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第五十三話 亡霊の記憶
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西暦二千百三十年、十二月一日(金)。
日本地区の時間では午前九時三十分を回ったところ。時差の関係で真夜中の地区もあるだろう。
しかしながら、世界中の殆どの人は起きていた。興奮し、鼻息を荒げながら、熱い視線を日本地区の一箇所に釘付けにしている。
そこは、日本のとある県の郊外に設けられた巨大な箱庭であった。
高さ五十メートルの高壁が、直径一キロメートルの真円を描いてそびえ立っている。その内側には都市が丸ごと収まっている。
都市の外観を平たく言うと、地方の駅前だろうか。
南北を貫く四車線のメインストリート沿いに、全高三十メートル超のビル群が立ち並んでいる。そのビル群の裏にも別のビル群が立ち並んでいる。それなりに人口も多いと予想できる。
しかしながら、この都市に住む者はいない。そもそも、立ち並ぶビル群は全て偽物なのだ。コンクリートの塊を、それっぽく見せているだけのハリボテである。
それを建造した意図は障害物。
現況は、第三演習場。通称「市街地」。
市街地なれど、無人の地。しかし、今は二つの人影が有った。
都市の端、東西の壁際に、それぞれ身長五メートルの巨人が立っていた。
東側に立つ人影は、漆黒の鎧武者。その両手に、武者らしからぬ銃火器を一丁ずつ握っている。
右手にアサルトライフル。左手に大口径ライフル。
一応、武者らしく打刀も装備している。腰部背面で真横(水平)に差している。
その奇妙な鎧武者の名前を「NTM01ムラマサ」という。
西側に立つ人影は、白金の重装騎士。その両手に、騎士らしからぬ銃火器を握っている。
左右それぞれの手に、マガジン式の大型グレネードランチャーを一丁ずつ。その大きな背中には、ランチャーの予備弾倉を背負っている。
奇妙を通り越して異様である。最早「騎士」というより「砲手」である。しかしながら、一応、騎士らしい武器も持っていた。
弾倉の下に隠れて、腰部背面に直剣が真横(水平)に差している。弾倉の邪魔にならないよう配慮して、その大きさは小振り。
その異様な騎士の名前を「NTMH05Cマック・ア・ルイン」という。
地方の都市に現れた漆黒の鎧武者と白金の重装騎士。
彼我の距離は凡そ一キロメートル。その間にはビル群と言う名の障害物が立ち並んでいた。尤も、マック・ア・ルインにとって、ビル群は役者不足と言える。
後三十分もすれば、ビル群は破壊され尽くす羽目になる。そのような状況を望む者は、存外に多い。世界中の視聴者達が興奮する理由の一因である。
しかしながら、それを望まない者も、少なからずいた。
鎧武者――ムラマサの操縦者、名取耀平は、その端正な口を「へ」の字に曲げて毒吐いた。
「これが倒れてきたら面倒だなあ」
全高三十メートルのコンクリート塊に押し潰されて、無事に済む人間はいない。それがツクモスであったとしても。
ツクモスを守護するIN範囲は、衝撃ならば無効化できる。しかし、質量までは無効化できない。
耀平が告げた最悪の可能性。それを想像していた者は、耀平だけではなかった。
耀平の言葉を受けて、耀平の左肩に座った小妖精が声を上げた。
「あっちは、それを狙っておるだろう」
耀蔵(AI)は、サブモニターを展開した。そこには、ズラリと重量級専用超火力銃火器が並んでいた。
その中に、現在マック・ア・ルインが装備している武器も含まれている。その事実を、耀平達は未だ知らない。しかしながら、何となく予想はしていた。
「爺ちゃん。だからって、広い道に出るのもどうだろう?」
「的になりに行くようなものかの」
「あっちの有効射程の方が長いだろうし」
「弾がデカいからの」
「うん。やっぱり『こそこそ作戦』で行くしか」
「『台所のゴキブリ作戦』じゃな」
「言い方悪っ。裏道をコッソリ近付いて――」
耀平達は、今日の為に練った作戦を確認し合った。その最中、耀平の脳内に忠誠的な男性の声が響き渡った。
((耀平。何とか接近戦に持ち込めないか?))
接近戦。その言葉に、耀平は即応した。
「接近戦って――もしかして、近接格闘戦?」
耀平としては先の声の主に答えたつもりだった。
ところが、耀蔵(AI)が反応した。
「唐突に、何を言っとるんじゃ?」
耀蔵(AI)は首を傾げた。その反応は、耀平の視界の端に入っていた。それを直感した瞬間、耀平は「あ」と声を上げた。
「そう言えば、言ってなかったか」
「何をじゃ?」
「前に、『声が聞こえる』って言ってたでしょ」
「ああ。何回か聞いたことが有るな」
「実は――」
耀平は、耀蔵(AI)に「ムラマサの声が聞こえる」という事実を伝えた。その内容は、普通のサポートコンピュータには理解できない。そもそも存在しない情報なのだ。
しかしながら、耀平のサポコンは普通ではなかった。そこには「耀蔵の人格」が模写されていた。
耀平の説明の途中、 耀蔵(AI)は右拳で左掌をポンと打った。
「ああ、『ツクモスの声』か」
「えっ? あ、うん。正解」
耀蔵(AI)の言葉に、耀平は小さく頷いた。すると、耀蔵(AT)の可憐な顔に満面の笑みが浮かんだ。
「そうか、お前にも聞こえるようになったか」
耀蔵(AI)は、ウンウンと頻りに頷いていた。その様子は、耀平の目にシッカリ映っていた。
「えへへ」
耀平の顔に、照れくさそうなハニカミの笑みが浮かんだ。
この瞬間、二人の意識は十年前の病室に戻っていた。しかし、その幻想は一瞬で雲散霧消した。
耀平が「えへへ」と笑った直後、そびえ立つビル群に機械音声が響き渡った。
「ツクモス学園最強決定戦、準決勝、第一試合――間も無く開始します」
日本地区の時間では午前九時三十分を回ったところ。時差の関係で真夜中の地区もあるだろう。
しかしながら、世界中の殆どの人は起きていた。興奮し、鼻息を荒げながら、熱い視線を日本地区の一箇所に釘付けにしている。
そこは、日本のとある県の郊外に設けられた巨大な箱庭であった。
高さ五十メートルの高壁が、直径一キロメートルの真円を描いてそびえ立っている。その内側には都市が丸ごと収まっている。
都市の外観を平たく言うと、地方の駅前だろうか。
南北を貫く四車線のメインストリート沿いに、全高三十メートル超のビル群が立ち並んでいる。そのビル群の裏にも別のビル群が立ち並んでいる。それなりに人口も多いと予想できる。
しかしながら、この都市に住む者はいない。そもそも、立ち並ぶビル群は全て偽物なのだ。コンクリートの塊を、それっぽく見せているだけのハリボテである。
それを建造した意図は障害物。
現況は、第三演習場。通称「市街地」。
市街地なれど、無人の地。しかし、今は二つの人影が有った。
都市の端、東西の壁際に、それぞれ身長五メートルの巨人が立っていた。
東側に立つ人影は、漆黒の鎧武者。その両手に、武者らしからぬ銃火器を一丁ずつ握っている。
右手にアサルトライフル。左手に大口径ライフル。
一応、武者らしく打刀も装備している。腰部背面で真横(水平)に差している。
その奇妙な鎧武者の名前を「NTM01ムラマサ」という。
西側に立つ人影は、白金の重装騎士。その両手に、騎士らしからぬ銃火器を握っている。
左右それぞれの手に、マガジン式の大型グレネードランチャーを一丁ずつ。その大きな背中には、ランチャーの予備弾倉を背負っている。
奇妙を通り越して異様である。最早「騎士」というより「砲手」である。しかしながら、一応、騎士らしい武器も持っていた。
弾倉の下に隠れて、腰部背面に直剣が真横(水平)に差している。弾倉の邪魔にならないよう配慮して、その大きさは小振り。
その異様な騎士の名前を「NTMH05Cマック・ア・ルイン」という。
地方の都市に現れた漆黒の鎧武者と白金の重装騎士。
彼我の距離は凡そ一キロメートル。その間にはビル群と言う名の障害物が立ち並んでいた。尤も、マック・ア・ルインにとって、ビル群は役者不足と言える。
後三十分もすれば、ビル群は破壊され尽くす羽目になる。そのような状況を望む者は、存外に多い。世界中の視聴者達が興奮する理由の一因である。
しかしながら、それを望まない者も、少なからずいた。
鎧武者――ムラマサの操縦者、名取耀平は、その端正な口を「へ」の字に曲げて毒吐いた。
「これが倒れてきたら面倒だなあ」
全高三十メートルのコンクリート塊に押し潰されて、無事に済む人間はいない。それがツクモスであったとしても。
ツクモスを守護するIN範囲は、衝撃ならば無効化できる。しかし、質量までは無効化できない。
耀平が告げた最悪の可能性。それを想像していた者は、耀平だけではなかった。
耀平の言葉を受けて、耀平の左肩に座った小妖精が声を上げた。
「あっちは、それを狙っておるだろう」
耀蔵(AI)は、サブモニターを展開した。そこには、ズラリと重量級専用超火力銃火器が並んでいた。
その中に、現在マック・ア・ルインが装備している武器も含まれている。その事実を、耀平達は未だ知らない。しかしながら、何となく予想はしていた。
「爺ちゃん。だからって、広い道に出るのもどうだろう?」
「的になりに行くようなものかの」
「あっちの有効射程の方が長いだろうし」
「弾がデカいからの」
「うん。やっぱり『こそこそ作戦』で行くしか」
「『台所のゴキブリ作戦』じゃな」
「言い方悪っ。裏道をコッソリ近付いて――」
耀平達は、今日の為に練った作戦を確認し合った。その最中、耀平の脳内に忠誠的な男性の声が響き渡った。
((耀平。何とか接近戦に持ち込めないか?))
接近戦。その言葉に、耀平は即応した。
「接近戦って――もしかして、近接格闘戦?」
耀平としては先の声の主に答えたつもりだった。
ところが、耀蔵(AI)が反応した。
「唐突に、何を言っとるんじゃ?」
耀蔵(AI)は首を傾げた。その反応は、耀平の視界の端に入っていた。それを直感した瞬間、耀平は「あ」と声を上げた。
「そう言えば、言ってなかったか」
「何をじゃ?」
「前に、『声が聞こえる』って言ってたでしょ」
「ああ。何回か聞いたことが有るな」
「実は――」
耀平は、耀蔵(AI)に「ムラマサの声が聞こえる」という事実を伝えた。その内容は、普通のサポートコンピュータには理解できない。そもそも存在しない情報なのだ。
しかしながら、耀平のサポコンは普通ではなかった。そこには「耀蔵の人格」が模写されていた。
耀平の説明の途中、 耀蔵(AI)は右拳で左掌をポンと打った。
「ああ、『ツクモスの声』か」
「えっ? あ、うん。正解」
耀蔵(AI)の言葉に、耀平は小さく頷いた。すると、耀蔵(AT)の可憐な顔に満面の笑みが浮かんだ。
「そうか、お前にも聞こえるようになったか」
耀蔵(AI)は、ウンウンと頻りに頷いていた。その様子は、耀平の目にシッカリ映っていた。
「えへへ」
耀平の顔に、照れくさそうなハニカミの笑みが浮かんだ。
この瞬間、二人の意識は十年前の病室に戻っていた。しかし、その幻想は一瞬で雲散霧消した。
耀平が「えへへ」と笑った直後、そびえ立つビル群に機械音声が響き渡った。
「ツクモス学園最強決定戦、準決勝、第一試合――間も無く開始します」
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