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墓穴
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男が贈り物をするのは、鳥や昆虫と同じで、メスの気を向かせるためだ。
アリサもそれは分かっているはずだが、勝手にくれるのだから、頂いておこうというという感じで、さほど深刻にはとらえていない。
だが、当然、男の方は投資に見合うリターンを求めるはずだ。そして、それが得られない、と分かったとき、殺人へと走る危ない輩も出て来るだろう。
でも、まさかユリウスがあのような行動に出るとは、思いもしなかった。
アリサが家に同居するようになって、三週間ほど経ったころ、ユリウスが家を訪ねて来た。
一階の応接室に通した。
「どういった御用件ですの?」
「アリサが婚約を承諾してくれないんだ。君からも説得してくれないか?」
「え? 嫌ですわ」
「嫌って……。そういう約束だろう」
「私がアリサを説得するお約束はしておりませんわ。ユリウス様はアリサが承諾すると自信がおありになったのでは?」
「それは……、君に不快な思いをさせたくなかったから黙っていたのだが、彼女は僕に好意を寄せていたはずなんだ」
「そう思われていたのですか? それは勘違いですわ」
「勘違い? そんなことはない。事実……」
そう言ったままユリウスは口をつぐんでしまった。
「事実、何ですの? お花を贈ったり、色々と贈り物をしたりされておられるそうですが、それをアリサが受け取って、嬉しそうに感謝していたから、でしょうか」
「知っていたのか。そうだ、それもある。それに、アリサ嬢は僕にとても優しく暖かく接してくれていた」
「親友の婚約者だったから、と言ってましたわ。あ、元婚約者でした」
「そんなバカな……」
「本人がそう言っておりますもの。他にも多くの男が彼女には贈り物をしているようです。週末はその取り次ぎだけで、私のメイドが大忙しですのよ」
ユリウスは登下校のときに贈り物を渡していたため、知らなかったのだろうが、週末には多くの令息の使いがやって来て、贈り物を置いていく。中には直接会いに来る人もいるが、アリサには絶対に会わせないようにしている。
「そうなのか?」
「ええ。彼女にとって、ユリウス様はその中のお一人に過ぎないのです」
「何だと! 侯爵家の俺にそんな態度を取って許されるとでも思っているのか!?」
ユリウスが突然乱暴な口調で怒り出した。コケにされたことがこれまでなかったのだろう。ものすごい剣幕だ。
「そんな大声を出さないで下さいまし。護衛のものが駆けつけて来てしまいます」
この別邸は、一人娘が安全に暮らせるように、護衛はかなりしっかりしている。また、アリサには内密で彼女を護衛したいと第一王子の護衛から申し入れを受けており、彼らも待機しているはずだ。
案の定、ドアをノックして来た。
「大丈夫? クレア、どなたがいらしているの?」
(え? アリサ?)
アリサの声を聞いたユリウスが、脱兎の如くドアまで駆け寄り、ドアを思いっきり開いた。
アリサは驚いて固まってしまっていた。
「アリサ嬢、なぜ俺からの婚約の申し込みに応じないっ!」
ユリウスがアリサの腕を乱暴に掴んだ。
「ユ、ユリウス様、私、他にお慕い申している殿方がおられますのでっ」
そんな人がいたんだ。
「何だとっ!? 思わせぶりな態度を取りやがって。俺がお前にいくらつぎ込んでいると思ってるんだっ」
ユリウスが逆上して豹変してしまった。ここまで下劣な男だとは思いもしなかった。
「誰かっ、アリサがユリウス様に乱暴されていますっ。助けてっ」
私の叫び声に、私の護衛だけではなく、第一王子が派遣している護衛も飛び込んできて、ユリウスをアリサから引き離した。
同じく騒ぎを聞きつけて駆けつけて来たサーシャに、アリサを二階の自室まで連れていくよう指示した。
「ユリウス様、お帰りください。そして、二度とこちらにはお越しにならないで下さい」
「逆上したのは悪かった。だが、君は僕の婚約者だろう?」
「いいえ、元婚約者です。この醜態を見せられて、まさか元通りになるとでも思ってらっしゃるのでしょうか?」
「元通りになるさ。侯爵家の力でな」
ユリウスが勝ち誇ったような顔をした。ああ、本当に私は馬鹿だった。男を見る目がなかった。こんな男に恋をしていたなんて。
「こちらの方は第一王子フィリップ様の護衛の方です。アリサはフィリップ様とのご交友があるのです。今日のことはフィリップ様のお耳に入ると思います。侯爵家の力というものがどこまで通じるか、見させて頂きますね」
「そんな馬鹿な……」
婚約者がありながら、アリサに懸想したり、別の女性を連れて誕生会に参加したりという印象をフィリップ王子に植え付けようと画策していたのだが、そんなことはしなくても、自ら墓穴を掘ってくれて大助かりだ。
「お引き取り下さい。ご機嫌よう」
アリサもそれは分かっているはずだが、勝手にくれるのだから、頂いておこうというという感じで、さほど深刻にはとらえていない。
だが、当然、男の方は投資に見合うリターンを求めるはずだ。そして、それが得られない、と分かったとき、殺人へと走る危ない輩も出て来るだろう。
でも、まさかユリウスがあのような行動に出るとは、思いもしなかった。
アリサが家に同居するようになって、三週間ほど経ったころ、ユリウスが家を訪ねて来た。
一階の応接室に通した。
「どういった御用件ですの?」
「アリサが婚約を承諾してくれないんだ。君からも説得してくれないか?」
「え? 嫌ですわ」
「嫌って……。そういう約束だろう」
「私がアリサを説得するお約束はしておりませんわ。ユリウス様はアリサが承諾すると自信がおありになったのでは?」
「それは……、君に不快な思いをさせたくなかったから黙っていたのだが、彼女は僕に好意を寄せていたはずなんだ」
「そう思われていたのですか? それは勘違いですわ」
「勘違い? そんなことはない。事実……」
そう言ったままユリウスは口をつぐんでしまった。
「事実、何ですの? お花を贈ったり、色々と贈り物をしたりされておられるそうですが、それをアリサが受け取って、嬉しそうに感謝していたから、でしょうか」
「知っていたのか。そうだ、それもある。それに、アリサ嬢は僕にとても優しく暖かく接してくれていた」
「親友の婚約者だったから、と言ってましたわ。あ、元婚約者でした」
「そんなバカな……」
「本人がそう言っておりますもの。他にも多くの男が彼女には贈り物をしているようです。週末はその取り次ぎだけで、私のメイドが大忙しですのよ」
ユリウスは登下校のときに贈り物を渡していたため、知らなかったのだろうが、週末には多くの令息の使いがやって来て、贈り物を置いていく。中には直接会いに来る人もいるが、アリサには絶対に会わせないようにしている。
「そうなのか?」
「ええ。彼女にとって、ユリウス様はその中のお一人に過ぎないのです」
「何だと! 侯爵家の俺にそんな態度を取って許されるとでも思っているのか!?」
ユリウスが突然乱暴な口調で怒り出した。コケにされたことがこれまでなかったのだろう。ものすごい剣幕だ。
「そんな大声を出さないで下さいまし。護衛のものが駆けつけて来てしまいます」
この別邸は、一人娘が安全に暮らせるように、護衛はかなりしっかりしている。また、アリサには内密で彼女を護衛したいと第一王子の護衛から申し入れを受けており、彼らも待機しているはずだ。
案の定、ドアをノックして来た。
「大丈夫? クレア、どなたがいらしているの?」
(え? アリサ?)
アリサの声を聞いたユリウスが、脱兎の如くドアまで駆け寄り、ドアを思いっきり開いた。
アリサは驚いて固まってしまっていた。
「アリサ嬢、なぜ俺からの婚約の申し込みに応じないっ!」
ユリウスがアリサの腕を乱暴に掴んだ。
「ユ、ユリウス様、私、他にお慕い申している殿方がおられますのでっ」
そんな人がいたんだ。
「何だとっ!? 思わせぶりな態度を取りやがって。俺がお前にいくらつぎ込んでいると思ってるんだっ」
ユリウスが逆上して豹変してしまった。ここまで下劣な男だとは思いもしなかった。
「誰かっ、アリサがユリウス様に乱暴されていますっ。助けてっ」
私の叫び声に、私の護衛だけではなく、第一王子が派遣している護衛も飛び込んできて、ユリウスをアリサから引き離した。
同じく騒ぎを聞きつけて駆けつけて来たサーシャに、アリサを二階の自室まで連れていくよう指示した。
「ユリウス様、お帰りください。そして、二度とこちらにはお越しにならないで下さい」
「逆上したのは悪かった。だが、君は僕の婚約者だろう?」
「いいえ、元婚約者です。この醜態を見せられて、まさか元通りになるとでも思ってらっしゃるのでしょうか?」
「元通りになるさ。侯爵家の力でな」
ユリウスが勝ち誇ったような顔をした。ああ、本当に私は馬鹿だった。男を見る目がなかった。こんな男に恋をしていたなんて。
「こちらの方は第一王子フィリップ様の護衛の方です。アリサはフィリップ様とのご交友があるのです。今日のことはフィリップ様のお耳に入ると思います。侯爵家の力というものがどこまで通じるか、見させて頂きますね」
「そんな馬鹿な……」
婚約者がありながら、アリサに懸想したり、別の女性を連れて誕生会に参加したりという印象をフィリップ王子に植え付けようと画策していたのだが、そんなことはしなくても、自ら墓穴を掘ってくれて大助かりだ。
「お引き取り下さい。ご機嫌よう」
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