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第一章 人族の国

大事な話

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「ノウキ、大変なことになったわよ」

エリザベートが厨房に飛び込んできた。

「何かありましたか?」

ノウキは照り焼きソースの試作中だった。

「お母様がこちらに向かっているって、早馬が知らせに来たのよ。今日の夕方、到着されるわ」

「急ですね。何のために来られるのですか?」

「カトリーヌ将軍の報告を聞いて、親衛隊20名をあなたの部下にして、魔法を鍛えてほしいってことなのだけど、夕食をハンバーグにしろって言ってきたので、お母様の目的はあなたの料理ね」

「ははは、そういうことですか。じゃあ、ハンバーグを用意しておきましょう。何名分でしょうか?」

「カトリーヌ将軍も護衛で来られるということだから、22名分よ。材料はある?」

「アンナさんに取り寄せてもらいます。今作っている照り焼きソースも感想頂こうかな」

***

夕方になって、ローズ一行が到着した。

馬車が11台で、最初の馬車にローズとカトリーヌが乗っていた。

使用人一同が屋敷の玄関に勢ぞろいして、伯爵家夫人をお迎えする。エリザベートとノウキも玄関に出ていた。マリエールは神殿に戻っており、明日、会う予定だ。

ローズがノウキの方に歩いてくる。

さすが、美貌の姉妹の母だ。アラフォーと聞いているが、輝くばかりの美貌だ。

ノウキは事前に教わっていた貴族流の挨拶をする。

「ローズ様、お初お目にかかります。ノウキ・マモルです」

ローズは軽く手を上げて微笑んだ。

「ノウキ、よろしくね。エリザ、元気だった?」

かなり偉い人のはずだが、ずいぶんと気さくな人だなあ。

後ろにいたカトリーヌにもノウキは会釈した。

ローズはノウキに近づいて来て、耳元で囁いた。

「ねえ、ノウキ、ハンバーグってのは作ってあるの?」

ノウキも自然と小声になる。

「はい、ローズ様、ご用意しています」

「楽しみだわ。後でね」

ローズはそういって、執事に親衛隊を客室に案内するよう指示してから、自分の部屋に向かって行った。

***

食事は、カトリーヌ+親衛隊とローズ、エリザベート、ノウキとで別れてとることになった。ローズから大事な話があるという。

ローズはハンバーグを十分に堪能した。

「あなた、合格よ」

ノウキは突然ローズから合格通知をもらい、戸惑った。同じようなやり取りがカトリーヌとあったが、突然合格宣言をするのがこの国の習わしなのだろうか。

「料理でしょうか?」

ノウキはカトリーヌのときと同じような回答をした。

「料理もそうだし、エリザベートの婿としてもよ」

「お母様!」

エリザベートが立ち上がった。

「これ、エリザ、食事中に立ち上がるなどはしたない。お前は嫌なの?」

「えっ? それは、その……、嫌ではないです……」

エリザベートは真っ赤になって、椅子に座った。

俺は突然の話過ぎて、まだ脳が追い付いていない。

ローズが優しく微笑みながらノウキに語りかけた。

「ノウキ、あなたさえよければ、エリザベートの婚約者になってくれないかしら」

あれ? 人族を救った英雄になって、爵位を貰って、それから結婚という台本だったのだが、いきなり目的達成か!?

「ありがたいお話ですが、こんな素性の分からない私でよろしいのでしょうか?」

「問題はそこよ。今のままでは難しいわ。だから、あなたには出世してもらわないとね」

やはりそういうことか。俺は自分の決意を打ち明けた。

「私はエリザベートを娶るためには爵位が必要で、そのためには人族の救世主になる必要があると考えてました」

ローズは満足げに頷いた。

「上出来よ。父親と兄二人は私とエリザで説得するわ。マリは問題ないと思うけど、明日私から話すわね。婚約出来るようにメイデン家が全力でサポートするから、王室や他の貴族からつけこまれないように、手柄を立て、爵位を取って頂戴」

俺は強力な後ろ盾を得た。そして、何よりもエリザベートが俺との結婚を望んでいることを知って、心の中で狂喜乱舞した。
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