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一度目の殺人
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私、クレア・バートンは、十七歳にして、殺人を犯した。
ついにアリサを殺したのだ。
アリサは誰からも好かれて、天真爛漫で、そして、無意識のうちに私が大事にしているものを奪って行く。そういう女だった。
ユリウスは私より一つ年上の侯爵家の令息だ。私と婚約しているにも関わらず、アリサに惹かれていき、もう私が何をしても、振り向いてくれそうになかった。
婚約破棄される前にアリサを殺す。
私にはそうするしかなかった。子供の頃から大好きなユリウスが、他人になってしまう人生なんて考えられなかった。
だから、殺した。後悔はしていない。これで、ユリウスは私のところにきっと戻って来る。
私が疑われることはない。アリサは伯爵令嬢で、学園では私の親友ということになっていて、これまで人前で揉めたことはない。
アリサはユリウスのことは何とも思ってはいないはずだし、ユリウスがアリサに惹かれていることに気づいていたのは私だけだ。
ユリウスもアリサへの想いは必死に隠していた。
大丈夫だ。
私は急いで現場を立ち去った。アリサの遺体は沈んだままで、浮かんでこないはずだ。
これで私は幸せになれる。
***
翌朝、目を覚ますと、いつものようにメイドのアーニャが朝食を運んで来た。
私の家はかなり裕福な子爵家で、学園には王都の別邸から通っている。
いつも朝食はベッドの上でいただくのが日課だが、メニューが昨日と全く同じだった。
「ねえ、アーニャ、これ、昨日と同じメニューよね」
「いえ、昨日はキノコのスープと白パンでございました」
「それはおとといでしょう……。いいわ、頂くわ」
「はあ」
朝食を終えて、学園の制服に着替えた。
今日からアリサがいないと思うと、気持ちが弾む。そうなんだ。私は彼女が嫌いだったのだ。いなくなって、こんなにスッキリとした気分になれるだなんて。
私は学園に着くまで、異変に全く気づなかった。登校するまでは、毎日毎日同じようなことの繰り返しだから。
だが、授業が始まってから、ようやく異変に気づいた。
水曜日の授業のつもりでいたら、火曜日の授業が始まったのだ。昨夜、ちゃんと水曜日の準備をしたはずなのに、鞄の中は火曜日の教科書になっていた。
どうなっている?
歴史の授業内容は昨日聞いたものだった。
昨日に戻っている? ひょっとして……
私は授業が終わってすぐに隣のクラスに駆け込んだ。
隣のクラスの生徒が、ドタバタして入って来た私を見て驚いている。そのなかに、私に向かって手を振るアリサの姿があった。
「クレア、慌ててどうしたの? 忘れ物でもしたの?」
「う、ううん。アリサに挨拶していないことを思い出したの」
「まあ、おかしな人ね。クレア、おはよう」
「おはよう、アリサ」
「どうしたの? 顔が真っ青よ。気分が悪いの? 医務室の先生をお呼びして来るわ」
「あ、ちょっと待って……」
アリサは走って行ってしまった。彼女はいつもこんな感じだ。自分の行動は常に正しいと思い込み、人がどう受け止めるかは考えない。
男性は彼女のこういうところを優しく健気で可愛いと思うようだが、ほとんどが要らぬおせっかいだ。
アリサが医務室の先生を連れて来てしまったので、私は先生といっしょに医務室に行くことにした。
「軽い貧血です。アリサは大げさで、すいません」
「いいのよ。アリサさんはすごく心配していたのよ。朝何か悪いものでも食べたんじゃないかって」
「はあ……」
私の家は娘に腐ったものを食べさせる家だとでもいうのだろうか。こういう無神経な発言も腹立だしい。
だんだんとアリサに対するイライラが募り始めて来た。
なぜ彼女は生きているのだろうか。確かに背中からナイフを力一杯突き刺し、用水路に沈めたのだ。今もそのときの感触が手に残っている。
私がベッドに座って両手を見ていると、男女が会話する声が聞こえて来た。
え? ユリウス様?
アリサがユリウスといっしょに医務室に入って来た。
「クレア、ユリウス様をお連れしたわよ。ユリウス様、婚約者のご看病をよろしくお願いします。私は失礼致します」
ユリウスが立ち去って行くアリサの後ろ姿を目で追っていた。
心がズキンと痛む。
「ユリウス様、ただの貧血です。ご心配お掛けしました。もう大丈夫ですから、授業にお戻り下さい」
「ははは、まあそう言うなよ。アリサ嬢が血相変えて呼びに来るからびっくりしたが、元気そうでよかった。あまりアリサ嬢に心配かけさせるなよ」
「は、はい」
何よ、あの子が勝手に大騒ぎしただけじゃない。
「クレア、ちょうどよかった。今日の昼休みに少し話がしたいんだ。時間取れる?」
「はい、大丈夫です……」
結婚式の延期の話だ。ダメだ。完全に元に戻ってしまっている。
「じゃあ、大丈夫そうだから、僕は授業に戻るね。また後で」
ユリウスは走って出て行った。アリサに追いつくつもりなのだろう。
ああ、どうしよう。もう一回殺すしかないの?
ついにアリサを殺したのだ。
アリサは誰からも好かれて、天真爛漫で、そして、無意識のうちに私が大事にしているものを奪って行く。そういう女だった。
ユリウスは私より一つ年上の侯爵家の令息だ。私と婚約しているにも関わらず、アリサに惹かれていき、もう私が何をしても、振り向いてくれそうになかった。
婚約破棄される前にアリサを殺す。
私にはそうするしかなかった。子供の頃から大好きなユリウスが、他人になってしまう人生なんて考えられなかった。
だから、殺した。後悔はしていない。これで、ユリウスは私のところにきっと戻って来る。
私が疑われることはない。アリサは伯爵令嬢で、学園では私の親友ということになっていて、これまで人前で揉めたことはない。
アリサはユリウスのことは何とも思ってはいないはずだし、ユリウスがアリサに惹かれていることに気づいていたのは私だけだ。
ユリウスもアリサへの想いは必死に隠していた。
大丈夫だ。
私は急いで現場を立ち去った。アリサの遺体は沈んだままで、浮かんでこないはずだ。
これで私は幸せになれる。
***
翌朝、目を覚ますと、いつものようにメイドのアーニャが朝食を運んで来た。
私の家はかなり裕福な子爵家で、学園には王都の別邸から通っている。
いつも朝食はベッドの上でいただくのが日課だが、メニューが昨日と全く同じだった。
「ねえ、アーニャ、これ、昨日と同じメニューよね」
「いえ、昨日はキノコのスープと白パンでございました」
「それはおとといでしょう……。いいわ、頂くわ」
「はあ」
朝食を終えて、学園の制服に着替えた。
今日からアリサがいないと思うと、気持ちが弾む。そうなんだ。私は彼女が嫌いだったのだ。いなくなって、こんなにスッキリとした気分になれるだなんて。
私は学園に着くまで、異変に全く気づなかった。登校するまでは、毎日毎日同じようなことの繰り返しだから。
だが、授業が始まってから、ようやく異変に気づいた。
水曜日の授業のつもりでいたら、火曜日の授業が始まったのだ。昨夜、ちゃんと水曜日の準備をしたはずなのに、鞄の中は火曜日の教科書になっていた。
どうなっている?
歴史の授業内容は昨日聞いたものだった。
昨日に戻っている? ひょっとして……
私は授業が終わってすぐに隣のクラスに駆け込んだ。
隣のクラスの生徒が、ドタバタして入って来た私を見て驚いている。そのなかに、私に向かって手を振るアリサの姿があった。
「クレア、慌ててどうしたの? 忘れ物でもしたの?」
「う、ううん。アリサに挨拶していないことを思い出したの」
「まあ、おかしな人ね。クレア、おはよう」
「おはよう、アリサ」
「どうしたの? 顔が真っ青よ。気分が悪いの? 医務室の先生をお呼びして来るわ」
「あ、ちょっと待って……」
アリサは走って行ってしまった。彼女はいつもこんな感じだ。自分の行動は常に正しいと思い込み、人がどう受け止めるかは考えない。
男性は彼女のこういうところを優しく健気で可愛いと思うようだが、ほとんどが要らぬおせっかいだ。
アリサが医務室の先生を連れて来てしまったので、私は先生といっしょに医務室に行くことにした。
「軽い貧血です。アリサは大げさで、すいません」
「いいのよ。アリサさんはすごく心配していたのよ。朝何か悪いものでも食べたんじゃないかって」
「はあ……」
私の家は娘に腐ったものを食べさせる家だとでもいうのだろうか。こういう無神経な発言も腹立だしい。
だんだんとアリサに対するイライラが募り始めて来た。
なぜ彼女は生きているのだろうか。確かに背中からナイフを力一杯突き刺し、用水路に沈めたのだ。今もそのときの感触が手に残っている。
私がベッドに座って両手を見ていると、男女が会話する声が聞こえて来た。
え? ユリウス様?
アリサがユリウスといっしょに医務室に入って来た。
「クレア、ユリウス様をお連れしたわよ。ユリウス様、婚約者のご看病をよろしくお願いします。私は失礼致します」
ユリウスが立ち去って行くアリサの後ろ姿を目で追っていた。
心がズキンと痛む。
「ユリウス様、ただの貧血です。ご心配お掛けしました。もう大丈夫ですから、授業にお戻り下さい」
「ははは、まあそう言うなよ。アリサ嬢が血相変えて呼びに来るからびっくりしたが、元気そうでよかった。あまりアリサ嬢に心配かけさせるなよ」
「は、はい」
何よ、あの子が勝手に大騒ぎしただけじゃない。
「クレア、ちょうどよかった。今日の昼休みに少し話がしたいんだ。時間取れる?」
「はい、大丈夫です……」
結婚式の延期の話だ。ダメだ。完全に元に戻ってしまっている。
「じゃあ、大丈夫そうだから、僕は授業に戻るね。また後で」
ユリウスは走って出て行った。アリサに追いつくつもりなのだろう。
ああ、どうしよう。もう一回殺すしかないの?
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