18 / 43
第五章 迎撃
伝言
しおりを挟む
エカテリーナが山から戻って、リッチモンド邸に到着したとき、セバスチャンから驚くべき報告を受けることとなった。
グレースが数日前にふらりと帰って来て、屋敷で使用人を罰して、リチャードを殺し、その後、また山に戻ってしまったようなのだ。詳細は地下牢にいるマークに聞けというのが、エカテリーナへの伝言らしい。
「どうやって?」
エカテリーナは驚いた。まず、数日前に帰って来ているというのがおかしい。転移でも出来るのだろうか。また、リチャードは空から落下させて殺したとのことだが、これも魔法なのだろうか。
「恐らく宙に浮かせる不思議な魔法をお使いになったのだと思います。私はこの通り、その魔法で腕を折られました。お嬢様を一年前に牢に入れたときのことをお恨みになられていたようです」
セバスチャンがグレースに対して丁寧な敬語を使っている。余程怖い目にあったようだ。
「アニーとテイルはどうしたの?」
「アニー様とテイル様は地下牢に入れられています」
「何ですって? 何故そんなことを」
エカテリーナはピンと来た。
「仕返しね。そうね、これで許してくれるのであれば、このまま入ってもらうしかないわね。風呂ダメ、面会ダメ、囚人食で暮らせ、でしょう?」
「その通りでございます」
「ところで、あの男は何故下半身裸で作業しているの?」
少し先に一人ポツンと薪割りをしている男をエカテリーナは指差した。
「お嬢様から命じられたからです。一年前、ビルはお嬢様のスカートをめくったために罰を受けています」
「ふふふ、愉快ね。他に罰を受けた使用人はいるの?」
「マークです。エドワード様の守衛たちに酷く殴られたそうです。リチャード様の死も目撃していますが、エカテリーナ様以外には話すな、とお嬢様から命じられているそうです」
「分かったわ、早速会って話を聞いてみるわ」
エカテリーナはすぐに地下牢へと向かった。娘たちは面会禁止で、メイドたちが目を血走らせて見張っている。何人たりとも侵入させない、という気合いがヒシヒシと伝わって来る。
「ご苦労様」
エカテリーナはメイドたちにそう言って、娘たちの地下牢の区画は素通りした。セバスチャンから教わった区画に入るとマークが牢に入っていた。この区画の突き当たりには隠し部屋がある。
「マーク、グレースからの伝言を聞かせて頂戴」
「奥様! 牢から出ひてくらはい」
「グレースは当主よ。当主の命には背けないわ。何があったか教えなさい」
「……。はひ」
歯が何本か抜けていて聞き取りにくいところがあったが、マークは順を追って何があったかを説明し始めた。
どうやら、グレースは化け物になってしまったようだ。ローズが言っていたが、あの子猫は本当に恐ろしい妖精のようだ。
マークの話の場面が、王宮に移った。リチャードはここではなく、王宮で殺されたのか。そして、王子と側妃を助けた話をしている。
「何ですって? エドワード王子様とお妃様がここに!?」
すぐに立ち去ろうとするエカテリーナをマークが引き止めた。
「奥様、お待ちくらはい。お嬢様から、リッチモンド家は引き続きお嬢様を追放処分のままにしておいて欲しい、とのことれす」
エカテリーナは少し考えてから、マークに礼を言って、急いで隠し部屋に向かった。
「エドワード王子様、お妃様、ご挨拶が遅れました。エカテリーナでございます」
グレースが数日前にふらりと帰って来て、屋敷で使用人を罰して、リチャードを殺し、その後、また山に戻ってしまったようなのだ。詳細は地下牢にいるマークに聞けというのが、エカテリーナへの伝言らしい。
「どうやって?」
エカテリーナは驚いた。まず、数日前に帰って来ているというのがおかしい。転移でも出来るのだろうか。また、リチャードは空から落下させて殺したとのことだが、これも魔法なのだろうか。
「恐らく宙に浮かせる不思議な魔法をお使いになったのだと思います。私はこの通り、その魔法で腕を折られました。お嬢様を一年前に牢に入れたときのことをお恨みになられていたようです」
セバスチャンがグレースに対して丁寧な敬語を使っている。余程怖い目にあったようだ。
「アニーとテイルはどうしたの?」
「アニー様とテイル様は地下牢に入れられています」
「何ですって? 何故そんなことを」
エカテリーナはピンと来た。
「仕返しね。そうね、これで許してくれるのであれば、このまま入ってもらうしかないわね。風呂ダメ、面会ダメ、囚人食で暮らせ、でしょう?」
「その通りでございます」
「ところで、あの男は何故下半身裸で作業しているの?」
少し先に一人ポツンと薪割りをしている男をエカテリーナは指差した。
「お嬢様から命じられたからです。一年前、ビルはお嬢様のスカートをめくったために罰を受けています」
「ふふふ、愉快ね。他に罰を受けた使用人はいるの?」
「マークです。エドワード様の守衛たちに酷く殴られたそうです。リチャード様の死も目撃していますが、エカテリーナ様以外には話すな、とお嬢様から命じられているそうです」
「分かったわ、早速会って話を聞いてみるわ」
エカテリーナはすぐに地下牢へと向かった。娘たちは面会禁止で、メイドたちが目を血走らせて見張っている。何人たりとも侵入させない、という気合いがヒシヒシと伝わって来る。
「ご苦労様」
エカテリーナはメイドたちにそう言って、娘たちの地下牢の区画は素通りした。セバスチャンから教わった区画に入るとマークが牢に入っていた。この区画の突き当たりには隠し部屋がある。
「マーク、グレースからの伝言を聞かせて頂戴」
「奥様! 牢から出ひてくらはい」
「グレースは当主よ。当主の命には背けないわ。何があったか教えなさい」
「……。はひ」
歯が何本か抜けていて聞き取りにくいところがあったが、マークは順を追って何があったかを説明し始めた。
どうやら、グレースは化け物になってしまったようだ。ローズが言っていたが、あの子猫は本当に恐ろしい妖精のようだ。
マークの話の場面が、王宮に移った。リチャードはここではなく、王宮で殺されたのか。そして、王子と側妃を助けた話をしている。
「何ですって? エドワード王子様とお妃様がここに!?」
すぐに立ち去ろうとするエカテリーナをマークが引き止めた。
「奥様、お待ちくらはい。お嬢様から、リッチモンド家は引き続きお嬢様を追放処分のままにしておいて欲しい、とのことれす」
エカテリーナは少し考えてから、マークに礼を言って、急いで隠し部屋に向かった。
「エドワード王子様、お妃様、ご挨拶が遅れました。エカテリーナでございます」
14
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
湊一桜
恋愛
王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。
森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。
オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。
行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。
そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。
※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
お前を愛することはない!?それより異世界なのに魔物も冒険者もいないだなんて酷くない?
白雪なこ
恋愛
元婚約者のせいで、今、私ったら、「お前を愛することない!」と言う、つまらない台詞を聞く仕事をしておりますが、晴れて婚約者が元婚約者になりましたので、特に文句はございません!やったぜ!
異世界に転生したっぽいのに、魔物も冒険者もいないので、夢と希望は自分で作ることにしました。まずは、一族郎党へのロマンの布教完了です。
*激しくゆるゆる。いや、おかしいだろ!とツッコミながらお読みください。
*タイトル変更・1話修正・短編から長編に変更
*外部サイトにも掲載しています。
地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜
咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。
全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。
「お前から、腹の減る匂いがする」
空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。
公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう!
これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。
元婚約者への、美味しいざまぁもあります。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる