ』
グレースが肩にぶら下がっていたシルバを一本背負いのようにして地面に投げつけた。シルバは猫の身のこなしで難なく着地を決める。
「裸どころか、トイレまで見られるなんて、もうお嫁に行けないわ」
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『トイレは見てないって。感覚も全部遮断して、魔法で敵を検知するようにしていたからさ」
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「本当?」
『本当さ。グレースの嫌がることはしないって』
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「えっ? 私浮いてる!?」
『山歩きは今の弱った体では疲れるだろうよ。今は鍛えるよりも休む方が大切だ。俺は治癒魔法は使えないんだ。道案内頼んだぞ』
「うん、分かった」
グレースに少しずつ笑顔が戻ってきた。
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