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第19話 走れメロス1
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「はぁはぁ、もう無理。もう走れない。」
まだ太陽が元気に空を游いでいる夏休み明け、秋冬桜児は来るマラソン大会に向けて校内を走っていた。
「おいおい、そんなんじゃ優勝どころか10位入賞も無理だぞ。」
桜児と一緒に走ってるこの男は、陸上部期待の新人梅村健司である。
健司は桜児に歩幅を合わせることもなく、さっさと先へ行ってしまう。
貂彩学園のマラソン大会は、毎年10月に行われる。10月は他にも文化祭や球技大会とイベントが多い。
10月31日が学園の創立記念日なので、10月は1年の中で一番盛り上がる。
マラソン大会も上位入賞すれば、インターネット通販サイトのKatoreaのギフト券がもらえる。
10位以内に入ると1万円のギフト券5枚、5位以内だと10枚、1位になると31枚のギフトカードがもらえる。
逆に規定のタイムを超えてゴールしてしまった人は学内清掃の罰ゲームがある。なお規定のタイムについては個々人で設定されており、入学の時にもあったプチマラソン大会のタイムが元に算出されている。
もちろんこのプチマラソン大会にも同じように豪華景品があったので、手を抜いて走った人はあまりいないだろう。
残された桜児は一緒に走っていた人がいなくなって気が抜けたのか、近くのベンチに座り込んでしまう。
「このままじゃダメだ。どうにかして1位にならないと。」
桜児の家庭は母子家庭で妹と弟もいる。
桜児自身は中学からの編入組で学費はかかっていないが、女手ひとつで幼い2人の子供を育てるには苦労している。
母親は仕事と子育てに追われ、好きだった服を買うことや旅行にも行けずに頑張っている。
そんな母親に子供たちのことを忘れて楽しんでもらいたい。
そのために桜児はなんとしても1位になりたかった。
でもこのまま走ってるだけで1位になれるのか?
この段階で健司にも追いつけないようでは厳しい。
健司も桜児と同じくらい、いやそれ以上に走っている。
何か良い方法はないか。そんなことを考えていると、1年1組の担任である丑嶋が通りがけに声をかけてきた。
「どうしたんだ、そんな深刻な顔をして。トイレならそこにあるぞ?」
「丑嶋先生、そんなんじゃありません。僕は朝に全部出す派なんです。」
そんなことは聞いてない、というジェスチャーをして丑嶋はおもむろにベンチの前の大木を見上げる。
「お前の考えてることは分かる。マラソン大会で良い成績を残したいんだろう?」
桜児はハッと顔を上げる。
「どうしてそれを?」
見上げていた目線を桜児に戻し、感慨にふけるように言葉を落とす。
「この時期の学生、特に新入生はお前みたいなやつがほとんどだからな。必死な顔して汗流してるやつは特に、な。」
そう言いながら、丑嶋は桜児の横に腰かける。
「お前が本気で良い結果を望んでるなら、良いことを教えてあげよう。太宰治は知ってるか?」
まだ太陽が元気に空を游いでいる夏休み明け、秋冬桜児は来るマラソン大会に向けて校内を走っていた。
「おいおい、そんなんじゃ優勝どころか10位入賞も無理だぞ。」
桜児と一緒に走ってるこの男は、陸上部期待の新人梅村健司である。
健司は桜児に歩幅を合わせることもなく、さっさと先へ行ってしまう。
貂彩学園のマラソン大会は、毎年10月に行われる。10月は他にも文化祭や球技大会とイベントが多い。
10月31日が学園の創立記念日なので、10月は1年の中で一番盛り上がる。
マラソン大会も上位入賞すれば、インターネット通販サイトのKatoreaのギフト券がもらえる。
10位以内に入ると1万円のギフト券5枚、5位以内だと10枚、1位になると31枚のギフトカードがもらえる。
逆に規定のタイムを超えてゴールしてしまった人は学内清掃の罰ゲームがある。なお規定のタイムについては個々人で設定されており、入学の時にもあったプチマラソン大会のタイムが元に算出されている。
もちろんこのプチマラソン大会にも同じように豪華景品があったので、手を抜いて走った人はあまりいないだろう。
残された桜児は一緒に走っていた人がいなくなって気が抜けたのか、近くのベンチに座り込んでしまう。
「このままじゃダメだ。どうにかして1位にならないと。」
桜児の家庭は母子家庭で妹と弟もいる。
桜児自身は中学からの編入組で学費はかかっていないが、女手ひとつで幼い2人の子供を育てるには苦労している。
母親は仕事と子育てに追われ、好きだった服を買うことや旅行にも行けずに頑張っている。
そんな母親に子供たちのことを忘れて楽しんでもらいたい。
そのために桜児はなんとしても1位になりたかった。
でもこのまま走ってるだけで1位になれるのか?
この段階で健司にも追いつけないようでは厳しい。
健司も桜児と同じくらい、いやそれ以上に走っている。
何か良い方法はないか。そんなことを考えていると、1年1組の担任である丑嶋が通りがけに声をかけてきた。
「どうしたんだ、そんな深刻な顔をして。トイレならそこにあるぞ?」
「丑嶋先生、そんなんじゃありません。僕は朝に全部出す派なんです。」
そんなことは聞いてない、というジェスチャーをして丑嶋はおもむろにベンチの前の大木を見上げる。
「お前の考えてることは分かる。マラソン大会で良い成績を残したいんだろう?」
桜児はハッと顔を上げる。
「どうしてそれを?」
見上げていた目線を桜児に戻し、感慨にふけるように言葉を落とす。
「この時期の学生、特に新入生はお前みたいなやつがほとんどだからな。必死な顔して汗流してるやつは特に、な。」
そう言いながら、丑嶋は桜児の横に腰かける。
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