デブ執事

saionji41

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第17話 真面目がゆえに

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メロスを無事に図書館へと連れ戻したセリヌンティウスは、ようやく本来の目的に戻ることが出来たと安堵した。
しかし、太宰治のエリアに行っても目的のものが見あたらない。
近くにある検索システムで調べてみると、3号棟から図書館に帰る間に誰かがオンラインで予約申請をしていたようだ。
まさかあの都市伝説を信じている人がまだいたのか。

セリヌンティウスは、ハッと我に返り周りを見渡す。
メロスがいない。
しまった。私としたことが目を離してしまった。
セリヌンティウスは立腹した。
注意を怠った自分自身に。

しかし、よく見ると近くにある自習スペースにメロスの姿があった。
誰かに話しかけているようだ。
彼は日比野忠臣。
所属は3組で違うクラスだが、同じ読書部の所属なのでメロスとは仲が良い。

とりあえず安心したセリヌンティウスは、2人のもとへと駆け寄る。
「メロス何話してたの?」
「メロス?」
しまった。この娘はメロスではない。琴音だ。

「...走れメロスはまた誰かに取られちゃってたみたい。日比野君と何話してたの?」
「そっかぁ、やっぱ人気なんだね。それより日比野君がすごいことやるみたいなんだよ!」
琴音はそう言うと、ねぇ~?と忠臣を見やる。

当の日比野忠臣は、何やら恐縮している。
話すことに躊躇している様子だが、二人のギリシャ人の視線に耐えかねたのか、言葉を選んでつらつらと語る。

「僕は1学期の成績が悪くて、来週1学期の内容のテストがあるんだ。そこで戌徳先生に相談したら、簡単に暗記ができる方法を教えてくれたんだ。」
「暗記ができる方法?」
希美はそんなノーベル賞ものの研究に興味を示すとともに、戌徳先生って何者?と疑問を抱いた。

日比野忠臣は続ける。
「ある特殊な素材で作られた粉を牛乳と卵で生地にして、そこに特殊な素材で作られたインクで暗記したい文字を印字して食べると暗記できるって言うんだ。」
「......。」
希美は初めて絶句を経験した。

特殊な素材って何?
その粉って合法なんだよね?
牛乳と卵って、そこは特殊じゃないんだ。
それってあの有名な食パンではなくて?

言葉は頭の中には次々と浮かぶが、発声されない。
「でもなんで図書館でやってるの?キッチンでやらないの?」
琴音は他に気になることがないかのようにそう尋ねる。
確かに、図書館でやる必要はないように感じる。
日比野忠臣は、自らもまだ腹に落ちていないのか自信なさげに答える。

「生地は完成されたものを戌徳に既にもらってるんだ。そして図書館でやっているのは、生地に印字する機械が図書館にしかないらしいんだ。」
そんなよく分からない生地に印刷するためだけの機械が何で図書館にあるんだ。
希美はここでもう思考を停止した。もう考えるのが無駄だ。

「それで、日比野君は今ノートを書いてるみたいだけど何をしているの?」
日比野忠臣は、手元にあるノートに目線を落とし気恥ずかしそうに答える。
「1学期の授業のノートを清書してるんだ。手書きで書いたものも機械が読み取ってくれるみたいで、せっかくならきちんとした情報を覚えたくて。」
希美はチラリとノートに目をやると、びっしりと文字が並んでいる分厚い冊子があった。
「すごい量ね。そんなに詰め込んで大丈夫なの?」
小食の希美にとっては、自分で暗記するよりも大変だと感じた。
日比野忠臣も察したのか少し表情が暗くなる。
「戌徳先生からは足りなくなったら追加するから言ってくれとは言われてるけど、やっぱりできるだけ抑えた方が良いよね。」

材料費のことを気にしているのか、日比野忠臣はノートを見て消しゴムで文字を消している。
違う。そうじゃない。
希美はまたも言葉を失った。
完全に食べることが意識から排除されている。

そもそも一度に食べないといけないのか、分けて食べても良いのか。
暗記の効果は永続的なのか、本来の記憶のように忘れたりもするのか。
よく分からないが、希美は記憶に関しては困っていないのでそっとしておくことに決めた。

琴音も興味がなくなったのか、入口近くのウォーターサーバーで水を飲んでいる。
すると、入り口から先ほど醜態を見せていた堂前紫苑が図書館に入ってきた。
司書の人にスマホの画面を見せながら話している。
司書の人が裏の方に行くと、紫苑も希美に気づいて先ほどの醜態がなかったように近づいてくる。

「やぁ砂糖元さん。さっきはどうも。」
こうもポジティブな態度をとれる紫苑に、希美は純粋に感心する。
「堂前君、図書館にはなんの用で来たの?」
彼もまた図書館ではあまり見かけないので、嫌な予感を抱きつつも尋ねる。

「いやね、もうすぐマラソン大会じゃないか?だからその前に走れメロスを読んでおこうかなってね。さっき予約しといたんだ。」
希美はまたも絶句した。
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