かわりもの、こまりもの

メッティ / metty.all

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かわりもの

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 普段と同じことが続けば飽きが来る。
 けれどいざ、普段と違った事があると、それはそれで落ち着かない。
 我ながら勝手極まるなあ、なんて自分に呆れながらも下駄箱から下足を取り出し、脱いだ上履きを代わりにしまうと、正面玄関の先、空へと視線をゆったり送る。

 今日も、晴れ。
 思い返せばここ数日は晴れが続いている。
 いや別に、雨に降って欲しいとは思わないけれど。

 ただ。
 夕焼け空を見る度に、僕はなんだか、妙な気持ちになってしまうのだ――

「ん? どうしたんだ、そんなところでぼーっとして」
「べつに……何でもないよ。いつもと相変わらずに、僕は僕が変わり者だなあと思っていただけで」
「そうか? なら良いけど」

 ――そして仲の良いクラスメイトに心配されてしまった。
 いけない、いけない。

「ああ、いや。やっぱ良くねえな」

 僕が首を振っている様子を見て、けれど海翔かいとは憮然と言う。
 なにか僕に問題があるのだろうか?
 疑問を口で聞くよりも前に、けれど海翔は答えを言ってくれた。

「そこでぼーっとされてると、俺、靴を出せねえ」

 ……おっと。
 これは大変に申し訳のないことをしてしまっていた。

「ごめん」
「悪気が無かったなら、謝る必要はないさ」
「そう言ってくれると、僕としても幾分か心が軽くなる」

 僕がその場から退くと、待ってましたと言わんばかりに海翔は下駄箱から下足を取り出す――もしかしたらもうちょっと前から、僕が早く退かないかなあと待っていたのかも知れない。

「軽くなる……ねえ。里央りお、お前、何か悩み事でもしてるのか?」
「悩み事というほどでもないよ。ただ……そうだね、考え事はしていた」
「考え事も悩み事も、さほど違いがあるとは思えないけどな」

 どっちも頭を使うことだろう、海翔はそう言いながら靴を履き替え、僕がそうしたように、下駄箱に上履きをしまい込む。

「それで、何を考えてたんだ」
「気になるのかい?」
「少しな。お節介をしたいというより、単にお前が何を考えてぼーっとしてたのかに興味があるんだよ」
「そうかい」

 僕は大概変わり者だと呼ばれているし自覚もしている。
 けれどそんな僕に興味を持つだなんて、海翔も大概変わり者なのかも知れない――流石にそれは、里央に対して失礼か。

「あー。もちろん、隠しておきたいことなら無理にとは聞かねえけど。俺だって聞かれたくない事の一つや二つ、あるしな」
「そんな大それたことではないよ。僕は空を見ていたのさ」
「空?」
「そう、空だ。見ての通りの夕焼け空」

 晴れた空、浮かぶ雲。
 夕焼け色に染まった、空。

「僕はどうにも昔から、夕焼けというものが苦手でね」
「苦手……、えっと、だんだん暗くなるからか?」
「さあ。詳しいところは僕自身でさえ計りかねる。ただ、海翔の言ったことは、一つの要素かもしれないね――殆ど同じようなものなのに、朝焼けは好きなくらいだし」
「ふうん。それで?」
「今日の授業で『綺麗な夕焼け空』というワードが出ていたのは覚えているかい」
「あー……、英語の授業で出てきたな」

 海翔はそれである程度悟ってくれたようだけれど、一応、ここはしっかりと答えるのが礼儀だろう。
 僕はだから、言葉にして伝えることにした。

「僕は夕焼け空を綺麗だとは思えないから――それで、やっぱり他人ひととは感性が違うんだなあと、そう思っていたのさ」
「その程度なら、感性もなにもあったもんじゃねえと思うけどな」
「ふむ。根拠はあるかい?」
「犬が好きな奴がいれば猫が好きな奴も居る。けどさ、そもそも動物全部が苦手って奴だって居るだろ。里央の場合はたまたま『夕焼け空』が苦手だってだけ。そう考えれば普通の延長だろ」

 なるほどなあ、そう考えたことはなかった。

「俺から見る限り、里央はお前が思っている以上に『ふつう』だぜ。確かにちょっと変わり者で……平均からちょっとズレてる所はあるけれど、そんなの誰だって同じだよ。誰だってどこかで平均からズレる。里央の場合は、そのズレが目に見えやすいだけだ」
「……ひょっとして、海翔は僕を慰めてくれているのかい?」
「慰める? 違うな。どっちかというと、いさめるだ」

 諫める……かあ。

「何でもかんでも、自分が変わり者だからそうなんだ、なんて納得しないでいいんだよ。好きや嫌いを他人ひとに合わせないでいい。……なんて、俺が言われた事の受け売りだけどな」
「そんな事を海翔に言うだなんて、また妙な人も居たものだね。海翔はそれこそ、普通に近しいと思うのだけれど」
「目に見えるところは……な」

 下駄箱の戸を閉め、海翔は靴の爪先で地面を一度、二度と叩いた。
 そして、そんな様子を僕が見ていたことに気付いたのか、視線を僕に向けて、言った。

「気になるのか?」
「少しね」

 既視感に溢れる僕の答えに、海翔は笑い、僕も笑う。
 一緒に帰るか、そんな海翔のお誘いに僕は乗り、苦手な夕焼け空の下、会話を弾ませながらの下校路は、僕にとっては珍しく、なにより楽しい一時ひとときだった。
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