有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

文字の大きさ
50 / 69

第四十九話 波切り

しおりを挟む
 真っ白な霧の中に黒い鎧武者が舞い上がった。身長五メートルの巨躯は、重力に引かれるまま沼の中に突っ込んだ。
 その瞬間、沼の水面から「ボッチャン」という擬音が可視化するほど派手な音が鳴った。それに遅れて、噴水のような水飛沫が上がった。水面に幾重もの波紋が広がっていく。
 波紋の中点には、元凶である鎧武者が横たわっていた。

 沼に嵌まった鎧武者。その状況で、ご機嫌になれる人間は、全人類中では少数派だろう。鎧武者の機嫌も、それなりに悪い。その想いは、鎧武者の腹に納まる中学三年生男子の脳内に響き渡っていた。

((これは無いぞ))

 鎧武者、NTM01ムラマサは、搭乗者である名取耀平ナトリ・ヨウヘイに文句を垂れた。それに対して耀平は即答した。

「ごめんて」

 耀平は軽く頭を下げた。その行為は、耀平の左肩に腰掛けた小妖精の目(視覚センサー)には「奇行」として映っていた。

「何を言っとるんだ? それより――」

 小妖精、耀蔵ヨウゾウ(AI)は首を傾げた。
 そもそも、ムラマサの声は耀平にしか届いていないのだ。耀平の行為は、耀蔵(AI)には意味不明だ。
 しかし、耀蔵(AI)に耀平の意図を詮索する機能も無ければ、その気も無い。そもそも、「今」は他所事にかまけている場合ではなかった。

「敵さんがこっちを見とるぞい」

 敵さん。耀平達が嵌った沼の傍に、金ピカ重装騎士が立っていた。

 NTMH05フラガラック。

 敵であるフラガラックの武器は、右手に嵌めた「ギガトンパンチ」という巨手。その握力は、ツクモスの腕さえも容易に引き千切るほど。
 実際、フラガラックの右手の中には、引き千切ったばかりのが収まっている。
 その事実は、耀平達の窮地を意味していた。

 一回戦に続いて、ムラマサは隻腕になってしまった。残る右腕を失えば、ムラマサ(耀平)は敗北する。その可能性を想像して、耀平は直ぐ様ムラマサを起こした。

 幸いにして、沼の深さはムラマサの太腿までしかなかった。その事実は、耀平達にとっては幸運と言える。しかし、窮地から脱している訳ではない。

 ムラマサの脚は「沼」という枷に囚われている。
 対してフラガラックは地上に立っている。しかも、右手のギガトンパンチの中にはが有った。
 その事実は、耀平の額と背中に冷汗を滴らせていた。

 撃ち合いになったら――負ける。

 耀平は直ぐ様ムラマサの向きを司る操縦桿を後退の方向に倒した。続け様に移動用のペダルを踏んで、更に沼の奥へと向かった。
 ムラマサの後退に合わせて、周囲の霧が漆黒の巨躯を隠していく。その様子は、フラガラックの視覚センサーに捉えられていた。

「逃がすかっ」

 フラガラックの腹の中でブラン・マックールが声を上げた。その直後、フラガラックは右手を一振りした。

 フラガラックの右手(ギガトンパンチ)からムラマサの左腕が飛び出した。それも、の状態で。

 ブランは、自分から有利な撃ち合いを捨てていた。
 そもそも、ブランはムラマサの武器を使う気も無ければ、打ち合いで決着をつける気も無かった。

 決着は、この俺の手ギガトンパンチで付けんと気が済まん。

 ブランはムラマサを追って沼に入った。
 ブランとしては、地の底まで追いかけるつもりだった。しかし、その覚悟は必要なかった。
 
 ムラマサは、沼の中心付近で脚を止めていた。

 ムラマサがいる場所は、どうやら他より水深が増している様子。漆黒の下半身は、完全に沼の中に嵌っている。少なくとも、ブランの目にはそのように映っている。
 その事実を直感した瞬間、ブランの端正な口が吊り上がった。

「容赦無く、行かせて貰う」

 ブランは前進を念じた。フラガラックは即応で前進。その野太い太腿で泥濘ぬかるみを引き裂きながら、ムラマサとの距離を詰めていく。

 彼我の距離は一メートルを切った。それでも、ムラマサは下半身を沈めたまま動かない。その眼前に、金ピカ重装騎士が立ちはだかった。
 このとき、フラガラックは太腿から下を沼に嵌めた状態である。
 そう、実際の沼の深度はツクモスの太腿までしかなかった。

 ムラマサが深く沈んでいるように見えたのは、沼の中でからだ。
 ムラマサは腰を屈めながら、右手に打刀を握っていた。

 耀平は「ブランが撃ち合いをしない」と直感した瞬間、右手の装備をライフルから打刀に切り替えていた。それを下段に構えて、沼の中に武器を隠した。

「こういう構え。古い時代劇に有ったよね」

 耀平は肩に座る耀蔵(AI)に声を掛けた。すると、耀蔵(AI)は即答した。

「何とか狼の、『水鴎スイオウ流、波切なみきりの太刀』じゃな」
「そう、それ」

 耀平の脳内に、とある時代劇の決闘シーンが閃いた。

 水鴎流、波切りの太刀。
 水面下に打刀を隠した構え。その状態のまま、相手が間合いに入るのを待つ。そこに踏み込まれた瞬間、水上に向かって斬り上げ、続け様に大上段から切り下す。
 相手を謀るが故に、邪道ではある。それと分かっていれば、対策も有る。しかし、ブランの脳内に波切りの太刀は無かった。

 耀平は、脳内で技の軌道をなぞっていた。その最中、耀平の脳内にムラマサの声が響き渡った。

((なるほど。そういう技なのか))

 ムラマサの言葉に、耀平は「ギョッ」と擬音を出しながら目を開いた。思わず反応し掛けた。しかし、他所事にかまけている場合ではなかった。

 耀平の視界に映った金ピカ騎士フラガラックが、打刀の間合いに入っていた。その事実を直感した瞬間、耀平は神速で動いた。

 このとき、フラガラックはムラマサの右肩に右手ギガトンパンチを伸ばしていた。それを遮るように、ムラマサは立ち上がりながら逆袈裟ぎゃくけさに打刀を振り上げた。
 
 目には目を。歯には歯を。奇策には奇策っ!

 フラガラックの右腕(肘先)に打刀の刃先が奔った。
 その直後、巨大な右手が空中を舞った。その事実は、ブランの視界にハッキリ映っていた。

「くそっ!?」

 ブランは目を大きく開きながら、距離を取ろうと後退を念じた。フラガラックは、即応で後退した。その反応速度は、第一世代型(ムラマサ)を超越している。
 しかし――逃げ切れなかった。

 このとき、ムラマサは耀に波切りの太刀を実行していた。
 
 ブランが後退を念じた刹那、ムラマサは既に打刀を最上段に構えていた。フラガラックが後退するより先に、それを振り下ろした。

 打刀の刃先が、フラガラックの左肩に当たった。それを直感する間も無く、ムラマサは打刀を振り抜いた。それと殆ど同時に、フラガラックは後退した。

 フラガラックは後退し続けた。その最中、左肩の付け根がズレた。
 フラガラックが移動するほどに、左肩のズレは大きくなった。最終的に、左肩が腕ごと外れて――そのまま沼の中に沈んだ。
 その事実は、耀平の目にも、ブランの目にも、ハッキリ映っていた。
 その事実の意味が、白い靄の中に響き渡った。

「そこまで。勝者、J3M108――名取耀平」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...