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第十三話 仮想訓練室
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「それじゃ――失礼します」
耀平が職員室を辞した際、居合わせた教職員達は、誰も耀平を見ていなかった。
ところが、出入り口が閉まった瞬間、全員一斉に立ち上げって――
「「「「「頑張れっ!!!」」」」」
耀平に向かって激励の言葉を叫んだ。その際、全員、天井に向かって右拳を突き上げていた。その様子は、残念ながら耀平には感知できなかった。教職員達の想いも、全く届いていない。
しかしながら、耀平は満面の笑みを浮かべていた。足取りも弾んで――スキップしていた。
ああ、早く仮想訓練をしたい。ムラマサに乗りたい。
耀平はスキップしながら光る通路を潜り抜け、そのまま中央エレベーターに飛び乗った。その際、機械音声に行き先を尋ねられ、耀平は即答した。
「仮想訓練階」
耀平の声は弾んでいた。活舌も良かった。百メートル先でも一字一句違わず聞き取れるほどに。
ところが、エレベーターからの反応は無かった。
あれ?
耀平は首をかしげた。脳内には故障の可能性さえ閃いていた。もう一度、言ってみようか――と口を開いた。
その瞬間、聞き慣れた機械音声が響き渡った。
「学籍番号と氏名をお答えください」
耀平にとって、既視感を覚える質問だ。何しろ本日三度目。その事実を直感して、耀平は苦笑しながら回答した。
「J3M108、名取耀平」
「確認しました」
耀平が答えると、機械音声が即応した。その直後、エレベーターが上昇した。その狭い個室の中で、耀平は小躍りしていた。
「早く、早く、早く――」
耀平は逸る気持に、エレベーターは全力で応えた。
耀平の踊りが佳境に差し掛かる前にエレベーターは停止した。それと同時に出入り口が静かに開いた。
着いたっ!!
耀平はエレベーターから飛び降りた。すると、耀平の視界に円筒形のホールが飛び込んできた。その光景は、耀平に既視感を覚えさせた。
エレベーターホールを起点として、東西南北の方向に大道が伸びている。主要通路が十字型なのは教室階層と同じだ。
しかし、全く同じという訳ではなかった。
ここには脇道が無いんだったな。
耀平は素早く視線を巡らせて、東西南北に開いた全ての通路を確認した。そこに人影は――全く無かった。
俺が一番乗りかな?
耀平の口許が吊り上がった。しかし、耀平の眉根は歪んでいる。耀平は――苦笑していた。
まあ、その方が良いか。
このとき、耀平の脳内に「今朝の大衆食堂の出来事」が閃いていた。耀平としては、二度と体験したくない。
耀平は「誰かが来る前に――」と、足早に移動した。その際、耀平は南通路を通った。
仮想訓練階層は、縦横に貫く主要道そのままに、四つの仮想訓練室で構成されている。それらは軍用ツクモスの分類(軽量級、中量級、重量級)毎に編成されている。
それぞれの位置を方位で表すと、軽量級は北西、中量級は南東、重量級は北東となる。
耀平が駆る軍用ツクモス、NTM01ムラマサは、分類上は中量級だ。その事実を鑑みれば、南東に向かうべきところ。
だからこそ、耀平は南側通路を歩いている。しかし、耀平が目指す場所は中量級の訓練室ではなかった。
耀平は南西へ、どの分類にも属さない訓練室へと向かっていた。
その部屋は、名目上は予備となっている。しかし、その実態は物置。最初期に設置されていた旧式ばかりを押し込めている。
全校生徒数凡そ一千人を誇るツクモス学園でも、そんな場所に用が有るという生徒は燿平唯一人。その事実を鑑みるほどに、耀平の喉下まで溜息が込み上げた。しかし、耀平の顔には未だ笑みが残っていた。
仮想訓練室が、丸々俺の個室だもんな。誰にも邪魔されずに済む。
耀平はスキップしながら廊下の最南端までやってきた。そこから西を向いて、円周沿いの通路を歩いた。
暫く進んだところで、耀平の脚がピタリと止まった。続け様に踵を支点に九十度回転して、円心側を向いた。
そこには白い壁が有った。他に何も無い。
ここ――だな。うん、確かここ。
耀平は、立ち止まったまま壁を見詰めていた。
確信は有った。仮想訓練室は、授業で何度か使用している。尤も、それは年に二回だけ。しかも、引率の先生付き。一人で来たのは、実は今日が初めてだった。
このまま待っていれば、良いのかな?
耀平は待った。そのままの状態が三分程続いた。長い。流石の耀平も「自分の勘違い」を想像し始めていた。
その最中、唐突に壁から声が上がった。
「学籍番号と名前をお答えください」
「J3M108。名取燿平」
壁越しの機械音声。その質問に、耀平は即答した。すると、耀平の目の前の壁に筋が入った。
ツクモス学園塔名物、隠し扉。それが開くや否や、耀平は躊躇うこと無く中に足を踏み入れた。
扉の奥は真っ暗だった。それでも、耀平は暗闇の中に全身を押し込めた。
その直後、耀平が入ってきた扉が閉まった。それと同時に、部屋全体が「パッ」と光った。
眩し――くないな。
目に優しい柔らかな光。それが、内部の様子をクッキリ浮き上がらせた。そこは、白亜の広間だった。
その大きさは、ツクモス学園塔の階層の四分の一ほど。現況を目にすれば、誰もが広さに圧倒される。
しかし、それ以上に気になるもの、目を惹くものが、床の上に並んでいた。
相変わらずの卵部屋だな。
白く輝く床は黒い球体でビッシリ埋め尽くされていた。色は違えど、蟻の巣の卵部屋といったところ。しかし、耀平は別の生物を想像した。
これは――恐竜の卵だな。
黒い球の直径は2メートル以上も有った。人間の大人をも取り込める。事実、巨大球は「人間が入る」ということを前提として造られていた。
巨大黒球は「ツクモスのコックピットブロック」である。この形状は、全てのツクモスに共通している。しかしながら、操縦機構は世代毎に違っている。
耀平はムラマサを探す必要が有った。
さて、俺の愛機は――っと。
耀平は奥に向かって脚を進めた。巨大黒球に近付いたところで、耀平は意外な事実を直感した。
ビッシリ埋っているように見えるけど、結構隙間が有るんだよな。
巨大黒球の前後左右には、それぞれ二メートルほどの間隔が有った。その間を縫いながら、耀平は奥へ奥へと突き進んだ。
耀平の視界に映った黒球は、その外観に差異は無い。耀平の視覚も、どれも同じものとして捉えている。
それでも、耀平は一度も立ち止まらなかった、その歩みに迷いは無かった。
耀平には「愛機を判別できる」という特技が有った。それを得た理由が、耀平の脳内に閃いていた。
分かる。長い付き合いだから――分かる。
そもそも、耀平の憑依率は一般人レベル。その為、機体を変更ができなかった。 必然的にムラマサ一択。その事実が、耀平とムラマサの繋がりを一層強固なものにしていた。
耀平の感覚では、周囲の黒球は全部ムラマサではなかった。
耀平はムラマサを求めて更に奥へと進んだ。最奥(北東端)までやってきたところで、漸く耀平の脚が止まった。
これだっ。
耀平は、終にムラマサを見付けた。その瞬間、胸の奥がカッと熱くなった。その熱が、口を衝いて出た。
「ただいま」
帰宅の挨拶。耀平にとって、ムラマサは「第二の家」だった。
因みに、学園寮の個室は第三の家である。
黒球を見詰める耀平の顔には満面の笑みが浮かんでいた。しかし、眉根は少し曲がっていた。目の恥に涙が滲んでいた。その感覚は、耀平にもシッカリ直感できた。
うわっ、俺、泣いてるっ!?
耀平は、直ぐ様右袖で涙を拭った。その際、緩んでいた顔も「キリリ」と擬音が見えるほど引き締めた。続け様に脚をシッカリ揃え、目の前にいる最古参の老兵に向かって、
「宜しくお願いします」
深々と頭を下げた。
耀平が職員室を辞した際、居合わせた教職員達は、誰も耀平を見ていなかった。
ところが、出入り口が閉まった瞬間、全員一斉に立ち上げって――
「「「「「頑張れっ!!!」」」」」
耀平に向かって激励の言葉を叫んだ。その際、全員、天井に向かって右拳を突き上げていた。その様子は、残念ながら耀平には感知できなかった。教職員達の想いも、全く届いていない。
しかしながら、耀平は満面の笑みを浮かべていた。足取りも弾んで――スキップしていた。
ああ、早く仮想訓練をしたい。ムラマサに乗りたい。
耀平はスキップしながら光る通路を潜り抜け、そのまま中央エレベーターに飛び乗った。その際、機械音声に行き先を尋ねられ、耀平は即答した。
「仮想訓練階」
耀平の声は弾んでいた。活舌も良かった。百メートル先でも一字一句違わず聞き取れるほどに。
ところが、エレベーターからの反応は無かった。
あれ?
耀平は首をかしげた。脳内には故障の可能性さえ閃いていた。もう一度、言ってみようか――と口を開いた。
その瞬間、聞き慣れた機械音声が響き渡った。
「学籍番号と氏名をお答えください」
耀平にとって、既視感を覚える質問だ。何しろ本日三度目。その事実を直感して、耀平は苦笑しながら回答した。
「J3M108、名取耀平」
「確認しました」
耀平が答えると、機械音声が即応した。その直後、エレベーターが上昇した。その狭い個室の中で、耀平は小躍りしていた。
「早く、早く、早く――」
耀平は逸る気持に、エレベーターは全力で応えた。
耀平の踊りが佳境に差し掛かる前にエレベーターは停止した。それと同時に出入り口が静かに開いた。
着いたっ!!
耀平はエレベーターから飛び降りた。すると、耀平の視界に円筒形のホールが飛び込んできた。その光景は、耀平に既視感を覚えさせた。
エレベーターホールを起点として、東西南北の方向に大道が伸びている。主要通路が十字型なのは教室階層と同じだ。
しかし、全く同じという訳ではなかった。
ここには脇道が無いんだったな。
耀平は素早く視線を巡らせて、東西南北に開いた全ての通路を確認した。そこに人影は――全く無かった。
俺が一番乗りかな?
耀平の口許が吊り上がった。しかし、耀平の眉根は歪んでいる。耀平は――苦笑していた。
まあ、その方が良いか。
このとき、耀平の脳内に「今朝の大衆食堂の出来事」が閃いていた。耀平としては、二度と体験したくない。
耀平は「誰かが来る前に――」と、足早に移動した。その際、耀平は南通路を通った。
仮想訓練階層は、縦横に貫く主要道そのままに、四つの仮想訓練室で構成されている。それらは軍用ツクモスの分類(軽量級、中量級、重量級)毎に編成されている。
それぞれの位置を方位で表すと、軽量級は北西、中量級は南東、重量級は北東となる。
耀平が駆る軍用ツクモス、NTM01ムラマサは、分類上は中量級だ。その事実を鑑みれば、南東に向かうべきところ。
だからこそ、耀平は南側通路を歩いている。しかし、耀平が目指す場所は中量級の訓練室ではなかった。
耀平は南西へ、どの分類にも属さない訓練室へと向かっていた。
その部屋は、名目上は予備となっている。しかし、その実態は物置。最初期に設置されていた旧式ばかりを押し込めている。
全校生徒数凡そ一千人を誇るツクモス学園でも、そんな場所に用が有るという生徒は燿平唯一人。その事実を鑑みるほどに、耀平の喉下まで溜息が込み上げた。しかし、耀平の顔には未だ笑みが残っていた。
仮想訓練室が、丸々俺の個室だもんな。誰にも邪魔されずに済む。
耀平はスキップしながら廊下の最南端までやってきた。そこから西を向いて、円周沿いの通路を歩いた。
暫く進んだところで、耀平の脚がピタリと止まった。続け様に踵を支点に九十度回転して、円心側を向いた。
そこには白い壁が有った。他に何も無い。
ここ――だな。うん、確かここ。
耀平は、立ち止まったまま壁を見詰めていた。
確信は有った。仮想訓練室は、授業で何度か使用している。尤も、それは年に二回だけ。しかも、引率の先生付き。一人で来たのは、実は今日が初めてだった。
このまま待っていれば、良いのかな?
耀平は待った。そのままの状態が三分程続いた。長い。流石の耀平も「自分の勘違い」を想像し始めていた。
その最中、唐突に壁から声が上がった。
「学籍番号と名前をお答えください」
「J3M108。名取燿平」
壁越しの機械音声。その質問に、耀平は即答した。すると、耀平の目の前の壁に筋が入った。
ツクモス学園塔名物、隠し扉。それが開くや否や、耀平は躊躇うこと無く中に足を踏み入れた。
扉の奥は真っ暗だった。それでも、耀平は暗闇の中に全身を押し込めた。
その直後、耀平が入ってきた扉が閉まった。それと同時に、部屋全体が「パッ」と光った。
眩し――くないな。
目に優しい柔らかな光。それが、内部の様子をクッキリ浮き上がらせた。そこは、白亜の広間だった。
その大きさは、ツクモス学園塔の階層の四分の一ほど。現況を目にすれば、誰もが広さに圧倒される。
しかし、それ以上に気になるもの、目を惹くものが、床の上に並んでいた。
相変わらずの卵部屋だな。
白く輝く床は黒い球体でビッシリ埋め尽くされていた。色は違えど、蟻の巣の卵部屋といったところ。しかし、耀平は別の生物を想像した。
これは――恐竜の卵だな。
黒い球の直径は2メートル以上も有った。人間の大人をも取り込める。事実、巨大球は「人間が入る」ということを前提として造られていた。
巨大黒球は「ツクモスのコックピットブロック」である。この形状は、全てのツクモスに共通している。しかしながら、操縦機構は世代毎に違っている。
耀平はムラマサを探す必要が有った。
さて、俺の愛機は――っと。
耀平は奥に向かって脚を進めた。巨大黒球に近付いたところで、耀平は意外な事実を直感した。
ビッシリ埋っているように見えるけど、結構隙間が有るんだよな。
巨大黒球の前後左右には、それぞれ二メートルほどの間隔が有った。その間を縫いながら、耀平は奥へ奥へと突き進んだ。
耀平の視界に映った黒球は、その外観に差異は無い。耀平の視覚も、どれも同じものとして捉えている。
それでも、耀平は一度も立ち止まらなかった、その歩みに迷いは無かった。
耀平には「愛機を判別できる」という特技が有った。それを得た理由が、耀平の脳内に閃いていた。
分かる。長い付き合いだから――分かる。
そもそも、耀平の憑依率は一般人レベル。その為、機体を変更ができなかった。 必然的にムラマサ一択。その事実が、耀平とムラマサの繋がりを一層強固なものにしていた。
耀平の感覚では、周囲の黒球は全部ムラマサではなかった。
耀平はムラマサを求めて更に奥へと進んだ。最奥(北東端)までやってきたところで、漸く耀平の脚が止まった。
これだっ。
耀平は、終にムラマサを見付けた。その瞬間、胸の奥がカッと熱くなった。その熱が、口を衝いて出た。
「ただいま」
帰宅の挨拶。耀平にとって、ムラマサは「第二の家」だった。
因みに、学園寮の個室は第三の家である。
黒球を見詰める耀平の顔には満面の笑みが浮かんでいた。しかし、眉根は少し曲がっていた。目の恥に涙が滲んでいた。その感覚は、耀平にもシッカリ直感できた。
うわっ、俺、泣いてるっ!?
耀平は、直ぐ様右袖で涙を拭った。その際、緩んでいた顔も「キリリ」と擬音が見えるほど引き締めた。続け様に脚をシッカリ揃え、目の前にいる最古参の老兵に向かって、
「宜しくお願いします」
深々と頭を下げた。
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