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第十話 憑依率の狂信者
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ツクモス学園塔百階層、食堂街内大衆食堂。
ほんの少し前まで、白亜の空間には殆ど人気が無かった。しかし、今は大勢の生徒達がひしめき合っている。大衆食堂大繁盛と錯覚しそうな状況だ。しかし、残念ながら殆どの者が客ではなかった。
只の野次馬である。
殆どの生徒達は注文もせず、食堂の白い壁沿いに身を寄せて、南窓のテーブルに視線を集中させていた。
そこには食事中と思しき中学生男子と、それを取り囲む白い制服の集団がいた。
野次馬達が見詰める中、テーブル席の男子生徒がポツリと声を漏らした。
「うわぁ、『フィアナ騎士団』か」
フィアナ騎士団。その正式名称を「ツクモス学園生徒会風紀員会」という。その名称が示す通り、生徒会傘下の役職だ。尤も、それは名目上の話。
学園内に於いて、フィアナ騎士団には生徒会どころか教職員達も気を遣うほどの権威が有った。少なくとも、生徒の中では最上位の存在と言える。そのような権威を得た理由は、その構成員達の出自に有った。
フィアナ騎士団の構成員は、フィアナ財団関係者の子息、或いは令嬢なのだ。
そもそも、ツクモス学園はフィアナ財団が所有する施設である。「財団関係者を特別扱いするな」という方が無理な話。学園生活を無事に過ごしたいのであれば、騎士団の機嫌を損ねることは避けたい。それが、学園塔で生活する者の不文律、共通認識だった。
ところが、ここに一人、騎士団に真っ向から挑む愚者がいた。
愚者の名は「名取燿平」と言う。
耀平は不機嫌そうな渋面で、ぶっきらぼうに言い放った。
「何か用でも?」
耀平は全く物怖じしていなかった。それどころか、その声音には「邪魔だ」と言わんばかりの敵意が籠っていた。
因みに、地球国に於ける第一言語(共通語)は英語である。ツクモス学園生同士の会話も、その殆どが英語だ。
(本編に於ける会話も、日本語で表記していても実際は英語で会話している『翻訳して表記いる』と、思ってください)。
耀平の質問に対して、殆どの騎士団は反応しなかった。ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべながら、ジッと耀平を見詰めていた。
しかし、たった一人反応した生徒がいた。
白い制服集団の中から、他より頭一つ分背の高い男子生徒が前に出た。
コーカソイドと思しき堀の深い顔立ち。炎のような赤毛を短く刈り込んでいる。中々のイケメンだ。しかし、その美貌は不機嫌そうに歪んでいた。その表情を見て、耀平の渋面が一層苦々しげに歪んだ。
俺に何か文句でも言う気なのか?
耀平は渋面を浮かべながら、内心で精神防御の構えを取った。
耀平が「心の壁」を構築していると、騎士団の背高男子が耀平の目の前に立った。
「「!」」
互いの視線が思い切りかち合った。その瞬間、二人の間で火花が散った。
きな臭い匂いが耀平の鼻を衝いた。その直後、背高男子の端正な口が開いた。
「お前に『団長』から話が有る」
団長。その言葉が出た途端、白い制服の集団が一斉に動いた。
生徒――いや、騎士達は左右に分かれて道を作っていた。そのど真ん中を、一人の男子生徒が悠々と歩いていた。
白金の髪をした美少年だ。見る者に女性と錯覚させるほど、中世的な容姿をしている。その美しさは、遠目からでも視認することができた。
「「「「「はぅ~~美し過ぎますぅ」」」」」
野次馬達から感嘆の溜息が漏れた。騎士団の中にも彼に見惚れる者がいた。しかし、何事にも例外は有る。
例外の名は「名取燿平」という。
耀平は全く見惚れていなかった。相手の顔を見た瞬間、目を逸らしたくなるほどの拒絶の感情を覚えている。それほどまでに見飽きた顔なのだ。
耀平は、白金髪の美少年の顔を見詰めながら相手の名前を告げた。
「『フィン』か」
フィン・マックール。それが男子生徒の名前だ。その「マックール」というファミリーネームは、ツクモス学園どころか世界的に特別な存在を意味している。
フィアナ財団を創った、フィアナ財団総帥(CEO)の家系である。
当代の財団CEOは「フィネガス・マックール」という五十代の男性だ。その長子がフィンなのだ。
フィンは耀平とは同い年。ツクモス学園中等部三年生。しかも、二人は幼少期からの顔見知り。互いにファーストネームで呼び合っている。その事実を鑑みれば、仲良しと思えなくもない。
ところが、耀平も、フィンも、互いを見詰める目は忌々しげに歪んでいた。それぞれが「二度と見たくない顔だ」と言いたげに。
しかし、フィンは耀平を睨み続けた。そのまま距離を詰めた。
途中、先に立っていた背高男子が横に退いた。彼に代わって、フィンが耀平の至近に立った。
堂々とした仁王立ち。フィンは、自分の威容(偉そうな態度)を耀平に見せ付けながら、不機嫌そうな声を上げた。
「耀平」
フィンの声は鉄をほ彷彿とするほど硬い。それを聞いた耀平の眉が一層歪んだ。
また、嫌なことを言ってくるんだろうな。
耀平の中の心の壁が厚みを増した。その直後、フィンの端正な口から学園行事に関する極秘情報が飛び出した
「お前――ツクモス学園中等部最強決定戦の選手に選ばれたそうだな」
「!?」
ツクモス最強戦出場。その情報を耀平が得たのは、昨日の放課後のこと。しかも、それを伝えた担任から「未だ誰にも言うな」と厳命されている。
だからこそ、耀平は誰にも伝えていなかった。それなのに、フィンも知っていた。
駄々漏れじゃないか。
父・耀児、雨淋に続いてフィンまで。そして今、フィンの口から他の生徒達にまで知られてしまった。その事実を直感した瞬間、耀平は右手を掲げて、それを額に当てた。続け様に、親指と人差し指で両蟀谷を抑えた。
これ、俺が怒られるんじゃないの?
情報漏洩。最悪の現実を目の当たりにして、耀平の口から溜息が漏れた。しかし、耀平の不幸には続きが有った。
耀平が溜息を吐いた直後、耀平の耳にフィンの声が飛び込んできた。
「耀平」
フィンは、再び燿平の名前を呼んだ。耀平は無視した。いや、無視しようとした。
ところが、続け様にフィンが告げた言葉は、耀平には「絶対に無視できないもの」だった。
「辞退しろ」
「はあっ!?」
辞退。その言葉を聞いた瞬間、耀平は大声を上げていた。その際、耀平はポカンと口を開けて、呆れ顔になっていた。
何を言っているんだ? こいつは。
ツクモス学園生であれば、誰もが最強戦出場を望む。誰もが優勝を目指す。当然、耀平もそのつもりだ。辞退するなど、絶対にあり得ない。それは、学園生なら誰もが理解、確信、執着している。
耀平の前に立つ白金髪の美少年も、立場が立場だけに、人一倍執着している。それなのに、
「辞退しろ」
フィンは重ねて無体な要求した。それを聞いて、耀平の顔が呆れから、怒りへと変化した。その表情通りの言葉が、耀平の口を衝いて出た。
「嫌だ」
耀平は拒否した。当然だ。何を言ったところで受け入れることは無い。そんなことは、この場の誰もが理解していた。
それでも、フィンは引かなかった。
「お前が出ても時間の無駄になるだけだ」
「何だと?」
時間の無駄。その言葉は耀平の地雷を踏み抜いた。逆鱗にも触れた。喧嘩を売っているとしか思えなかった。
そもそも、最強戦の出場は個々の成績で決まる。耀平は上位十六名に入る好成績だったのだ。だからこそ選ばれたのだ。それが学園の決定だ。それを覆す権利は、本人以外の生徒には無い。それでも、
「辞退しろ」
フィンは重ねて要求した。何故なのか?
フィンはフィアナ騎士団の団長、即ちツクモス学園風紀委員長だ。規則を守らせる側の人間なのだ。
しかし、フィンは、耀平に校則を破らせようとしている。その矛盾を目の当たりにして、野次馬達も首も傾げていた。
しかし、同じ風紀委員、フィアナ騎士団の面々は「当然の要求」と、何度も大きく頷いていた。
騎士団の自信の根拠は何なのか? それが、フィンの口から飛び出した。
「お前のツクモス――『ムラマサ』と言ったか?
ムラマサ。それをフィンが告げた瞬間、野次馬達の傾いでいた首が正位置に戻った。そのタイミングで、フィンの口からトドメの言葉が放たれた。
「あんな『最旧式』の骨董品で、最新鋭機に勝てる訳が無い」
最旧式。そう、ムラマサは名取耀蔵が開発した最初の軍用ツクモス。唯一の第一世代型だ。
現在、軍用ツクモスは第三世代型まで進化している。しかも、耀平専用の特別な情報筋(雨淋)によると、第三を超える第四世代型が絶賛開発中なのだ。
機械であれば「より新しいものの方が性能は上」という事実は否みようがない。兵器となれば尚更だ。
学園の成績上位者の愛機は第三世代型ばかり。当然ながら、最強戦に選抜された生徒の愛機も、その殆どが三世代型だ。タイトルホルダーの雨淋も、昨年の最強戦参加時は第三世代型だった。
近年に於いて例外は名取燿平、唯一人。そういう意味では「特別」と言えなくもないだろう。耀平自身もムラマサに対する思い入れが強い。
尤も、耀平がムラマサを選ぶ理由は、思い入れだけではなかった。耀平には「ムラマサを選ばざるを得ない事情」が有った。それは――
「耀平、お前の『憑依率』は余りに低い」
憑依率。それはツクモスに搭載されている脳波操縦装置ヴェイクスを起動、運用する為に必要な能力値だ。
憑依率が高ければ高いほど、操縦系に於ける脳波コントロールの割合を増やすことができる。極端な表現をすれば、「憑依率百パーセントの人間ならば『考えるだけ』でツクモスを思い通りに操縦できる」ということになる。しかしながら、それを可能にする者は、人類種の中には殆どいなかった。
人間の憑依率は、脳の構造上五十パーセントが限度。
そもそも、人間は体を使って物を動かす生き物なのだ。何千年も体を動かしてきた生き物が、その能力を捨てて脳波だけに依存することは難しい。遺伝子が体を動かすことを前提に組成されている。
憑依率もまた、遺伝子由来の才能だ。その値は生まれたときに決まる。後天的に鍛えることは不可能。その事実は「ツクモスの生みの親」も心得ていた。
名取耀蔵が開発したツクモスは、全て憑依率五十パーセントに設定されている。耀蔵亡き後も、その規定は継続されていた。
しかし、例外が有った。
軍用ツクモス。
地球軍の首脳の意向で、軍用ツクモスは脳波操縦偏重で開発されることになった。彼らの期待に、耀平の父、名取耀児は全力で応えた。
結果、第三世代型の憑依率は七十パーセント。その憑依率の高さ故、一般人では運用どころか起動すらできない。
要するに、「乗り手を選ぶ」という訳だ。量産化は難しい。前時代であれば兵器として失格の烙印を押されたところだ。
しかし、第三世代型の戦闘能力は破格だった。ムラマサを含めた旧型を圧倒した。その成果は、地球軍首脳を大いに満足させた。
しかし、これで終わりではなかった。
名取耀児は「完全脳波操縦」を目指していた。それを叶えるツクモスが、現在開発中の第四世代型。それを叶える適格者は、今のところ劉雨淋、唯一人。その為、彼女は毎日のように耀児の許を訪れて、第四世代型の開発に協力する羽目になっている。
耀平も、雨淋も、それぞれが持って生まれた宿命に殉じている。それはフィンも同じ。
「耀平、お前は機体を変えることができない。だから――」
フィンは四度目の無体な要求をした。
「辞退しろ」
フィンの態度は一層威圧的になっていた。その声音の硬度も増していた。聞く者にダイヤモンドを想像させるほど。その一字一句が、聞く者の鼓膜を削る。とても痛い。至近で聞けば尚更だ。
しかし、耀平の決意はダイヤモンドより硬かった。
「断る」
耀平はフィンを睨み返した。その視線は余りにきつく、見る者に殺意を覚えさせた。それに中てられて、フィアナ騎士団が一斉に身構えた。中には耀平に飛び掛かろうとしている者もいた。その気配は、耀平だけでなく、フィンにも伝わっていた。
耀平の腰が椅子から浮いた。それと同時に、フィンが右手を上げた。それぞれの行為は、騎士達の視界に映っていた。
フィアナ騎士団の面々は、構えを解いて直立した。すると、フィンは右手を下ろした。その行為は「終了」を意味していた。
「そこまで言うならば、もう知らん。余り無様を晒さないよう――負けておけ」
フィンの言葉は、耀平の耳と心にベッタリこびり付いた。
まるで呪っているみたいだな。
耀平は強い嫌悪感を覚えた。こびり付いた言葉を拭い掃おうと、強気の言葉を告げた。
「誰が負けるか」
耀平は、一層強い視線でフィンを睨んだ。フィンも、一層忌々しげに顔を歪めて、耀平を睨み返した。
二人の間で火花が散った。きな臭い匂いが耀平の鼻を衝いた。
二人は暫く睨み合っていた。先に視線を外したのは――フィンだった。
「ふんっ」
フィンは鼻を鳴らして踵を返した。それを合図に、彼の周りにいた騎士達も一斉に踵を返した。彼らは態と足音を立てながら、大衆食堂から退出した。
フィアナ騎士団去りし後、居合わせた野次馬達が騒めき出した。その中に、耀平のことを口汚く罵る声も混じっていた。それは、耀平の耳にも入っていた。
腹が立った。しかし、反応はしなかった。
まあ、いつものことだ。
耀平は「はぁ」と一息吐いた。続け様に立ち上がって、空のトレイを一番窓口まで運んだ。
ほんの少し前まで、耀平は二膳目に挑むつもりだった。ところが、
「ご馳走様」
今の耀平の食欲は皆無。窓口にトレイを入れた後、そのまま大衆食堂を後にした。
ほんの少し前まで、白亜の空間には殆ど人気が無かった。しかし、今は大勢の生徒達がひしめき合っている。大衆食堂大繁盛と錯覚しそうな状況だ。しかし、残念ながら殆どの者が客ではなかった。
只の野次馬である。
殆どの生徒達は注文もせず、食堂の白い壁沿いに身を寄せて、南窓のテーブルに視線を集中させていた。
そこには食事中と思しき中学生男子と、それを取り囲む白い制服の集団がいた。
野次馬達が見詰める中、テーブル席の男子生徒がポツリと声を漏らした。
「うわぁ、『フィアナ騎士団』か」
フィアナ騎士団。その正式名称を「ツクモス学園生徒会風紀員会」という。その名称が示す通り、生徒会傘下の役職だ。尤も、それは名目上の話。
学園内に於いて、フィアナ騎士団には生徒会どころか教職員達も気を遣うほどの権威が有った。少なくとも、生徒の中では最上位の存在と言える。そのような権威を得た理由は、その構成員達の出自に有った。
フィアナ騎士団の構成員は、フィアナ財団関係者の子息、或いは令嬢なのだ。
そもそも、ツクモス学園はフィアナ財団が所有する施設である。「財団関係者を特別扱いするな」という方が無理な話。学園生活を無事に過ごしたいのであれば、騎士団の機嫌を損ねることは避けたい。それが、学園塔で生活する者の不文律、共通認識だった。
ところが、ここに一人、騎士団に真っ向から挑む愚者がいた。
愚者の名は「名取燿平」と言う。
耀平は不機嫌そうな渋面で、ぶっきらぼうに言い放った。
「何か用でも?」
耀平は全く物怖じしていなかった。それどころか、その声音には「邪魔だ」と言わんばかりの敵意が籠っていた。
因みに、地球国に於ける第一言語(共通語)は英語である。ツクモス学園生同士の会話も、その殆どが英語だ。
(本編に於ける会話も、日本語で表記していても実際は英語で会話している『翻訳して表記いる』と、思ってください)。
耀平の質問に対して、殆どの騎士団は反応しなかった。ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべながら、ジッと耀平を見詰めていた。
しかし、たった一人反応した生徒がいた。
白い制服集団の中から、他より頭一つ分背の高い男子生徒が前に出た。
コーカソイドと思しき堀の深い顔立ち。炎のような赤毛を短く刈り込んでいる。中々のイケメンだ。しかし、その美貌は不機嫌そうに歪んでいた。その表情を見て、耀平の渋面が一層苦々しげに歪んだ。
俺に何か文句でも言う気なのか?
耀平は渋面を浮かべながら、内心で精神防御の構えを取った。
耀平が「心の壁」を構築していると、騎士団の背高男子が耀平の目の前に立った。
「「!」」
互いの視線が思い切りかち合った。その瞬間、二人の間で火花が散った。
きな臭い匂いが耀平の鼻を衝いた。その直後、背高男子の端正な口が開いた。
「お前に『団長』から話が有る」
団長。その言葉が出た途端、白い制服の集団が一斉に動いた。
生徒――いや、騎士達は左右に分かれて道を作っていた。そのど真ん中を、一人の男子生徒が悠々と歩いていた。
白金の髪をした美少年だ。見る者に女性と錯覚させるほど、中世的な容姿をしている。その美しさは、遠目からでも視認することができた。
「「「「「はぅ~~美し過ぎますぅ」」」」」
野次馬達から感嘆の溜息が漏れた。騎士団の中にも彼に見惚れる者がいた。しかし、何事にも例外は有る。
例外の名は「名取燿平」という。
耀平は全く見惚れていなかった。相手の顔を見た瞬間、目を逸らしたくなるほどの拒絶の感情を覚えている。それほどまでに見飽きた顔なのだ。
耀平は、白金髪の美少年の顔を見詰めながら相手の名前を告げた。
「『フィン』か」
フィン・マックール。それが男子生徒の名前だ。その「マックール」というファミリーネームは、ツクモス学園どころか世界的に特別な存在を意味している。
フィアナ財団を創った、フィアナ財団総帥(CEO)の家系である。
当代の財団CEOは「フィネガス・マックール」という五十代の男性だ。その長子がフィンなのだ。
フィンは耀平とは同い年。ツクモス学園中等部三年生。しかも、二人は幼少期からの顔見知り。互いにファーストネームで呼び合っている。その事実を鑑みれば、仲良しと思えなくもない。
ところが、耀平も、フィンも、互いを見詰める目は忌々しげに歪んでいた。それぞれが「二度と見たくない顔だ」と言いたげに。
しかし、フィンは耀平を睨み続けた。そのまま距離を詰めた。
途中、先に立っていた背高男子が横に退いた。彼に代わって、フィンが耀平の至近に立った。
堂々とした仁王立ち。フィンは、自分の威容(偉そうな態度)を耀平に見せ付けながら、不機嫌そうな声を上げた。
「耀平」
フィンの声は鉄をほ彷彿とするほど硬い。それを聞いた耀平の眉が一層歪んだ。
また、嫌なことを言ってくるんだろうな。
耀平の中の心の壁が厚みを増した。その直後、フィンの端正な口から学園行事に関する極秘情報が飛び出した
「お前――ツクモス学園中等部最強決定戦の選手に選ばれたそうだな」
「!?」
ツクモス最強戦出場。その情報を耀平が得たのは、昨日の放課後のこと。しかも、それを伝えた担任から「未だ誰にも言うな」と厳命されている。
だからこそ、耀平は誰にも伝えていなかった。それなのに、フィンも知っていた。
駄々漏れじゃないか。
父・耀児、雨淋に続いてフィンまで。そして今、フィンの口から他の生徒達にまで知られてしまった。その事実を直感した瞬間、耀平は右手を掲げて、それを額に当てた。続け様に、親指と人差し指で両蟀谷を抑えた。
これ、俺が怒られるんじゃないの?
情報漏洩。最悪の現実を目の当たりにして、耀平の口から溜息が漏れた。しかし、耀平の不幸には続きが有った。
耀平が溜息を吐いた直後、耀平の耳にフィンの声が飛び込んできた。
「耀平」
フィンは、再び燿平の名前を呼んだ。耀平は無視した。いや、無視しようとした。
ところが、続け様にフィンが告げた言葉は、耀平には「絶対に無視できないもの」だった。
「辞退しろ」
「はあっ!?」
辞退。その言葉を聞いた瞬間、耀平は大声を上げていた。その際、耀平はポカンと口を開けて、呆れ顔になっていた。
何を言っているんだ? こいつは。
ツクモス学園生であれば、誰もが最強戦出場を望む。誰もが優勝を目指す。当然、耀平もそのつもりだ。辞退するなど、絶対にあり得ない。それは、学園生なら誰もが理解、確信、執着している。
耀平の前に立つ白金髪の美少年も、立場が立場だけに、人一倍執着している。それなのに、
「辞退しろ」
フィンは重ねて無体な要求した。それを聞いて、耀平の顔が呆れから、怒りへと変化した。その表情通りの言葉が、耀平の口を衝いて出た。
「嫌だ」
耀平は拒否した。当然だ。何を言ったところで受け入れることは無い。そんなことは、この場の誰もが理解していた。
それでも、フィンは引かなかった。
「お前が出ても時間の無駄になるだけだ」
「何だと?」
時間の無駄。その言葉は耀平の地雷を踏み抜いた。逆鱗にも触れた。喧嘩を売っているとしか思えなかった。
そもそも、最強戦の出場は個々の成績で決まる。耀平は上位十六名に入る好成績だったのだ。だからこそ選ばれたのだ。それが学園の決定だ。それを覆す権利は、本人以外の生徒には無い。それでも、
「辞退しろ」
フィンは重ねて要求した。何故なのか?
フィンはフィアナ騎士団の団長、即ちツクモス学園風紀委員長だ。規則を守らせる側の人間なのだ。
しかし、フィンは、耀平に校則を破らせようとしている。その矛盾を目の当たりにして、野次馬達も首も傾げていた。
しかし、同じ風紀委員、フィアナ騎士団の面々は「当然の要求」と、何度も大きく頷いていた。
騎士団の自信の根拠は何なのか? それが、フィンの口から飛び出した。
「お前のツクモス――『ムラマサ』と言ったか?
ムラマサ。それをフィンが告げた瞬間、野次馬達の傾いでいた首が正位置に戻った。そのタイミングで、フィンの口からトドメの言葉が放たれた。
「あんな『最旧式』の骨董品で、最新鋭機に勝てる訳が無い」
最旧式。そう、ムラマサは名取耀蔵が開発した最初の軍用ツクモス。唯一の第一世代型だ。
現在、軍用ツクモスは第三世代型まで進化している。しかも、耀平専用の特別な情報筋(雨淋)によると、第三を超える第四世代型が絶賛開発中なのだ。
機械であれば「より新しいものの方が性能は上」という事実は否みようがない。兵器となれば尚更だ。
学園の成績上位者の愛機は第三世代型ばかり。当然ながら、最強戦に選抜された生徒の愛機も、その殆どが三世代型だ。タイトルホルダーの雨淋も、昨年の最強戦参加時は第三世代型だった。
近年に於いて例外は名取燿平、唯一人。そういう意味では「特別」と言えなくもないだろう。耀平自身もムラマサに対する思い入れが強い。
尤も、耀平がムラマサを選ぶ理由は、思い入れだけではなかった。耀平には「ムラマサを選ばざるを得ない事情」が有った。それは――
「耀平、お前の『憑依率』は余りに低い」
憑依率。それはツクモスに搭載されている脳波操縦装置ヴェイクスを起動、運用する為に必要な能力値だ。
憑依率が高ければ高いほど、操縦系に於ける脳波コントロールの割合を増やすことができる。極端な表現をすれば、「憑依率百パーセントの人間ならば『考えるだけ』でツクモスを思い通りに操縦できる」ということになる。しかしながら、それを可能にする者は、人類種の中には殆どいなかった。
人間の憑依率は、脳の構造上五十パーセントが限度。
そもそも、人間は体を使って物を動かす生き物なのだ。何千年も体を動かしてきた生き物が、その能力を捨てて脳波だけに依存することは難しい。遺伝子が体を動かすことを前提に組成されている。
憑依率もまた、遺伝子由来の才能だ。その値は生まれたときに決まる。後天的に鍛えることは不可能。その事実は「ツクモスの生みの親」も心得ていた。
名取耀蔵が開発したツクモスは、全て憑依率五十パーセントに設定されている。耀蔵亡き後も、その規定は継続されていた。
しかし、例外が有った。
軍用ツクモス。
地球軍の首脳の意向で、軍用ツクモスは脳波操縦偏重で開発されることになった。彼らの期待に、耀平の父、名取耀児は全力で応えた。
結果、第三世代型の憑依率は七十パーセント。その憑依率の高さ故、一般人では運用どころか起動すらできない。
要するに、「乗り手を選ぶ」という訳だ。量産化は難しい。前時代であれば兵器として失格の烙印を押されたところだ。
しかし、第三世代型の戦闘能力は破格だった。ムラマサを含めた旧型を圧倒した。その成果は、地球軍首脳を大いに満足させた。
しかし、これで終わりではなかった。
名取耀児は「完全脳波操縦」を目指していた。それを叶えるツクモスが、現在開発中の第四世代型。それを叶える適格者は、今のところ劉雨淋、唯一人。その為、彼女は毎日のように耀児の許を訪れて、第四世代型の開発に協力する羽目になっている。
耀平も、雨淋も、それぞれが持って生まれた宿命に殉じている。それはフィンも同じ。
「耀平、お前は機体を変えることができない。だから――」
フィンは四度目の無体な要求をした。
「辞退しろ」
フィンの態度は一層威圧的になっていた。その声音の硬度も増していた。聞く者にダイヤモンドを想像させるほど。その一字一句が、聞く者の鼓膜を削る。とても痛い。至近で聞けば尚更だ。
しかし、耀平の決意はダイヤモンドより硬かった。
「断る」
耀平はフィンを睨み返した。その視線は余りにきつく、見る者に殺意を覚えさせた。それに中てられて、フィアナ騎士団が一斉に身構えた。中には耀平に飛び掛かろうとしている者もいた。その気配は、耀平だけでなく、フィンにも伝わっていた。
耀平の腰が椅子から浮いた。それと同時に、フィンが右手を上げた。それぞれの行為は、騎士達の視界に映っていた。
フィアナ騎士団の面々は、構えを解いて直立した。すると、フィンは右手を下ろした。その行為は「終了」を意味していた。
「そこまで言うならば、もう知らん。余り無様を晒さないよう――負けておけ」
フィンの言葉は、耀平の耳と心にベッタリこびり付いた。
まるで呪っているみたいだな。
耀平は強い嫌悪感を覚えた。こびり付いた言葉を拭い掃おうと、強気の言葉を告げた。
「誰が負けるか」
耀平は、一層強い視線でフィンを睨んだ。フィンも、一層忌々しげに顔を歪めて、耀平を睨み返した。
二人の間で火花が散った。きな臭い匂いが耀平の鼻を衝いた。
二人は暫く睨み合っていた。先に視線を外したのは――フィンだった。
「ふんっ」
フィンは鼻を鳴らして踵を返した。それを合図に、彼の周りにいた騎士達も一斉に踵を返した。彼らは態と足音を立てながら、大衆食堂から退出した。
フィアナ騎士団去りし後、居合わせた野次馬達が騒めき出した。その中に、耀平のことを口汚く罵る声も混じっていた。それは、耀平の耳にも入っていた。
腹が立った。しかし、反応はしなかった。
まあ、いつものことだ。
耀平は「はぁ」と一息吐いた。続け様に立ち上がって、空のトレイを一番窓口まで運んだ。
ほんの少し前まで、耀平は二膳目に挑むつもりだった。ところが、
「ご馳走様」
今の耀平の食欲は皆無。窓口にトレイを入れた後、そのまま大衆食堂を後にした。
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