有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

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第十四話 小妖精

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 学園塔仮想訓練階層・南西、予備仮想訓練室。
 無限と錯覚するほど広大な白亜の空間。その床に並ぶ、直径二メートルの黒球群。その最前列の隅っこ(正面出入り口から見て右。全体から見て南端)に、紺のブレザーに身を包んだ中学三年生の姿が有った。

 名取耀平ナトリ・ヨウヘイは、巨大黒球に向かって最敬礼していた。その奇行の意味は、名取耀平本人にしか分からないだろう。
 他の生徒は、誰もそんなことをしない。しても意味が無い。生徒に限らず、二十二世紀に生きる殆どの人間は「機械に心など無い」と考えている。
 その中に、耀平は含まれていなかった。

 耀平は機械にも心が有ると信じている。
 だからこそ、頭を下げた。
 すると、奇妙なことが起こった。

 巨大黒球の表面に、ポカリと穴が開いた。

 耀平が面を上げると、視界に直径一メートルの大穴が映り込んだ。それを直感した瞬間、耀平は学生鞄を右脇に抱えた。続け様に、穴の縁に左手を掛けて、

「よっこいしょういち」

 おっさん臭い掛け声を上げながら中に入り込んだ。

 黒球の中は、外観に併せているかのような球体型の空間が広がっていた。その中心にマッサージチェアのような、背もたれ付きの黒い座席が設置されていた。それ自体、奇妙と言えなくもない。しかし、それに目を奪われるものは少数派だろう。
 何故ならば、より一層奇妙なものが、椅子の周りに生えていた。

 それは、複数本の操縦桿やキーボード、フットレバー(ペダル)等々。

 椅子には諸々の操縦機器が取り付けられていた。その数は前時代の重機の二十倍強。
 しかし、それでも未だ足りない。ツクモスを意のままに操る為には「別の操縦装置」を使う必要が有った。

 それが「脳波操縦装置ヴェイクス」。

 脳波操縦と組み合わせることで、人間と錯覚するほど滑らかな動きが可能となっている。しかし、それらしい操縦装置は、どこにも見当たらない。尤も、例え目の前に有ったとしても、人間の視力では確認できない。

 脳波操縦装置は細胞ほどの極小の電子チップ、所謂「ナノマシン」だ。

 ナノマシンは黒球内面、表層部分を覆い尽くすように埋め込まれている。操縦者の脳波を全周囲から感知できる仕組みになっている。
 因みに、ヴェイクス偏重の第三世代型であれば、手動装置の総数はムラマサの半分程度。その事実を鑑みると、現況は拷問と言える。
 しかし、耀平にとっては御褒美以外の何ものでもなかった。

 これだよ、これこれ。これがムラマサっ。

 耀平は手動操作が大好きだ。自信も有った。誰にも負けないと自負している。それは、決して独りよがりな思い込みではなかった。
 耀平は、その操縦技術によって、学園上位十六名に食い込んでいる。

 俺の腕前――見せ付けてやる。

 耀平は満面の笑みを浮かべながら座席に尻を埋めた。その瞬間、耀平が潜ってきた穴が縮小、消失した。

「!」

 耀平は閉じ込められた。その事実を直感した瞬間、耀平は息を飲んだ。しかし、不安は覚えなかった。そんな暇も無かった。 
 耀平の視界が闇に支配されていたのは、時間にしてコンマ五秒。
 耀平が息を飲んだ直後、再び球面(内側)が光り出した。それに伴って、耀平の視界に諸々の操作装置が映り込んだ。その一つひとつが目に入る度、耀平の喉が「グビグビ」鳴った。

 触ってみたい。握ってみたい。弄り回したい。

 名取耀平も男の子。ロボット(ツクモス)の操縦席に乗ったなら、操縦したくなる。それが自分の愛機となれば尚更だ。
 しかし、耀平は――堪えた。

「…………」

 耀平は座席の上でジッとしていた。すると、座席の下から「何か」がニュッと突き出した。

 それは黒い円盤だった。直径ニ十一センチ、厚さは一センチほど。

 円盤は耀平の目の前まで上昇して、そこで止まった。その様子を、耀平は息を止めて見守っていた。すると、円盤の上部がパカリと開いた。

 円盤の中は空っぽだ。何も無い。その代わり、何か円盤状のものを嵌め込むような窪みが有った。その直系はニ十センチほど。それを見た瞬間、耀平は即応で動いた。

 耀平は、脇に挟んでいた学生鞄を膝の上に乗せて、中から巾着袋を取り出した。それが視界に入ったところで、続け様に声を上げた。

「『耀蔵ヨウゾウ爺ちゃん』、出番だよ」

 耀蔵爺ちゃん。即ち、耀蔵の曾祖父、名取耀蔵だ。その名前を呟きながら、耀平は巾着袋の中身を取り出した。

 中に入っていたのは耀蔵爺ちゃん――ではなく黒い円番だった。

 耀平は円盤を右手で掴んで、それを目の前に突き上がっていた円盤の中に入れた。その直後、開いていた円盤上部が閉じた。続け様に、燿平が座る座席の下に収納された。

 耀平の円盤が飲み込まれた。その直後、球面(内側)に様々な像が浮かび上がった。
 それは――外の光景だった。

 黒球の内側は全周囲モニターになっていた。耀平の円盤を飲み込んだことで、それが起動した。その光景に、耀平の視線が釘付けになった。思わず「おお~」と声を上げてしまった。しかし、意識を奪われたのは一瞬だった。
 耀平が声を上げた直後、至近から「声」が上がった。

「待ちくたびれたわい」
「!」

 少女の声だ。しかし、その口調は年寄りじみている。それが耳に入った瞬間、耀平は声がした方向――左肩を見た。すると、そこに少女が腰掛けていた。

 歳は十代前半くらい。青いワンピース姿の可愛らしい少女だ。
 しかし、絶対に人間ではない。何故ならば、少女の身長は十五センチほどしかないからだ。

 小さい。余りに小さい。「小妖精」と呼ぶべきか。そんな奇怪なものを目の当たりにして、耀平は――

「ははっ」

 笑っていた。満面の笑みを浮かべながら、小妖精に向かって声を上げた。

「お待たせ、耀蔵爺ちゃん」

 耀平は小妖精を曾祖父として認識していた。当然ながら、耀蔵本人ではない。その事実は、耀平も良く心得ている。そもそも、小妖精には実体が無い。

 小妖精の姿はホログラムだ。その本体は、先程黒球に飲み込まれた黒い円盤。その真の正体は、ツクモスの操縦を補助するコンピュータ。通称「サポートコンピュータ(略称サポコン)」だ。

 サポコンは、ツクモス操縦者なら誰もが持っているものだ。耀平の黒い円盤も、性能的には同程度である。
 しかし、耀平のサポコンには他に類を見ない機能が備わっていた。それが、耀平が小妖精を「耀蔵」と呼ぶ理由だった。

 耀平のサポコンには耀蔵の人格が模写されていた。即ち「人工知能、名取耀蔵」なのだ。そして、耀平の肩に乗った小妖精は――単に耀蔵(AI)の気紛れ、お茶目さが表出した存在であった。
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