有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

文字の大きさ
12 / 69

第十一話 Mクラス

しおりを挟む
 耀平ヨウヘイは朝食を終えるや否や、直ぐに大衆食堂を後にした。

 ああ、最悪な目に遭った。

 食堂街に軒を連ねる世界中の名店(支店)の窓に映る耀平の顔は、思い切り振きげんに歪んでいた。
 耀平は仏頂面のまま、来た道を辿りって学園塔中央エレベーターに乗り込んだ。その際、機械音声に移動先を尋ねられた。その質問に、耀平は即答した。

「J3の――『Mクラス』階」

 Mクラス。それは俗称だ。正確には「中量級ツクモス操縦者育成教室」である。尤も、「中量級」という分類は後付けのものだ。

 中量級に該当する機体は、第一世代型と第二世代型だけ。要するに、第三世代型より前の機体である。嫌味な言い方をすれば「旧式」だ。

 旧式であるが故に、中量級ツクモスの憑依率は一般の基準と殆ど同じだ。当然ながら適格者も多い。ツクモス学園党内では最大規模と言える。
 各学年の平均的な教室数は十五個ほど。中等部三年生の場合も同様だ。

 因みに第三世代型の教室数は、Lクラス(軽量級)、Hクラス(重量級)共に五個程度。
 中等部三年生は最多で、Lクラスは六組。Hクラスは七組である。

 Mと他クラスとでは、教室数が倍以上も違う。それでも、宛がわれた階層は、他のクラス同様一つずつ。その事実は、Mクラスに所属する生徒の心に暗い影を落としていた。

 俺達は、期待されていないんだろうな。

 第三世代型が主力となって以降、旧式の肩身は狭まるばかり。中でも最も窮屈な想いをしている生徒が耀平だった。

 上昇するエレベーターの中で、耀平は虚空を見詰めながら「大衆食堂の出来事」を想起していた。

 皆が拘る「憑依率ピーアール」って――そんなに大事なものか?

 憑依率。脳波操縦装置ヴェイクスを起動、運用する為に必要な才能。Mクラスに所属する生徒は、逆立ちしても第三世代型は扱えない。機体の性能差は、そのまま成績に反映される。
 しかし、そのハンデを克服した実例が一人いた。

 俺の操縦技術は、脳波操縦を超えているって思うんだけど。
 
 耀平は上位十六名に食い込むことができた。そこまで粘れる胆力が、耀平には有った。それを強力に支えている言葉が、耀平の口から零れ出た。

「ムラマサを大事にしていれば――俺にも聞こえるよね? 耀蔵爺ちゃんが教えてくれた『ツクモスの声』が」

 ツクモスの声。それは、今は亡き曾祖父の遺言である。その言葉を告げた際、耀平は「肩から下げた学生鞄」を見た。まるで「そこに曾祖父がいる」といように、優しい眼差しで見詰めていた。すると、不思議なことが起こった。
 耀平の視線の先で学生鞄が僅かに震えていた。その反応は、視覚だけでなく、触覚を伴って、耀平に伝わっていた。
 耀平の顔に、満面の笑みが浮かんだ。

耀蔵ヨウゾウ爺ちゃん――」

 耀平は曾祖父の名前を告げた。そのタイミングで、正面の壁に筋が奔った。それと同時に、エレベーター内に機械音声が響き渡った。

「七十階、中量級ツクモス操縦者育成教室区画に到着しました」

 到着と同時に、耀平の目の前の壁に出口が現れた。それを直感した瞬間、耀平は外へと飛び出していた。

 ここから先は――戦場かな。

 耀平は緩んだ顔を引き締めて、光る通路の中を突き進んだ。

 Mクラスの通路は、中央エレベーターホールを起点に、東西南北「十字」に伸びている。その大道の途中には、幾つかの隘路が有った。それらは様々な教室に繋がっている。
 しかし、耀平は隘路には入らなかった。

 耀平は北側に伸びる大道を突き進んだ。その途中でピタリと止まり、続け様に踵を返して東側の壁の方を向いた。
 すると、耀平と向かい合う壁に、大きく「M1」という文字が浮かび上がった。

 M1。その名の通り、中量級のトップクラスである。耀平が「M1」の表示の前に立っていると、天井から機械音声が降ってきた。

「学籍番号と名前をお答えください」
「J3M108、名取燿平」

 耀平が答えると、正面の壁に筋が奔った。それ目を起点に、「M1」と書かれた壁が静かにスライドした。その事実を直感するや否や、耀平は長方形型の穴を潜って中に入った。
 すると、耀平の視界に、淡い光を放つ白い空間が飛び込んできた。

 白亜の長方形。その箱(教室)の中は、最大五十人の生徒を収容できる。しかし、その広さに比して、生徒の数は余りに少なかった。
 中にいる生徒は、耀平を除いて七名。彼らは全員、最前列の席に着いている。後ろはガラ空きだ。

 始業開始まで、後三分を切った。しかし、教室の空きスペースは埋まらない。他の生徒がやってくる気配も無い。
 耀平が最後だった。そう、M1の生徒は全部で八名しかいない。

 因みに、出席番号はファーストネームの頭文字順である。耀平は「Y」なので、最後になっていた。

 五十人が入る教室に、たった八人。当然のように席は余る。どこでも好きな席を選びたい放題だ。
 しかしながら、ここはトップクラス。生徒は皆、学習意欲が高い。希望する席となれば「最前列」一択だ。
 だからこそ、我先にと最前列を埋める。耀平は「大衆食堂の出来事」が有った為、出遅れてしまった。

 後ろに座るしかないか。

 耀平は二列目、真ん中の席に座った。すると、前の生徒が振り向いた。
 黒い髪、コーカソイドと思しき目鼻立ちのハッキリした、中々の美少年だ。彼は耀平を見詰めながら、口を開いて声を上げた。

「ナマステ」

 ヒンドゥー語の挨拶だ。それに対して、耀平も「ナマステ」と返した。
 挨拶は大事。トップクラスの生徒は礼儀も弁えている。しかし、今は始業前。互いに交わす言葉は挨拶だけだ。

 挨拶した生徒は、直ぐに前を向いた。耀平も教壇に視線を向けた。この場にいる生徒全員が、地球軍ツクモス部隊への配属を諦めていなかった。

 例え中等部で叶わずとも、未だ先(高等部)が有る。

 耀平を含めた全生徒の体から、可視化できるほどのヤル気の炎が吹き上がっていた。それが天井に届いたところで、始業を知らせるチャイムの音が鳴り響いた。

 さあ、戦闘開始。

 全生徒の目が血走った。それこそ、敵を前にした狂戦士と錯覚するほど、真剣に、必死に、殺意を漲らせながら授業に挑むのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...