奴隷の少女を最終的に妻に迎えたいので買ってきた

たかはし

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魔術師のジュルブと奴隷のティルム

「早く君を研究したい……」

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「はい、85万。86万いらっしゃいませんか?……いらっしゃいませんね?」

男は競売の参加者達を見渡し誰もこれ以上値を上げる者がいないことを確認すると、カンッと槌を下ろした。


「では、トレント族のティルム、85万ヤルで落札です」

壇上で曝されていた少女はその声を聞き、不安そうに眉をひそめた。








「はい。85万ヤル丁度頂きました」

奴隷商人のディランは渡した金をしっかりと確認し、にこりと笑ってそう言った。

「あとは契約書と魔石に血を垂らして頂ければティルムと私共商会との契約は切れ、ジュルブさまとの仮契約が結ばれます。その後魔石と魔力を変化させた首輪を奴隷のティルムに身につけさせ、ティルムが一人以上の見届け人の前で…ああ。見届け人は私が致しますのでご安心を。ジュルブさまに仕えると宣言すれば双方に契約の印が浮き上がり、それを持って本契約となります」

ディランはそう言って魔石と呪物、それからヒールの効果がついているナイフを机の上に置いた。
僕はまず契約書を読み、それから必要事項を記入し、ナイフで指を傷つけ、ティルムとの契約を結んだ。









「さて、それじゃあ家に帰ろうか」

トレント族はある種の病に効く薬になると噂されたために乱獲され、今ではエルフ族の亜種であるダークエルフ族よりも少なく、100年前と比べると200分の一に減ったとも言われている。
更にトレント族は他族との交配がたやすく、ハイブリッド化が進んでいることが純粋なトレント族の少数化に大きな影響を及ぼしている。
そしてティルムは純粋なトレント族でありその希少性から僕の前の主人に逃げられないようにと片足の腱を切られ、今では杖なしに歩く事が出来ない。
しかしそのゆったりとした歩みに合わせていたら家に着くのに半日もかかりそうだと思ったので、僕はティルムを抱き上げて廊下を歩くことにした。




奴隷市場から出てからすぐ、街の奥にある人気のない建物の裏に滑り込みそこに設置しておいた転送用の魔方陣に乗る。
すぐに魔力を足元に移動させて魔方陣にしみ渡らせると、それは黄色い光を放って僕達を包み込み後にはぷしゅうと煙だけが残った。





体感としては1秒も経っていないのに周りの景色ががらっと変わったことにティルムは驚いたようでがしっと僕の胸にしがみ付き言葉もないようだ。
ふわっと貴族の女性が好む甘い果物をブレンドしたお茶の香りがした。ティルムが奴隷市場で最後に口にしたのがそれだったんだろう。

風がふわりとローブの裾を巻き上げる。その風に乗って7色の羽の美しい蝶が所狭しと咲き乱れる花畑に運ばれ、羽を休めたり蜜を吸ったりとつかの間の生を謳歌していた。



しばらく進むと花畑は途切れ今度は野菜の葉とも野草ともつかない緑の絨毯が広がっている。先ほどの花畑と比べると小さなものだがこちらは整備されて様々な種類のものが群生していた。
背の高いものの近くには支柱が立てられていて、その中の一株だけであっても成人男性が隠れられるほどに茂っている。それが群生しているのだからまるで小さな森のようだ。

そこを見つめているとひょいと大きめの影が出てきた。
それはヒトの姿に似てはいるが明らかに生き物ではない。どの種にもない鋼鉄の肌、まぶたが無く生気も感じられない瞳、胸元に打ちつけられたプレート。そして極めつけは腕の片方が移植ごてになっている。
ティルムはそれの姿を目に入れた途端伸びてしまったようだ。花畑と蝶を見ていた時は僕に悟られないように小さくではあるが笑っていたというのに。

まあ叫ばれて暴れられなかっただけでもいいとするか。
僕は姿を現したゴーレムにそのまま作業を続けるように指示すると館へと入っていった。





コツコツと音をさせて石畳の廊下を歩けば、気を失っているティルムの手足は力無くぷらぷらと揺れる。
目的地の部屋へあと数歩という所で扉が僕に反応して音も無く開く。こういう両手がふさがっている時にめんどくさくならないようにと設置した魔法は、実によく働いてくれているようだ。

ティルムを椅子に座らせるとミシと小さく軋んだ音をさせた。彼女が気絶をしてからそこまで時間は経っていないが、いつ目を覚ましてもいいように椅子に魔法をかけておく。これで準備完了だ。



「あぁティルム……早く君を研究したい……」

僕は幼児体型をしているティルムの、まだぽっこりと出ているお腹を撫でた。






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